073 結局日本の経済の何が悪いの?

1. 日本経済の特徴を振り返る

前回は、日本銀行の資金循環統計の中で「家計」、「企業(非金融法人企業)」、「金融機関」、「政府」、「海外」の経済主体のうち、「金融機関」についての「金融資産」、「負債」及びその正味の「金融資産・負債差額」について取り上げました。

一連の経済主体のデータを見てきた中で、それぞれの特徴が分かってきましたのでまとめてみましょう。
( )内は直近(2018年)の金額です。

<家計>
・ 純資産が一方的に増えている(約1,500兆円)。
・ 特に現金・預金(約1,000兆円)が増えているが、将来受給する予定の年金など受給権(約500兆円)も増えている
・ 負債(特に住宅貸付)は増えていない(約300兆円)。

<企業(非金融法人企業)>
・ 純負債は停滞し、一定水準(約600~800兆円)で推移している
・ 資産は停滞しているが、直近では現金・預金や対外純資産増加でやや増加している(1,200兆円)
・ 負債は貸し出しが停滞している(約500兆円)が、株式が増えている(約1,100兆円)

<政府>
・ 純負債が一方的に増えている(約700兆円)
・ 資産は対外証券投資(約200兆円)など若干増えている(約600兆円)。
・ 負債は国債などの債務証券(約1,100兆円)が増え続け、一方的に増加傾向(約1,300兆円)。

<海外>
・ 純負債が一方的に増えている(約400兆円)
・ 資産は株式、債務証券、貸出などで増加傾向(約700兆円)
・ 負債は貸出(約200兆円)、対外直接投資(約200兆円)が増え、さらに対外証券投資(約600兆円)が大幅に増えて増加傾向(約1,100兆円)

<金融機関>
・ 純資産はほぼ0で横ばい、直近で少しだけプラス(約150兆円)
・ 資産は横ばいから直近で増加傾向(約4,100兆円)、貸し出しが停滞(約1,400兆円)する代わりに債務証券、現金・預金が増える
・ 負債は横ばいから直近で増加傾向(約3,950兆円)、急激に現金・預金が増える

それぞれについては、ざっと上記のような特徴があるようです。

家計の純資産が増え続けている裏には、企業や家計が負債を増やさなくなった代わりに、政府と海外が純金融負債を増やし続けているという事がわかりました。
経済においては、「誰かの純金融資産は誰かの純金融負債」といわれますので、誰かが負債を増やさないと誰かの金融資産が増えません。
日本では、家計と企業が1991~1997年あたりをピークにして、負債が増えていません。

通常の経済では、企業が負債を増やして、投資を行い、生産性や付加価値が向上し、利益が増え、従業員(私たち)の所得が増え、投資や消費が増え、、という循環になるはずですね。
投資を行うには需要が増える事が予測されなければいけませんが、家計の消費は停滞しています。
 参考記事: お金を使わなくなったのは誰か
 参考記事: 消費→成長が止まった日本経済

家計も、住宅貸付や自動車ローンなどの負債を増やして、家や車などの資産を増やし、生活満足度を向上させたりします。
この借入という負債を負う事で、住宅メーカーや自動車メーカーの仕事が増え、その従業員の所得が増えて、、、となるはずですね。

2. 借金をしなくなった企業と家計

日本ではそもそもの企業や家計の消費や投資(負債)が増えないので、国内での需要が少なくなっているわけですね。
それを政府が国債・財政支出を増やして負債や消費を増やす主体となって、肩代わりしている状況です。

あるいは、企業や政府、金融機関は対外証券投資や対外直接投資という形で、国内よりも海外に投資を行って金融資産を増やしている状況です。

政府の負債の多くは「国債」になります。
政府が国債を発行して、市中にお金を増やす仕組みが日銀による国債買入という行動のようです。

日本銀行 金融資産・負債 積上 日銀 資金循環

図1 日本銀行 金融資産・負債 積上げ
(日本銀行 資金循環統計 より)

図1が日本銀行の金融資産・負債のグラフです。
2012年あたりでは、金融資産では債務証券(主に国債)が、負債では現金・預金が急激に増えています。
直近では金融資産は586兆円、負債は552兆円です。

日本銀行 金融資産・負債 詳細 日銀 資金循環

図2 日本銀行 金融資産・負債 詳細
(日本銀行 資金循環統計 より)

図2が日本銀行の金融資産・負債の詳細グラフです。
2010年以降で資産側の「債務証券」と負債側の「現金・預金」の急激な増大が見られます。
どちらもこの期間で約400兆円も増大しています。

まるで鏡に映したかのように、増え方が対称的ですね。
これが恐らく、国債を購入して政府に対する金融資産が増え、その分日銀当座預金や現金としての負債が増えている事を表していると思います。

金融機関(日銀以外) 金融資産・負債 積上 日銀 資金循環

図3 金融機関(日銀以外) 金融資産・負債 積上
(日本銀行 資金循環統計 より)

金融機関 日銀以外 金融資産・負債詳細

図4 金融機関(日銀以外) 金融資産・負債 詳細
(日本銀行 資金循環統計 より)

ちなみに、図3、図4が日銀以外の金融機関の金融資産・負債のグラフです。

特に図4の詳細グラフを見ていただきたいのですが、2012年以降に債務証券が減って、現金・預金が増えています。
日銀が国債を市中銀行から買い取って、現金(日本銀行券)や日銀当座預金という負債を増やしているという事がここにも表れていますね。

単純に資産側の「債務証券」が「現金・預金」に置き換わっただけ、とも見えますが。。
出回るお金が増えれば、インフレ率が上がり、経済は上向くという理論に基づくようですが、期待されているほどインフレ率は上がっていませんね。
私にはそのあたりの理屈はよくわかりませんが、「日銀が何かをしている」という事は読み取れますね。
 参考記事: そもそも物価ってなに?

3. 貧困化する労働者と、豊かになる家計の謎

結局国内の実経済が活発かどうかは、銀行の資産側の「貸出」の額になると思います。
確かに2010年以降、やや貸出は増えています。
1,200兆円→1,400兆円なので、200兆円くらいでしょうか。

日本銀行が国債を買い入れたのは、約400兆円です。
私には、日銀が国債を買い取ることで、市中銀行の資産が債務証券から現金・預金に置き換わっただけに見えます。
(専門的な事はわかりませんので、詳しい方がいらっしゃればこの辺りの仕組みについて教えてください)

直近でこの金額の推移が鈍化しているのは、市中銀行の所持している国債が減ってきているからで、買い取れる国債が無くなりつつあるという事のようです。
(なので、逆に政府がもっと国債を発行するべき、という意見もあるようです)

今までブログで取り上げてきた内容と、今回の一連の資金循環統計を総合的に踏まえたうえで、私が日本経済を上向かせるために必要と思う事は次のような事です。

① 企業が投資(設備投資、人材投資、技術投資)を増やし、モノやサービスの付加価値を向上させ、利益を上げる(普通の経済活動)
  → 企業業績と税収が上がる
② 企業が付加価値の増大に応じて従業員の給与水準を引き上げる
  → 消費需要と税収が上がる
③ 家計の消費が増える
  → 供給力に対して需要が増えるのでインフレ状態になる
④ 企業が更に投資を増やし、、、、

このような通常の経済サイクルに入る事だと思います。
日本は1991年以降で、そもそもの①と②の段階で止まってしまっているのではないでしょうか。

今は非常時(コロナという意味ではなく、長期的なデフレ)なので、政府の支出を増やして需要を支えするという意見もあるようです。
ただし、本来負債を増やす主体であるべき企業が負債を増やさず、むしろ金融資産ばかりを増やす主体に変貌してしまっています。
金融資産を増やして、労働者の所得も増えれば問題ないと思うのですが、残念ながら労働者の給与は増えずに低所得化しています。
 参考: 私たちはどれだけ貧困化したのか

平均給与の推移 男性 事業所規模・年齢層別

図5 平均給与の推移
(民間給与実態統計調査)

特にひどいのは、図5のように男性の給与水準が軒並み減っている事ですね。
年齢別、企業規模別の平均給与の推移ですが、全ての区分で平均給与が減っている事が示されています。
そして消費も増えていないため、企業は国内ビジネスで稼ぐことができず、金融・海外投資を増やしているという循環に陥っているという関係なのだと思います。

経済停滞の理由として、消費税や、財政支出の僅少さなどを挙げる方もいらっしゃると思います。
今までの統計データを踏まえるならば、企業が日本の労働者や消費者をある種見限ってしまって金融投資や海外投資に活路を求めた結果、自己実現的に国内経済の停滞が進んだとも考えられないでしょうか。
確かに、人口減少が進んで市場が縮小する事が分かっている日本でわざわざビジネスを拡大しても仕方ない、という見方もあるのかもしれません。
しかし、人口減少そのものが、経済的理由による非婚化の末の少子化という見立てもあります。
 参考記事: はたして結婚は贅沢なのか!?

不思議なのはこれまでさんざん労働者の貧困化について取り上げてきましたが、資金循環統計で見る限りは家計は右肩上がりに増え続けている事です。
統計的に見れば、国民全体は豊かになり続けているわけです。

この矛盾は一体どういう事でしょうか?
私たちは豊かになっているのでしょうか?貧困化しているのでしょうか?
もう少し家計の謎を解き明かしていく必要性があるように思います。

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