081 日本企業の変質 - 稼げないけど儲かる主体へ

1. バブル崩壊を機に停滞する企業活動

前回までは、家計(世帯)の変化について取り上げてきました。
家計、企業、金融機関、政府、海外の主体のうち、家計だけ純金融資産が増大していて豊かになっている状況のはずですが、実際には高齢者や一部富裕層に資産が集中し、現役世代の中所得層はむしろ困窮化しているようです。

このような中所得層を中心にして、世帯主の収入が減り、税負担が増える中で、消費を減らして、共働きを増やす事で生活を支えている様子が窺えます。
確かに近年世帯収入は増えているのですが、ピークから見れば減少していて、残念ながら生活が豊かになっているとは言えません。
消費税や社会保障負担などの負担が増えている事も大きな影響していると思いますが、世帯主の収入が減っている事自体が大きな要因ではないでしょうか。
男性労働者はどの世代でも、1990年代のピークからは給与水準が下がっています。

2005年から2018年の変化だけ見ても、他の先進国では2割以上は平均給与が増加しています。
アメリカで40%、ドイツで54%、イギリスで36%、イタリアでも20%増えているのです。
一方日本は8%です。(ピークである1997年から見るとむしろマイナスになっています)
 参考記事: 実質成長・名目停滞の日本経済

労働者への給与を支払うのは企業です。
今回からは、日本企業がどのような状況なのかフォーカスしていきたいと思います。
まず日本企業の全体像を把握するために、企業全体の時系列データを見ていきましょう。

日本 法人企業 売上高・付加価値・給与総額・営業利益

図1 売上高・付加価値・給与総額・営業利益 全規模
(法人企業統計調査 より)

まず、図1が日本企業全体の年間の企業活動(フロー)のうち、売上高(黄色・右軸)、付加価値(青・左軸)、給与総額(緑・左軸)、営業利益(赤・左軸)を示したものです。

売上高は1990年まで順調に増加していましたが、1990年を境に完全に横ばいとなっています。
1990-1991年はバブル崩壊の時期ですね。

2002年から2005年頃にかけていったん上昇していますが、2008年を底にまた下がり、そこからまた上昇基調にはなっています。
直近では、1535兆円という規模です。
30年近く1,500兆円前後で停滞が続いていますね。

付加価値は、企業が生み出した仕事の価値です。
GDPに加算される数値で、最も重要な経済指標と言えます。
感覚的に言えば、売上高から外部購入費用を引いた粗利に近いものですね。

付加価値も売上高とほぼ連動している様子がわかります。
直近では314兆円という水準です。
GDPが550兆円程ですので、GDPの約6割は法人企業統計調査で対象となる企業が生み出している事になります。
(このデータには、金融機関や個人事業主、政府部門は含まれていません)

給与総額は、役員の給与・賞与と従業員の給与・賞与の合計額です。
給与総額も売上高の推移と緩やかに連動していて、1994年あたりからほぼ一定水準で停滞していますね。

2008年あたりから、売上高も付加価値も上昇傾向ですが、その増え方に対して給与総額の増え方がかなり緩やかである点もポイントだと思います。

そもそも給与総額全体が増加していないのに、働く人が増えているわけですから、1人あたりの賃金が下がるのは当たり前ですね。。
例えば、1999年には法人企業で働く労働者が3,418万人だったのに対して、2018年には3,735万人と1割程度増えています。
給与総額は直近では185兆円です。

本業の儲けを示す営業利益も同じような推移で、2018年で68兆円程度です。
まず、日本企業がバブル崩壊を機に付加価値を稼げなくなった事がわかると思います。
そして、最も重要な労働者の賃金も停滞している事は押さえておくべきでしょう。

こういった日本のデータだけ見ると、こういうものなのでは?と思う方もいると思いますので、これが一体どういうことなのか、下の図を見ていただければその深刻さがわかると思います。

GDP 名目 成長率

図2 名目GDP成長率比較
(Penn World Table 9.1)

図2は先進主要国の名目GDP成長率を表したグラフです。
GDPは付加価値の総額ですので、企業の生み出す付加価値と強い関係があります。

1997年を100とした場合の成長率を示しています。
黒い線が一定割合での成長曲線です(実線が2%、破線が3%、点線が4%)。

日本だけがこの20年間で成長ほぼゼロです。
比較的低成長なドイツ、イタリアでもGDPは60%程度増えていて、年率2%~3%の水準で成長しています。

フランスが80%程度増の年率3%程度、アメリカ、イギリスが120%程度増で年率4%程度の成長がある事が分かります。
先進国と言えどもこれくらいの経済成長を遂げているわけですね。

ちなみに韓国は約3倍、中国は約10倍の経済成長をしています。
どれだけ日本だけが経済停滞を続けているのかがわかるのではないでしょうか。

2. 利益は増大、税金は停滞

続いて、企業活動の利益やその分配方法なども見ていきましょう。

日本 法人企業 配当金・社内留保・当期純利益・法人税等

図3 配当金・社内留保・当期純利益・法人税等・営業外損益 全規模
(法人企業統計調査 より)

図3が、企業の配当金(青)、社内留保(緑)、当期純利益(紫)、法人税等(橙)、営業外損益(赤)です。
ちょっと詰め込みすぎて見難いのですが、ご容赦下さい。

横ばいだったり、上昇したりしていますが、順にみていきましょう。
まず、税引き後の当期純利益(紫)です。
1990年に一度ピーク(18兆円程)となった後は停滞しますが、2005年にかけてピークをつけ2008年(リーマンショック)で急減した後に急上昇しています。
直近ではプラス62兆円の当期純利益となります。

一方で、法人税・事業税などの税金については、当期純利益と多少の連動がありますが非常に緩やかな推移です。
1990年のピーク(21兆円)に対して、直近でも20兆円と超えていない状況です。

営業外損益は、2003年ころまでにかけてマイナスでしたが、それ以降はプラスに転じて直近では15兆円のプラスです。
本業以外の収益がプラスに寄与しているという事ですね。
ここにはたとえば企業の海外展開により、海外子会社から受け取る配当金なども含まれると思います。

純利益の分配である、社内留保配当金についても見てみましょう。
配当金は一貫して上昇基調です。
2005年に一度ピークをつけて減少しますが、趨勢的には右肩上がりですね。
直近では26兆円になります。

社内留保は当期純利益と連動していて、マイナスの時もありますが基本的には右肩上がりと言えそうです。
直近では36兆円です。

当期純利益の分配としては、配当金を優先して、残ったものを社内留保としているような印象ですね。

いずれにしろ、売上高や付加価値、給与総額がほとんど成長していない中で、利益だけは極端に増えているというのが特徴的です。

3. 企業は豊かになり続けている

企業の活動を、資産や負債といったストック面でも眺めてみましょう。

日本 法人企業 資産・負債・純資産

図4 資産・負債・純資産 全規模
(法人企業統計調査 より)

図4が企業全体の資産(青)、負債(赤)、純資産(緑)を示します。
資産も負債も鏡に映したように対称に見えますが、徐々に資産側が増えている(純資産がプラス)様子がわかると思います。

1995年頃にどちらもピークをつけ、いったん減少して停滞しますが、2002年頃から増大基調となります。
直近では、資産1,800兆円、負債1,043兆円、純資産(資本)756兆円となります。

売上高も付加価値も、給与総額も停滞している企業ですが、営業外の収益を増やし、配当金を増やしながらも、社内留保を積み増して純資産が増え続けている状況ですね。
既に750兆円以上も純資産が積みあがっています。

これが設備投資などに回っていれば良いと思いますが、日本企業は国内での設備投資は停滞し、海外投資や金融投資を増やしている状況です。

4. 企業経営の変質

今回は、まず企業の全体像を把握すべく、全ての規模の企業活動の統計データを見てみました。
企業活動そのものは停滞し、従業員の賃金を抑制したり、営業外の収益を増やし純利益を確保して、配当金を払いつつも社内留保を増やし、純資産を増やしているという企業の姿が見えてきました。

本来は、売上や付加価値が上がり、従業員の賃金を増やしながら、利益を確保し、配当金や社内留保を増やすという変化となるはずですね。
少なくとも他の先進国では、そのような状況になっているはずです。
他国ではGDPも平均給与も上がっています。

日本は少子高齢化で人口が減っていくのだから、売上高が上がらないのは当然というご意見もあるかもしれませんが、売上高が停滞し始めたのは1990年の事です。
この時期はまだ人口も増加している時期です。
むしろ日本経済に起こった大きな出来事と言えば、バブルとバブル崩壊ですね。

バブル期に企業は過剰に負債と設備を抱え、その延長上で1990年代中盤に経済指標も極めて高い水準に達したのは事実と思います。

1990年のバブル崩壊と1997年を転換点として、企業活動が変化しているように見受けられます。
売上は一定水準に保ちながら、人件費を抑制して利益を確保するという考え方が、平成時代の企業経営のスタンダード(成功モデル)となってしまったのかもしれませんね。

企業経営の考え方が「事業投資により付加価値や生産性を上げながら、労働者の賃金を上げる事で、国民が豊かになりながら企業も成長していく」というものから、「人件費というコストをできる限り抑えて、本業以外にも収益を得ながら短期的な利益を追求していく」事に変質していっているように思います。

皆さんはどのように考えますか?

参考:最新データ

(2023年8月追記)

日本 法人企業 付加価値・給与総額

図5 日本 法人企業 付加価値・給与総額
(法人企業統計調査より)/

日本 法人企業 当期純利益・営業外損益・配当金

図6 日本 法人企業 当期純利益・営業外損益・配当金
(法人企業統計調査より)

図5、図6がそれぞれ2021年まで延長したグラフです。

図5は日本の法人企業の付加価値と給与総額ですが、2019年からコロナ禍の影響を受けて大きく落ち込んでいる様子がわかります。
ただし、2021年にはコロナ禍前に近い水準を回復していますね。

図6は当期純利益、営業外損益、配当金ですが、コロナ禍により当期純利益は大きく落ち込みますが、やはり2021年には以前と同等の水準まで回復しています。

一方、営業外損益は大きく上昇していて、プラス30兆円の水準に達していますね。
配当金もやや落ち込んだ後、コロナ禍前を大きく超える水準に達しています。

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