125 設備投資の減る日本企業 - 規模による投資格差

1. 設備投資が停滞する日本企業

前回は、日本企業の規模ごとに資産負債の詳細を見ていきました。
特に大企業では、資産のうち有価証券が大きく増大し続けています。

金融機関でもない実ビジネスの企業で、有価証券による金融投資により資産が増大しているという実態が分かりました。
有価証券投資は増えていますが、実際の設備投資など、実ビジネスで付加価値を上げていくための事業投資はどのような状況でしょうか。

法人企業統計調査には、企業の毎年の設備投資(ソフトウェアを除く)の統計結果も記録されています。
今回は、企業の設備投資にスポットを当ててみたいと思います。

日本 法人企業 設備投資

図1 設備投資 企業規模別
(法人企業統計調査 より)

図1が企業規模別の設備投資額の推移です。

青が中小零細企業(資本金1億円未満)、緑が中堅企業(資本金1億円以上、10億円未満)、赤が大企業(資本金10億円以上)です。

黒が全規模の合計です。
金融機関は含まれない、法人企業の統計となります。

まず目につくのが、どの企業規模でも1991年をピークにして、減少し停滞している事ですね。
設備投資はやはり減少しているという事になります。

特に大企業ではピークの山が高かった事もあると思いますが、その後の落ち込みも大きいようです。
ピークであった1991年の数値と直近の2018年の数値を比較してみましょう。

全規模合計
1991年 64兆円
2018年 49兆円
マイナス 15兆円

大企業
1991年 35兆円
2018年 25兆円
マイナス 10兆円

中小零細企業
1991年 21兆円
2018年 17兆円
マイナス 4兆円

マイナス幅は大企業の方が多いようです。
当然、設備投資をしなければ、生産性の向上や付加価値の向上には結び付きませんね。
日本の企業は設備投資を増やさなくなってしまっています。

2. 大企業の設備投資力

労働者1人あたりの設備投資金額も見てみましょう。

日本 法人企業 1人あたり 設備投資

図2 1人あたり設備投資 企業規模別
(法人企業統計調査 より)

図2が労働者1人あたりの、設備投資額の推移です。

1991年のピーク時と2018年の直近値の変化は次の通りです。

全 規 模 : 150万円 → 100万円
中小零細企業: 67万円 → 49万円
中 堅 企 業: 179万円 → 105万円
大 企 業 : 499万円 → 324万円

大企業の1人あたり設備投資額は突出しています。

資本を集約して投資を行い、生産能力を高めて1人あたりの生産性を上げる、というまさに資本主義経済を体現する存在でもあると思います。

大企業ではかつて、中堅企業の労働者の給与と同じくらいの設備投資を行っていたわけですね。
それが、ピークを境にどの企業規模でも、1人あたりの設備投資は大きく目減りしています。

概ね、ピーク時の6~7割程度になってしまっていますね。

3. 海外の設備投資は活発な日本企業

日本企業の海外現地法人 売上高・経常利益・当期純利益

図3 現地法人 売上高・経常利益・当期純利益・設備投資
(海外事業活動基本調査 より)

図3が日本企業の海外現地法人の推移です。

国内事業と異なり、海外現地法人の事業は概ね右肩上がりで好調です。
1991年から2018年までには、売上高で3倍程度、当期純利益に至っては10倍以上に増大しています。

設備投資についても、データがある部分だけで言えば、1997年3.8兆円だったのが、2018年には8.9兆円にまで増大しています。
国内の設備投資がこの間目減りしている事を考えると、国内への設備投資を控え、海外への投資を優先させてきた事がわかるのではないでしょうか。

当然、いち企業の生き残り戦略として、投資へのリターンがより多く見込める方に分配の比重を大きくすることは理解できます。
しかし、国内への設備投資は、国内の生産能力を高めるためにも必要である事は言うまでもありませんね。

それが減少して停滞したままとなっています。

4. 設備投資でも取り残される日本

日本の企業は設備投資を減らしてしまっている事がわかりましたが、これは世界的な流れなのでしょうか?

興味深いグラフを最後にご紹介します。

総固定資本形成 機械・設備

図4 GDP 支出面 総資本形成 機械設備 成長率
(OECD 統計データ より)

図4はOECD各国の、GDP支出面において、総資本形成のうち機械設備成長度合(1980年の数値に対する倍率)を表したものです。

GDPの支出面ですので民間以外の支出も含まれているはずですので、法人企業統計調査と同じものを比較しているわけではありません。

ただし、機械設備への投資が日本では増えていないという事もわかるのではないでしょうか。
一方で、他の先進国は概ね右肩上がりです。

製造業を縮小してしまったイギリスですら、2014年以降は増大しています。
それ以外の主要国でも、1995年時の水準に比べて1.6~2.2倍程度の水準にまで増大させています。

韓国に至っては2.8倍程度ですし、それ以上の先進国も多く存在します。
スイスですら1.2倍を超えています。

機械設備への支出(投資)が停滞しているのは日本だけですね。
設備投資が増えなければ、最新の技術や生産能力で後れを取るのは当然です。

工業が最大の産業であるはずなのに、その工業を発展させるための設備投資が唯一停滞している国になってしまっています。

成長しないから投資しないのか、投資しないから成長しないのか、因果関係はわかりませんが、少なくとも投資が減っている事と経済成長していない事については、関係がありそうですね。

皆さんはどのように考えますか?

参考:最新データ

(2023年12月追記)

日本 法人企業 ソフトウェアを除く設備投資

図5 日本 法人企業 ソフトウェアを除く設備投資
(法人企業統計調査より)

図5は2022年まで延長した日本の法人企業の設備投資(ソフトウェアを除く)です。

リーマンショックご上昇傾向が続いていましたが、今回のコロナ禍での落ち込みがあり、2021年、2022年で少し上昇しています。
ただし、やっとコロナ禍前を回復したかどうかといった水準ですね。

長期的に見れば停滞傾向から抜け出せているわけではないようです。

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