043 中小企業の役割と課題とは? - 業務の棚卸と事業投資

1. 日本経済の特徴とは?

今回は今までのデータを踏まえたうえで、今後の中小企業が主役となり経済を好転させていくという可能性について考えてみたいと思います。

まずは、日本経済の特徴や変遷を振り返ってみましょう。

・ 他国の経済が右肩上がりに成長を続ける中、日本では1997年ころをピークにGDPが停滞し、労働者の給与が目減りしている
 参考記事: サラリーマンの貧困化 
 参考記事: 日本経済の転換点はいつ?
 参考記事: 世界シェアで見る日本経済

・ グローバリズムの進展に伴って、企業の海外進出が進んでいる
 日本だけ流出過多の日本型グローバリズムというべき状況になっており、産業の空洞化が進んでいる
 参考記事: 日本型グローバリズム

・ 企業は近年利益が増えているが、付加価値や人件費を増やせていない
 参考記事: 利益ばかり増える日本企業

・ 日本企業の99%は中小企業であり、日本人労働者の多く(60%以上)は中小企業で働いている

・ 中小企業と大企業との生産性、給与の格差が大きい

・ 本来、日本人労働者は優秀なはず
 参考記事: お金以外の豊かさとは!? 教育編

・ 優秀なはずの日本人労働者の生産性は先進国の中でも低い水準が続いている
 参考記事: 「日本は生産性が低い」は本当?

・ 日本人の貧困化格差拡大は進んでいるが、不安を感じながらも今の生活に満足感を感じている人が多い
 参考記事: 株価と豊かさ

日本独特のグローバル化(多国籍企業の海外事業)や薄利多売の事業観など企業が進もうとしている方向性と、労働者や消費者としての国民生活が離れてしまっているように感じます。

私も含めて多くの日本人が、現在の自分たちの生活や仕事に閉塞感や行き詰まりを感じている一方で、企業ばかりが豊かになっています。
特に労働者としては、給与が上がらない中で、主に社会保険料の負担が増大し、可処分所得が減少していますね。
自分たちが将来十分に給付を受けられるかわからない中で、負担ばかりが増加し不安を覚える人も多いのではないでしょうか。
少子高齢化がこのまま進む事が明白な中で、最も大事な国民生活がこのまま悪化していって良いのでしょうか。

2. 中小企業の役割を考えてみよう!

私は、この閉塞感を打破するキーパーソンが、中小企業経営者だと考えています。
300万社とも400万社ともいわれる日本の企業の99%以上が中小企業です。
つまり少なくとも300万人も社長(経営者)がいるわけです。

中小企業で働く労働者も全体の6割以上です。
「企業」というと大企業を思い浮かべがちですが、経済の主役は中小企業で働く労働者という事になります。

特に製造業では大企業は海外移転が進み、日本型グローバリズムや事業観の変化によって、多くの日本人労働者の収入にはあまり寄与していません。
もちろん、日本を含めグローバル企業の製品が安価なことで、消費者としては恩恵を受ける面もありますが、日本企業の逆輸入比率は2割程度で限定的です。

このようなことを踏まえると、規模の経済を追い海外進出が進む大企業よりも、むしろ多くの日本人労働者を雇用している、国内を基盤とする中小企業の経営者こそ、国民生活をより直接的に転換しうるキーパーソンではないでしょうか。

中小企業の数が多いことが問題視されがちですが、より正確には生産性の低い中小企業が多いことが問題なのだと思います。
逆に捉えれば、適正な規模で今よりも付加価値を高める事で、中小企業がより存在感を高める余地が大きいのではないかと思います。

優秀な労働者を使いこなし、付加価値の高いビジネスを創出し、それに見合う対価を支払う事こそが企業経営者としての最も重要な仕事ではないでしょうか。

現在は大企業ほどグローバルビジネスに巻き込まれ世界を相手に鎬を削る中、国内中小企業の労働者が取り残されています。
一方で、国内では、安価な労働者が足りなくて人手不足と言われています。
私たち製造業(町工場)はもとより、コンビニ店員、介護士、保育士なども低賃金労働の代名詞といえます。
さらに、今後は自動化が進むことによって、単純労働は外国人労働者から自動化された手段に置き換わっていくのは想像に難くないですね。

大企業ほど資本主義の原理に基づき、利益を追求していきますから、必然的に自動化された手段への代替が加速されるのではないでしょうか。
資本を集約して、特定の製品やサービスを大規模に効率的に生み出すのが大企業の得意なところと思います。
製造業の自動化・ロボット化は昔からの取り組みですが、AIや情報化の発達もあり、銀行員の大失業時代を迎えるなど、他の産業や職種でもこの傾向に拍車がかかっていますね。

残されたのは、(当面は)人にしかできない高付加価値な仕事か、機械を使うよりも安い安価な労働となるのではないでしょうか。
これからは大企業ほど労働者が不要になっていき、そこであぶれた人材は必然的に中小企業が受け皿となっていく可能性も高いように思います。

一方で中小企業は、規模が小さいことからも、時代の変化に合わせた事業の転換が比較的容易です。
オーナー経営者も多く、長期的な視点で経営を考えることができますし、経営者の意思決定から社内の変革をスピーディに行えます。

3. 中小企業の課題と可能性

現在、特に製造業において中小企業の多くは事業継承の壁にぶつかっています。
後継者のいない収益性の低い企業が倒産、廃業により一気に淘汰が進み、特に中小製造業の数は大きく減少しています。
一方で、若手の経営者にうまく継承が行われ、高収益な事業に転換した企業も多いのです。

このように国内中小企業は、明らかに低生産性事業と高付加価値事業に二極化が進み、前者はまだまだ多いですが淘汰が進んでいるように思います。
少なくとも製造業ではこのような傾向が強いのではないでしょうか。
今後は、大企業による効率化、大規模化、自働化が先鋭化する一方で、大企業ではカバーできない隙間(ニッチ領域)は増えると思います。
そこで優秀な日本人労働者による高付加価値なモノやサービスを供給する中小企業の役割は重要性を増すのではないでしょうか。

極端な見方をすれば、大企業による海外ビジネスを含む規模の経済(大規模・低価格)と、中小企業による国産で多様性のあるビジネス(多様・高付加価値)に二極化していくようにも思えます。

海外事業では日本人労働者の必要性が減る一方で、国産事業ではすでに相対的に安価となった日本人労働者の高品質な仕事を海外に高く売るチャンスでもありますね。

当然国産事業は、規模を求める事業から多様性に応える事業にも適応していく必要性があると思います。
※ ここでは海外生産・海外販売を海外事業とし、国内生産して海外に販売するビジネスは輸出事業、国内で販売する場合は国内事業、輸出事業+国内事業を国産事業としています。

今後は、日本人の多くが、高付加価値事業をしている中小企業で働き、継続的に収入が増える中で、支出も増やしていくような社会を目指していける余地も大きいのではないかと思います。
中小企業の生産過程では、大企業の提供する安価で安定したモノやサービスは、インフラとして活用すれば良いわけです。

もちろん消費者としてはグローバルビジネスにより大量に安価に入手できる製品やサービスと、国産の品質の良いプチ贅沢品も消費する事も可能ですね。
つまり、海外事業と国産事業のいいところどりをした、より豊かな生活を享受できることになると思います。
このような将来を描くことも十分に可能な局面なのではないかと思います。

中小企業経営者としては、投資により従業員1人当たりの生産性を向上させ、国内はもちろん、海外向けの高付加価値品を輸出するという方向性にも活路が見えてくるように思います。
海外からすれば、優秀な日本人労働者の労働力が極めて割安です。

現在(2019年時点)の日本人労働者の平均的な労働生産性は4,200円/時間程度です。
中小企業の生産性は、2,500~3,500円/時間といったところではないでしょうか。
1,500~2,000円/時間程度の企業も少なくないと思います。
(実感値としてはこちらのほうが主流?な感じがします)

残念ながら、今のところ従業員の能力やアウトプットからすると本来もっと付加価値を付けるべき仕事の成果を、経営者が安売りしてしまっている状況ですね。
つまり値付け感があまりにも低いという事です。

これが、中小企業の生産性が低いと言われる正体なのではないかと思います。
そのしわ寄せが、中小企業の生産性の低さや、従業員の給与水準の低さに表れているのではないでしょうか。
ドイツやアメリカ並みを標準とするならば、中小企業といえど労働生産性を6,000円/時間まで高めることは十分に可能なはずです。

4. 「業務の棚卸」と事業の高付加価値化

現在高付加価値ビジネスに転換している多くの中小企業経営者様とお話をさせていただいて、共通する部分を書き出してみます。 
当社が十分に取り組めているわけではないですが、勉強させていただきながら目指している方向性でもあります。

あくまでもモデルは受託製造をメインとする製造業なので、企業規模や業界によって感覚が異なることも多いと思いますので、その際にはご容赦ください。

(1) 業務の棚卸により、事業全体や個別のビジネスについて生産性を把握・評価する
規模の経済を追う事業なのか、小規模だからこそ価値のある事業なのかといった自社の特徴を認識したうえで、しっかりと労働者が付加価値を生み出せているか、経営者が認識することが第一歩ですね。
まずは業務の棚卸を行って、従業員がどれだけ付加価値を生んでいるかの生産性を評価してみると良いと思います。
製造の担当者ならば、例えば1時間に4,500円稼げているかが一つの基準と言えそうです。

(2) 事業投資を通じて生産性の向上を図る
本来投資により解決する問題を、従業員の努力や犠牲に頼っている企業が多いようです。
誰でもできる仕事ではなく、その人しかできないスペシャリティの高い仕事に投資してみるのも1つの方向性かもしれません(人材投資)。
もちろん、企業経営ですから、情報化(IT投資)、独自技術の開発(技術投資)、先端設備の導入(設備投資)も必要ですね。
設備投資は、経済全体で見れば設備メーカーや施工業者の収益や付加価値にもなります。

(3) 売値の適正化(値上げ)を行う
格安の事業を続けている企業が多いようです。
業務の棚卸をした結果、明らかに安価な仕事が存在した場合には、相応の対処が必要ですね。
自社での工夫や努力は必要ですが、顧客との対話を通じてまずは売値を適正化する相談してみると良いと思います。
B to Cビジネスは色々な戦略があると思いますが、B to Bビジネスは大いにその余地があるのではないでしょうか。
国内でも自社の1/3程度で請け負う会社もあれば、倍以上で請け負う会社もあると考えれば、その売値や取引先に固執する必要はないと思います。

(4) 取引関係の再構築
その事業は自社にとって本当に必要かを考えたことがあるでしょうか。
実はお付き合いだけでむしろマイナスな影響しかない事業や顧客は勇気をもって離れる必要もあると思います。

会社を存続させることばかり優先して無理な取引を続け、従業員の給与を下げたり、補助金頼みとなってしまうと、何のための事業経営なのかを見失ってしまいますね。
(もちろん、農業など安全保障にかかわり、生産性を求めるべきでない産業は除きます)

事業領域によっては、顧客が私たちサプライヤーを選ぶのではなく、私たちサプライヤーが顧客を選ぶ時代になっているようです。
今だに「他社より安ければ転注する」などと言ってくる呑気な顧客がいますが、既にそういった関係は成立しなくなってきています。

(5) 給与を上げていく(成果や能力連動でも良い)
付加価値を稼げないビジネスを従業員の給与に転嫁している企業が多いようです。
従業員の能力や貢献に応じて相応の対価を支払うのは当然ですね。
安価な労働力を求め続ける規模の経済ではなく、雇用(≒所得の分配)にも寄与する国産事業では「どれだけ従業員の給与を上げられたか」が企業経営として大事な要素になるのではないでしょうか。

(6) 安値競争をしない
付加価値を稼げない事業に値引きでしがみつくような時代ではないのかもしれません。
同じような仕事を自社の1/3の対価で受ける企業もあれば、倍以上で受ける企業もあるのが当たり前になっています。
相場というものは、既にどこにもありませんね。
値段を下げないと仕事にならないのでは、自社の製品やサービスにそれだけの価値が無いという事になります。
値段を下げて仕事を受注するのは経営者としても営業担当者としても簡単ですが、結局従業員に負担がかかり長続きしないはずです。
売値相応の価値を提供し、その価値を認めてもらえる顧客を探す必要があるのではないでしょうか。

(7) パートナーシップを基本とした取引関係
顧客は「お客様」ではありますが、それが「ご主人様」になっている下請け気質の企業が多いようです。
代行業として自社のスペシャリティを売るわけですから、その業務のプロフェッショナルとして顧客との対等な取引関係は当たり前ですね。
ビジネスの流れとして下請けという立ち位置は構わないと思いますが、何でもいいなりの(しもべ)になっていないか取引関係を見直して再構築する必要があると思います。

例えば、忖度により設計、配送、品質保証、あらゆる面で対価も要求せずに顧客に阿る企業が多いですね。
顧客の過剰な要求に応えようとしすぎて一方的に疲弊し、廃業を余儀なくされた企業も数多く見てきました。
顧客と共生ではなく、顧客に寄生されている企業があまりに多いのが残念な限りです(特に製造業ではその傾向が強いと思います)
お互いにWin-Winなパートナーシップを結べないか模索する必要があるように思います。

5. 「クラスタ」という緩い連携

ちょっと限定的な分野になりますが、中小製造業についての話をさせていただきます。
中小製造業で顧客とパートナーシップを結ぶ一つのアイディアとして、中小製造業クラスタを構築する事も良いのではないでしょうか。

中小製造業クラスタとは、顧客の窓口となるハブ企業と、それぞれの分野で特化した技術を持つパートナー企業が、ハブ企業を中心とした弱い連携のグループを作り、グループ全体としての多様性を提供するという事です。

既にそういった形はいたるところにありますので、それっぽく名前を付けただけです。
ハブ企業は、顧客の要求を咀嚼、細分化し、パートナー企業に依頼展開して、とりまとめを行います。
パートナー企業の営業代行を兼ねるとともに、インテグレータの役割を果たします。(いわゆる「商社」とは異なります)
ハブ企業は顧客要求のブレークダウンだけではなく、顧客とのパートナーシップを結び、対等な立場で一緒に製品や部品を作り出すという役割を果たします。
したがって、技術的な内容についても受け身ではなく、主体的な支援や提案を行います。

もちろん、顧客や案件によってはハブ企業とパートナー企業が入れ替わっても良いですし、クラスタ同士の連携も積極的に行うのが良いと思います。
あくまでもハブ企業とパートナー企業で役割分担をして、連携して仕事を融通しあう事を意図します。

クラスタ内ではお互いに知り尽くしているからこその、信頼関係からの迅速な対応、最適なマッチングなどの利点も併せて提供できます。
お互いがお互いの営業代行をすることにもなります。
ありがちな形ばかりの中小企業連携などとは性質が異なります。
これにより、クラスタ全体として、顧客に多様性を提供することができます。
グローバル化、効率化、大規模化が進むと、最も失われるのがこの多様性となりますので、中小企業は多様性こそ自分たちの高付加価値サービスの源泉とすべきと思います。

ハブ企業は、インテグレータとして、顧客(主にメーカー)のニーズを汲み取るだけでなく、企画や設計・開発などより上流に製造の専門家として関与します。

当然、顧客側も従来の受発注プロセスを見直す必要も出てくるかもしれません。
また、設計等、初期段階でリスクの顕在化していない技術的な内容等に関しては、顧客とサプライヤーでリスクを分担する必要もあると思います。
今までのようにサプライヤーが一方的にリスクを負う関係は改めるべきと思います。

大企業ほど製造現場との乖離も進んでいますし、ベテランエンジニアが激減し、製造の知識に乏しい若手エンジニアが増えています。
その足りないところを、むしろ私たち従来下請けだった存在が、より上流から埋める役割を果たすわけです。
今まさに、製造の専門家集団として、存在感を示すことのできるタイミングなのだと思います。

顧客サイドとのかかわり方を、このように転換し、対等なパートナーとしての関係を構築する事が今後の製造業には必須となってくるのではないでしょうか。

既にこのような関係性を構築している企業も多いと思いますが、まだまだ顧客→商社→元受け→個別製造業などといった下請け構造が根強く、顧客要求が絶対の風潮が強いのが実情だと思います。
対等なパートナーとして、顧客の特に技術部門に対して、より的確なアドバイスや助言をしながら、最も合理的な製品づくりができれば、お互いにWin-Winな取引になりやすいですし、最終消費者に対しても良いモノを提供できるのではないかと思います。

肝要なのは、顧客と供給者が課題を共有して、パートナーとして一緒になって付加価値を作り出していく事だと思います。
極端なことを言えば、ビジネスによっては従来顧客だった企業にパートナー側に入ってもらっても良いのではないでしょうか。
従来型の発注者-サプライヤーという上下関係では考えられないことですが、クラスタとして対等なパートナーシップを構築できているならば、何ら障壁はないはずです。

こういった事業の転換を進めることで、同じ日本人の仕事を、お互いに認め合う風潮が出てくると良いな、と思っています。

中小製造業クラスタ

図1 中小製造業クラスタのイメージ

中小企業の経営者とそこで働く労働者(多くの国民)こそ、むしろ主役になれる時代ではないでしょうか。

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