122 豊かになり続ける日本企業 - 資産と負債の推移

1. 日本企業の資産は右肩上がり

前回は、日本人の労働生産性についてフォーカスしてみました。
労働生産性は、労働者が1時間あたりに稼ぐ付加価値です。
付加価値は、仕事の金額的価値そのものです。

労働生産性を推定すると、中小零細企業で3,200円/時間、大企業で8,200円/時間、全規模の平均で4,300円/時間程度だという事がわかりました。
ドイツやアメリカの労働生産性(平均値)が7,000~8,000円/時間程度ですので、日本の労働生産性が低いというのはよくわかります。

ただし、労働生産性が低いのは、日本の場合特に製造の効率が悪いなどというわけではなく、単に値付けが低いだけというケースが多いように思います。
この場合は、労働生産性の低さを解決すべきなのは、労働者ではなく、経営者の方ですね。

今までは、企業統計のうち売上や利益などのフロー面について見てきました。
今回からは、目線を変えて、企業のストック面についてフォーカスしてみたいと思います。

資産負債などです。
日本企業は空前の利益水準に達していますが、一方で赤字企業が7割もあります。
果たして、企業のストック面ではそれがどの様なかたちで反映されているのでしょうか。

まずは、資産の方から見ていきましょう。

日本 法人企業 資産

図1 資産 企業規模別
(法人企業統計調査 より)

図1が企業規模別の資産のグラフです。

これまでと同じように青が中小零細企業、緑が中堅企業、赤が大企業、黒が全規模の合計です。
ちなみに、金融機関や政府機関などは含まれません。
また、日銀の資金循環統計と異なり、金融資産だけでなく、固定資産等も含みます。

企業規模別に、やや傾向が異なりますが、1990~1995年のあたりが起点となっているのは共通のようです。
中小零細企業は1995年をピークに減少し、横ばいが続いていますね。
直近では650兆円程の資産となります。

中堅企業は1990年から横ばいが続き、最近少し上向き始めた様子です。
直近では230兆円程の資産です。

大企業はやはり1990年で増加の勢いが緩やかになりますが、そのまま右肩上がりで上昇を続けています。
途中までは中小零細企業と同じくらいで推移していますが、直近では920兆円と大きく引き離しています。

全規模の合計で見ると、1,800兆円もの資産を保有していることになります。
中小零細企業は停滞、大企業、中堅企業は少しずつ資産を増やしているという状況ですね。

2. 目減りする負債

それでは、負債の方はどうでしょうか。

日本 法人企業 負債

図2 負債 企業規模別
(法人企業統計調査 より)


図2が負債の推移です。
やはり1990~1995年で転換点があるようです。
極端なのは中小零細企業ですね。

中小零細企業は1995年にピークをとなり、その後大きく減少して横ばいです。
ピーク時は550兆円、直近では400兆円です。

中堅企業も負債を減らし横ばいが続いていて、直近では130兆円です。

大企業は1990年から横ばいが続き、2000年代から上昇傾向になっています。直近では500兆円です。
全規模で見ると、1995年のピークからいったん減少して、直近ではやや増加傾向で1,040兆円といった水準です。

資産の推移に比べると、負債はマイナスの傾向ですね。
特に中小零細企業では大きく負債額を減らしています。

本来企業は、負債を増やして投資を行い、長期にわたってそのリターンを回収していくというのが通常と思います。
つまり、日本では企業は国内での投資を増やしていない、という事になりますね。

3. 豊かになり続ける日本企業

日本 法人企業 純資産

図3 純資産 企業規模別
(法人企業統計調査)

そして、図3が資産と負債の差額の純資産のグラフです。

資産は停滞or上昇、負債は減少or停滞なので、差し引きの純資産はどの企業規模でも右肩上がりです。
2018年では中小零細企業で240兆円、中堅企業で100兆円、大企業で420兆円にものぼります。全企業を合計すると760兆円もの純資産があることになります。
大企業や中堅企業は理解できますが、中小零細企業も全体としては純資産が大きく増大しています。

4. 日本企業の変質?

日本企業の多数を占める中小零細企業は、資産はあまり増やさないけど、負債を減らす事で純資産を増やしている状況です。
まず大きく負債を増やして投資を行い、生産能力を高めて付加価値や利益を増やし、それをまた投資に充てて、と負債と資産を拡大していくのが資本主義の企業の本来の姿だと思います。

現在は、負債を増やさずに、利益を積み上げていって純資産を増やしている状況です。
企業が負債を増やす主体から、資産を増やす主体に変貌しているという事がわかると思います。

ビジネスチャンスがあるからこそ、企業もリスクをとって負債を増やし、投資を行うわけですが、それがなされていないという事ですね。
経済停滞が続く日本ではモノやサービスを生産しても売れないと判断した結果、投資を行わず、売上も増えず、その代わり人件費や仕入れを削ったり、営業外収益を増やす事で純利益は増えて資産と純資産が増えている、というように見受けられます。
一方で、労働者が貧困化し、消費が減っている状況です。

なんだか歪な関係のように見えますね。

企業の利益が上がって、純資産が増えているのに、労働者=多くの消費者が貧困化して、消費が減っているわけです。
企業からすると、利益が増えているので、売上が上がらなくても困りません。
したがって、負債も増やさないし、投資もしない、という判断をしているのかもしれません。

結局は労働者が貧困化するだけで、企業は困っていない、というのが現在の日本の歪な姿なのかもしれません。
生産性云々の議論の前に、まずは企業と労働者での分配が偏っている事についてもう少し考えてみる必要があるのかもしれませんね。
(ただし、付加価値も人件費も横ばい傾向のため、「労働分配率」はある一定水準でキープされています)

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