045 日本人の誰が安いのか? - 月額賃金で見る新興国との差

1. それほど低くないワーカーの賃金

前回は、Penn World Table 9.1のデータから、世界の国と地域の1人当たりGDPを取り上げました。
やはり1人あたりGDPで見ると、日本の存在感は薄れ、新興国などに追い上げられている状況が分かりました。

今回はより具体的な指標として、ワーカーエンジニア中間管理職などの主に製造業における職級ごとに、新興国も含めた給与水準を比較してみたいと思います。
今回取り上げるのは、日本貿易振興機構(JETRO)で公表している、投資関連コスト比較調査です。
今回は最新(2020年現在)の2018年のデータを取り扱います。

ワーカー 月額賃金 2018年

図1 ワーカー月額賃金
(JETRO 投資関連コスト比較調査より)

図1に、ワーカー(一般工職)の月額賃金を高い順に並べたグラフを示します。
単位は$です。

それぞれの国と地域名であらわされていますが、実際には日本は横浜、アメリカはニューヨークなどの代表的な都市での調査結果となります。
また、調査結果は実際に現地に進出している日系企業への聞き取り調査などで、サンプル数も必ずしも多くありません。
統計データ中で範囲で示されているものについては、中間値を取り扱います。
したがって必ずしも正確な統計データとは言えませんが、逆により実態的な数値とも言えると思います。
さて、ワーカーの月額賃金ですが、スイスは別格としても、ドイツでは4,389ドルと突出しています。

西欧諸国が上位を占めますが、日本は2,834ドルと比較的上位に位置しています。
他のG7各フランス、イギリス、カナダ、イタリアよりも高い水準ですね。
ロシア、ブラジル、中国は700~1,000ドル程度と、日本に比べて1/3~1/4程度といった水準です。

2. エンジニアに価値を置かない日本

エンジニア 月額賃金 2018年

図2 エンジニア月額賃金
(JETRO 投資関連コスト比較調査より)

図2はエンジニア(中堅技術者)の月額賃金です。
アメリカ(7,627ドル)やドイツ(6,228ドル)が大きく数値を伸ばしています。
続いてG7各国が続きます。

イタリア5,328ドル、フランス5,087ドル、イギリス4,684ドル、カナダ3,628ドルに対して、日本は3,595ドルとG7中最下位です。
ブラジルやUAE、南アフリカなどよりも低い数値となっています。

ロシアが2,502ドル、中国が939ドル、インドが610ドルといった水準です。

3. 中間管理職になっても増えない賃金

中間管理職 月額賃金 2018年

図3 中間管理職 月額賃金
(JETRO 投資関連コスト比較調査より)

図3は中間管理職(課長クラス)の賃金比較です。

アメリカ13,497ドル、ドイツ10,322ドルなどは突出しています。
フランス7,119ドル、イギリス6,503ドル、カナダ5,151ドル、イタリア4,844ドルのG7各国に続き、日本は4,585ドルでG7中最下位、全体では中位グループといっても良い位置まで後退します。

UAE、ブラジル、南アフリカのほかにも、ロシアやサウジアラビア、アルゼンチンよりも順位が下がります。
ケニアやシンガポールにも抜かれそうな状況ですね。
中国は1,801ドル、インドは1,531ドルといった水準です。

どうやらワーカーから、エンジニア、中間管理職と職級が上がるにつれて、日本人の給与水準が低くなっているようです。

4. スペシャリストが報われない国?

エンジニア・ワーカー 月額賃金比率 2018年

図4 エンジニア/ワーカー 月額賃金比率

図4にエンジニアワーカーの月額賃金の比率を示します。

ワーカーを基準として、どれだけ職級による賃金差があるかを比較する目的です。
ブラジルをはじめ新興国が上位を占める中で、アメリカが229、イタリアが228と2倍以上となっています。

フランスが181、イギリスが174と7~8割アップの水準、カナダが147、ドイツが142と4~5割アップの水準です。
日本は127ですので、ワーカーよりも27%アップ程度の水準という事ですね。
この中では最下位グループに位置します。

ちなみに中国は135、韓国は122です。

5. リーダーが報われない国

中間管理職・ワーカー 月額賃金比率 2018年

図5 中間管理職/ワーカー 月額賃金比率

図5に同様に中間管理職ワーカーの月額賃金の比率を示します。

やはり新興国が上位に来ますが、アメリカは406と実に4倍以上の差があることが分かります。
イギリス242、ドイツ235、カナダ209、イタリア207と2倍以上です。
日本は162で、62%増しといった状況ですね。
やはり韓国とともに最下位グループです。

6. 日本の製造業における賃金構造の特徴

今回はJETROのデータから、製造業におけるワーカー、エンジニア、中間管理職の3つの職級の月額賃金をご紹介しました。
新興国も含めた国際比較となります。

日本のワーカーの賃金は決して低い水準ではないけれど、エンジニア、中間管理職との賃金差が少なく、職級が上がるにつれて他国と比べると割安になってくるという事でしょうか。

逆に言えば、日本以外の国や地域では、ワーカー → エンジニア → 中間管理職と、職級によって給与水準が大幅に上がる傾向のようです。
また、日本のワーカーは先進国の中でも「高い水準」だからこそ、新興国のワーカーに置き換えられてきたとも表現できるかもしれませんね。

同じように、エンジニアや中間管理職は先進国と比較しても割安だからこそ、日本から現地工場向けのエンジニアや管理者として現地に派遣しても割が良いといえるのかもしれません。
逆に外資系企業から見れば、日本に進出するメリットが無いわけですね。
日本人のワーカーは優秀だけれども、自国よりも高いわけです。

日本に進出してメリットがあるとしても、アメリカやドイツの企業くらいでしょうか。
日本ばかり流出過多の日本型グローバリズムとなった背景には、このような賃金構造もあるのかもしれませんね。

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