105 日本経済の特徴と課題 - 統計から見える日本の特殊性

1. 統計から見た日本経済の特徴・課題

このブログではここまで(2020年時点)に、100以上の記事と数百の日本の経済統計を共有してきました。
今回はその中で見えてきた日本経済の課題とその解決のための鍵は何かについて考えてみたいと思います。

まずは、この第105回までの間に見てきた、日本経済の特徴と課題を挙げてみましょう。
これらは今までブログの中でも取り上げてきましたので、どうぞ関連記事にも目を通していただければ幸いです。

<統計から見た日本経済の特徴・課題>
(1) 付加価値(GDP)や、労働者の給与物価が1997年を転換点として停滞している
 参考記事: サラリーマンの貧困化
 参考記事: 物価ってなに!?

(2) 少子高齢化が進み、国民の負担が増大している
 参考記事: 国民の税負担は大きいのか?

(3) 貧困化格差拡大が少しずつ進行している
 参考記事: 私たちはどれだけ貧困化したのか?
 参考記事: 先進国の所得格差の特徴

(4) 海外進出ばかりの一方的な企業活動のグローバル化が進んでいる(日本型グローバリズム)
 参考記事: 日本型グローバリズム

(5) 企業の利益は近年増大しているが、労働者への分配はほとんど増えていない
 参考記事: 利益ばかりが増える日本企業

(6) 企業は国内での事業投資を増やさず、借入を減らしている
 参考記事: 内部留保は衰退への道?

(7) 特に大手企業は労働者を減らしている
 参考記事: 続・サラリーマンの貧困化

(8) 日本企業の6~7割(中小企業は8割)が赤字でゾンビ企業も多いと言われている
 参考記事: 企業の7割が赤字って本当?
 参考記事: 大手企業でも半分が赤字!?

(9) 労働者は非正規化も進み、労働時間が減少している反面、労働生産性が停滞している
 参考記事: 非正規社員という働き方
 参考記事: 「日本は労働生産性が低い」は本当?

(10) 男性の労働者が減る一方で、高齢者女性の労働者が増えている
 参考記事: 労働者の少子高齢化と貧困化

(11) 高齢者女性の労働者は相対的に給与水準が低い
 参考記事: 高齢者が働く国
 参考記事: 働き盛りが貧困化する日本

(12) 仕事への意欲や愛社精神の低い労働者が多い(エンゲージメントの低下)
 参考記事: 仕事熱心な日本人はどこへ?

(13) 家計では、若年の勤労世帯が減り、高齢世帯が急増している
 参考記事: 低所得化でも豊かな家計!?

(14) 非婚化晩婚化が進み、少子化に拍車をかけている
 参考記事: 結婚は贅沢なのか!?

(15) 非婚化の主な原因として所得減少による経済的不安がある
 参考記事: 結婚は贅沢なのか!?

(16) 家計の金融資産高齢者に偏っていて、若年層はむしろ困窮化している
 参考記事: 低所得化でも豊かな家計!?

(17) 多くの国民が低所得化する一方、生活に関する満足度は高いが、将来への不安を抱えている
 参考記事: 株価と豊かさ

(18) 日本人は幸福度が低く、寛容さ親切さの無い国民とみられている
 参考記事: 日本人は幸福か!?
 参考記事: 日本人は不寛容なのか!?

(19) 日本人は政治に関する関心が極端に低い
 参考記事: お金以外の豊かさとは!? 政治参加編

(20) 家計消費が停滞している
 参考記事: 家計消費とGDPの関係

(21) 所得税法人税が減少する一方で、消費税を上げる事で税収を確保している
 参考記事: 国の税収は増えている?

(22) 移民の受け入れは限定的だが、徐々に増やしていこうという機運がある
 参考記事: 日本は移民大国なのか?

(23) 企業はモノやサービスの値上げをできずにいる
 参考記事: 値上げできない経営者たち

(24) 日本企業は職級が高い人材に対しての対価が低い
 参考記事: 日本人の誰が安いのか

(25) 日本の産業のほとんどは停滞・縮小している
 参考記事: 先進国の成長産業とは?

まだまだご紹介しきれていませんが、少なくとも、ざっとこれだけの特徴や課題があると言えそうです。
そしてこれらの多くは、先進国共通というよりも、日本特有のものばかりのようです。

2. 課題解決へのポイントは何だろう?

私自身が経済学の素人ですので、学術的な側面から経済を語る事はできません。
このブログもほぼ趣味として、日本の経済を統計的な観点から理解したいと思い続けているにすぎません。

ただ、多くの統計データを見てきた中で、気づいた点は、「企業活動の変質」です。
零細企業経営者でもあり、労働者でも消費者でもある立場から考えた中で、次のような事が言えるのではないかと思います。

(1) キーパーソンは中小企業経営者

日本企業(約300万社)のうち、99%以上は中小企業と言われます。

そして、労働者のうち7割近くが中小企業で働いています。
つまり300万人ほどの中小企業の経営者の考え方一つで、多くの労働者=国民に影響を与え、日本経済を変える力を持つという事ですね。
大企業が海外進出を進める一方で、外国企業はほとんど日本に入ってきていません(日本型グローバリズム)。
他国が双方向的なグローバル化が進む中、いわゆる産業の空洞化は、日本でばかり進んでいます。

特に製造業では、かつて大手企業の成長に合わせて、仕事が国内に流れ、それらを引き受ける中小企業や労働者も報われてきていたはずです。
それが近年急激に、顧客の海外進出と並行して、国内の仕事の量が減り、その対価が下がり続けてきたわけですね。
パイが小さくなれば、分け前も小さくなるのは当たり前です。

このようなグローバル化や事業環境の変化が進む過程で、本当は企業活動の見直しによる日本経済(特に製造業)の転換点があったのではないでしょうか。
具体的には2004年と2010年あたりが一つの転換点となっているように見えます。
ところが、実際にはいつまでも国内で価格競争をして、自分自身で価値を下げてしまっているように見受けられます。

いつしか日本の経営者は、「他社よりも1円でも安く」としかビジネスを捉えられなくなってしまったように思います。
そのとばっちりを受けているのが、労働者でもあり、消費者でもある大多数の国民ですね。
同じ数量でも安く売れば、その分の付加価値(≒粗利)は減ります。
稼ぐ付加価値が減れば、その分配である給与も減るのは道理です。

このように自己実現的に国内市場を縮小させてしまった責任の多くは、私たち企業経営者にもあるように思います。
逆に言えば、これから徐々に状況を好転させる力も、企業経営者が持っているのではないでしょうか。

前節で課題として挙げた項目のほとんどは、企業経営の変化によって改善できるのではないかと考えます。

(2) 付加価値を稼ぐという事を思い出す

ビジネスにおいて最も大事なのは、売上という人と、純利益という人に分かれるのではないでしょうか。
どちらも大事だと思いますが、私は付加価値だと思います。

付加価値と聞くと、「本質的な価値」に更に余分についてくるもの、というイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。
あるいは、単に「贅沢品」というイメージもあるかもしれません。

付加価値とは、私たち「労働者の仕事の金額的価値」ですね、むしろ本質的な価値そのものと言えると思います。
計算式でいえば、付加価値 = 売上高 - 外部購入費用です。
仕事=顧客に価値を提供する代行業と考えれば、付加価値とは顧客の代わりに価値創出を代行した費用となります。
私たちが経済活動の指標としているGDP自体が、国内で生産された付加価値の合計という意味ですね。

付加価値の分配として、労働者にはお給料が支払われます。

このような前提を踏まえると、特に私たち企業経営者は、付加価値を高める経営をするのが本質的なように思います。

付加価値の分配には従業員の給与も含まれますので、労働者=多くの国民への分配も増え、消費が増えて、という循環に繋がっていくのではないでしょうか。
利益ばかりを企業経営者が追い求めると、やはり「従業員の給与を切り詰める」という選択肢が残ります。
近年の日本企業の大きな変化として、付加価値を稼ぐ以外に、営業外収益を増やす手段が増えた事で、従業員がいなくても利益が増える構造となっています。

事業環境が変化している中で、そもそも何のために会社を経営をしているのか、もう一度企業経営者が初心に立ち返る良い転機なのかもしれませんね。
特に中小企業経営者は、自らがオーナー(株主)である人も非常に多いはずです。
短期的な利益にとらわれず、長期的視野で事業を捉え、時代の変化に合わせて柔軟に体制を変えることができ、自らの意思を即座に事業に反映できる事が、中小企業の強みですね。

私たち中小企業経営者こそ、それぞれの適正規模で高付加価値な事業に転換すべき時なのではないかと思います。
色々な指標を見る中で、今がまさにその転換期を迎えようとしているように感じます。

(3) 値付け感=付加価値を改める

現在の日本企業の経営者は、売上を確保するために、「安くして数を売るビジネス」に注力しがちですね。
安く売るためには、安く大量に作らなければいけません。
そして、売れ残りが出れば損失となるので、売り切らないければいけませんね。

一方で、日本は今後人口が減少していく事は、誰もが意識している事と思います。

「安くないと売れない」という事情はわかるのですが、その分数を売るだけの市場が必要となります。
自ら市場が縮小していると認めながらも、値段を安くして大量に売らないと成り立たないビジネスに依存してしまっているわけです。

一方で、日本の中小企業の生産性は低いと言われます。

生産性は、一定期間に稼いだ付加価値額です。
日本の中小企業の労働者は、それだけ「仕事の出来ない人たち」なのでしょうか?

私はそうは思いません。
むしろ、中小企業で働いている人も、優秀で、一生懸命真面目に働いている人が多いと思います。
生産性が低いのは、単にその「質の良い仕事を安く売っているだけ」の企業が多いからではないでしょうか。

例えば、当社の値付けである4,500円/時間という話をすると、当社よりも何倍も大きい会社でも「高すぎる!」と言われます。
当社ですら4,500円/時間なのだから、それよりも規模が大きいのなら、もっと高い値付け感で当たり前と、どんと余裕を見せてほしいところです。
例えば、同じ工業国のドイツの労働生産性は、1時間あたり6,000円を超えます。(2020年時点)

新しい技術や、手法、システムで、既存のビジネスが陳腐化し、衰退していくというのは仕方のない事だと思います。
私たち企業経営者は、そのような時代との競争に対しては真摯に向き合わなければいけませんね。
AIや自働化により、このような傾向にも拍車がかかるものと予想されます。
ただ、現在日本で起こっているのは、このような時代との競争ではなくで、「身を削ってでも誰が最安値で仕事を取るか」といった安値競争がほとんどのように見受けられます。

金儲けの話を聞けば、すぐにそこに飛びついてあっという間にレッドオーシャン化してしまいます。
特に日本では、経営者同士が同質化を好み、わざわざ皆でレッドオーシャンに飛び込む傾向があるように見受けられます。
このような事を平成時代を通じて継続してしまったがために、日本経済の停滞が長引いているようにも感じます。

実は、付加価値は一瞬にして高めることができます。
つまり「売値を上げる事」です。
あるいは、安すぎる仕事を適正化すると言い換えても良いと思います。

本当はその余地が大いにあるのに、ずっと値段を上げてこなかったのは、今までの企業経営者の責任も大きいと言えるのではないでしょうか。
物価が停滞しているとは、売値が上がっていないという事を示しますね。
「値段を相応に上げる事」をタブー視し、「値段は顧客が決めるモノ」として責任から逃れてきた経営者も多いのではないでしょうか。

必要以上に高価な売値にする必要はありませんが、安すぎる対価を適正化する事はむしろ企業の義務でもあると思います。
それは、適正な価格でも成立するという意味で、自分たちだけでなく顧客の価値も適正化されるからです。
自ら進んで自分たちのビジネスの価値を下げてしまっている企業も多いと思います。

3. 日本経済に必要な変化を考えてみる

一般に日本経済を好転させるために、まず一番に議論されるのが消費税廃止や財政支出の拡大、規制緩和などの政策面なのかもしれません。
SNSなどでもそのようなご指摘を数多くいただきます。
経済に対して政府がどのように介入すべきか、私のような政治・経済の素人にはわかりませんので、残念ながらそういった議論にはお応えできないのが正直なところです。

一方で、実際に経済活動を行っている当事者として思う事は、良い経済的な循環に戻すためには、企業経営者が付加価値を増やし、労働者への分配も増やすという意識に変わる必要があるのではないか、という事です。
現在の日本経済は、安価で大量なモノやサービス、安価な労働力を求める規模の経済を軸とした大規模ビジネス(≒グローバルビジネス)と、多様性や柔軟性を求められる多様性ビジネスに分かれつつように感じます。

大企業の得意とする大規模ビジネスは、国内の事業者や労働者として関わらなくても、消費者としては恩恵を受けますね。
私たちは積極的にその恩恵に与って、安価なモノやサービスという便益を享受すれば良いのだと思います。
あるいは、仕入として安価で安定した供給を受けられるインフラとして捉えられますね。

問題はもう一方の、多様性ビジネスにあるのではないでしょうか。
この多様性ビジネスが、日本の場合は何故か「規模の経済」一辺倒の価値観に引きずられてしまっているように見えますね。
つまり、大規模ビジネスと同じマインドで、従業員をコストと見做し、とにかく人件費やコストを抑制して安値競争するという意識が働いているように見えます。
メディアなどでも、ありえないくらい安い飲食店などが持て囃されています。
身を削ってでも安く提供する事が美談のように映っているのかもしれませんが、その地域のサービスの相場を破壊している行為でもありますね。
そして、そのような安い仕事で低所得化した労働者は消費者でもあるはずです。

大企業が海外展開を加速する中で、国内の多様性ビジネスはもはや中小企業が主体となる経済なのかもしれません。
当然中小企業経営者が大きな役割を担いますね。
その値付け感は、私たち労働者=消費者に直接的に関わるものです。

このような中で、中小企業経営者が、足並みを揃えて改めて国内で多様性ビジネスの市場を創り直すという動きを進めることができれば、日本経済が再び成長軌道に戻る可能性は大いにあるのではないでしょうか。

値付けに関して委縮してしまっている中小企業の経営者の方が多いと思いますが、まずは事業の付加価値を高めて、従業員に還元していく事で、国内消費が増えることに結びついていく、という経済活動の基本をもう一度チャレンジしていけると良いと思います。
私が、これまでの経済統計を整理していくなかで、ひとまず気付いたポイントが以下のようなことです。

(1) 事業を棚卸し事業の合理化とともに、人の仕事に付加価値を認め高めていく事
(2) 事業の値付け感を改めて、相応の対価を顧客に要求する事
(3) 付加価値の増加に伴い従業員の給与を上げていく事
(4) 事業の付加価値を上げる事業投資を行う事(設備投資、技術投資だけでなく、人材投資も)

そして、企業経営者が最も大切にするべきなのは、合理化を図りながらも「人のする仕事に価値を認める事」なのではないでしょうか。

当社は最も属人的な仕事の一つとも言える、職人の世界です。
この業界は、最も人手不足とも言えますが、そのおかげて今は比較的当社の値付け感も受け入れられやすい状況です。
新しい仕事のお話が増えていますし、受注に繋がるケースも増えてきました。

この領域において担い手が急激に減る中で、「人の仕事」にお客様が価値を認めてくれるようになったからだと思います。
「人の仕事」は、ビジネスによって様々だと思いますが、今まではむしろ軽んじられ、蔑ろにされる存在だったと思います。

介護士や保育士が低所得の代名詞的な職業のままというのが、それを裏付けているように思います。
当然、企業経営ですから、技術や仕組みによって合理化、省人化できる部分はするべきだと思います。
しかし、省人化できない部分、つまりは人がやらなければいけない仕事にこそ、そのビジネスの真の付加価値があるのではないでしょうか。

是非多くの経営者様が、国内のビジネスで「規模の経済を追い求めて利益を追う事」だけでなく、「人の仕事の付加価値を高める事」にもフォーカスしていただければと願っています。

平均給与

図1 平均給与の推移

最後に、折角ですので1つだけ経済統計に関するグラフを紹介いたします。
一番最初のエントリーで取り上げた、日本人の平均給与の推移です。

ここまでも色々な統計データを見てきましたが、やはりこの平均給与の推移は異常ですね。
消費者でもある労働者が低所得化していしまっているという事が根本的な課題ではないかと思います。

「私たちは低所得化し衰退しかかっている」という事実をスタートラインに、その上で「私たちには何ができるだろうか」を一緒に考えていただける事を願っています。

これからも引き続き、経済統計についての発信を続けていきたいと思いますので、どうぞお付き合いいただければ幸いです。

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