158 日本は衰退先進国!? - 1人あたりGDPの国際比較

1. バブル崩壊から停滞する日本経済

前回は、改めて労働者の平均給与の国際比較をしてみました。
日本の労働者は1990年代に、先進国の中でも極めて高い給与水準に達していたことがわかりました。

ただし、バブル崩壊以降は停滞がつづき、右肩上がりで成長する他国に追い抜かれたり、追い挙げられたりしています。
現在は、OECD35か国中20番目で、OECD平均値を下回る水準にまで立ち位置を低下させています。

国の豊かさを測る指標として、労働者の給与水準と同じくらい重要なのが1人あたりGDPではないでしょうか。

内閣府の公開している、「用語解説」によれば、GDP(国内総生産)は「居住者たる生産者による国内生産活動の結果、生み出された付加価値の総額である。」と説明されています。

付加価値とは「産出額から中間投入を控除したもの」です。
つまり、私たちが仕事を通じて加えた金額的な価値となります。

このGDPを総人口で割って、人口1人あたりにしたのが1人あたりGDPです。
国民の平均的な生産性といえる指標で、最も頻繁に扱われる経済指標の1つですね。

以前はフローニンゲン大学のPenn World Tableという統計データをご紹介しました。
今回は改めてOECDの長期データを見つけることができましたのでご紹介したいと思います。

まずは、内閣府のデータから日本のGDPや1人あたりGDPを確認してみましょう。

日本 国内総生産 名目

図1 日本 国内総生産
(内閣府 国民経済計算より)

図1が日本のGDP(国内総生産、青、左軸)と、それを人口で割った1人あたりGDP(緑、右軸)です。

どちらも1997年まで上昇した後、急激に横ばい傾向となっていて、長期で見れば停滞しています。
よく見ると、一度リーマンショックで大きく落ち込んだのち、その後は上昇傾向が続きましたが、コロナ禍で再度落ち込みが見られます。

近年の水準では、GDPは550兆円、1人あたりGDPは450万円程度となります。

2. 1人あたりGDPの長期推移

1人あたりGDP 名目

図2 1人あたりGDP 推移 名目値 ドル換算
(OECD 統計データ より)

図2は1970年からの1人あたりGDPの推移です。
名目値、ドル換算値となります。

日本は1980年代中盤から1995年にかけて急激に増大し、その後停滞しています。

為替レートによるドル換算値ですので、為替の変動の影響を受けます。
特に1985年のプラザ合意を機に円高傾向が進んだ影響もあるようです。

1990年代以降長期間停滞しているうちに、ドイツやカナダ、イギリスなどには追い抜かれ、韓国などには差を詰められている様子がわかります。

数量的な変化や水準を見るための、実質値や購買力平価換算値については別の機会にご紹介します。

3. 日本経済が飛躍した1970~1980年代

それぞれの年代で切り取ったグラフについても順次見ていきましょう。

1人あたりGDP 名目 1970年

図3 1人あたりGDP 1970年 名目 ドル換算
(OECD 統計データ より)

図3が1970年のデータです。
昔のデータほどデータ数が少ないのですが、ご容赦ください。

日本はこの頃2,045ドルで、OECD平均値の2,576ドルにも満たない水準の国だったようです。
アメリカ(5,233ドル)の半分以下で、カナダ、ドイツなどG7中で最下位です。

データのある26か国中19位と下位グループに属しますね。
当時の為替レートは360円/ドル(年平均)でした。

1人ぁたりGDP 名目 1985年

図4 1人あたりGDP 1985年 名目 ドル換算
(OECD 統計データ より)

図4は1985年のグラフです。
日本は11,556ドルで、アメリカ、ドイツに続きG7中3位、OECD27か国中9位、平均値9,180ドルを大きく上回る水準にまで躍進しています。

当時の為替レートは239円/ドル(年平均)でした。

4. 日本経済の絶頂期から停滞へ

1人あたりGDP 名目 1997年

図51人あたりGDP 1997年 名目 ドル換算

図5が1997年のグラフです。
1997年は日本国内の統計データでピークとなった時期です。
(ドル換算だと1995年がピークです)

日本人の1人あたりGDPは35,034ドルで、OECD平均値18,925ドルの倍近くの水準に達しました。
G7中ではアメリカを抜き1位、OECD37か国中で4位と極めて高い順位です。

ただ、1997年は、長く続く停滞の起点となった年でもありますね。
ここから日本は、国内統計で見れば停滞が続き、その分国際的にみれば立ち位置を低下させていきます。

当時の為替レートは121円/ドル(年平均)でした。
近年とそれほど変わらない水準だったことになります。

1人あたりGDP 名目 2010年

図6 1人あたりGDP 2010年 名目 ドル換算
(OECD 統計データ より)

図6が2010年のデータです。

日本は44,517ドルと1997年の水準よりは増加しているように見えますが、順位はかなり後退しています。

G7中3位、OECD37か国中13位です。

また、OECDの平均値が36,461ドルですので、平均値の倍近くに達した1997年から比べると、この時点ですでに他国からかなり追い上げられている状況がわかるのではないでしょうか。

当時の為替レートは88円/ドル(年平均)でかなり円高に振れていた時の水準となります。

5. ついに平均以下の国へと転落した日本経済

1人あたりGDP 名目 2019年

図7 1人あたりGDP 2019年 名目 ドル換算
(OECD 統計データ より)

そして、図7が直近の2019年のデータです。

日本は、40,292ドルで、G7中5位、OECD37か国中20位です。
OECD平均値が40,400ですので、平均値すら下回ってしまいました。

平均給与と同じく、OECD中で20位で、平均値よりも少し下のレベルが現在地となります。
1人あたりGDPと平均給与は強い相関がありますので、どちらも同じ程度というのは当然の成り行きですね。

2019年の為替レートは109円/ドル(年平均)です。

6. 成長率で見る1人あたりGDP

次に自国通貨ベースでの成長度合いでも比較してみましょう。

1人あたりGDP 名目値

図8 1人あたりGDP 名目値
(OECD統計データ より)

図8は1991年を基準(1.0)とした1人あたりGDPの倍率です。

日本はほぼ横ばいを続けていますが、他国は基本的に右肩上がりで成長している様子がわかりますね。
フランス、イタリア、ドイツで2倍程度、カナダ、アメリカ、イギリスで2.5~3倍程度です。

日本だけが1990年代以降停滞が続いているというのが良くわかります。

7. 1人あたりGDPの特徴

今回は1人あたりGDPについての国際比較をしてみました。
日本は1970年代に飛躍しはじめ、1990年代にピークとなった後長く停滞が続いています。

先進国の中では人口が多いので、GDPで言えばまだ世界第3位の経済大国です。
しかし、1人あたりの指標にすれば、平均よりちょっと下の先進国に過ぎません。
立ち位置で言えば、1970年代頃の状態に逆戻りしたような状況ですね。

しかも、現在まで長期的な停滞が続いていて、今後この傾向が続けばさらに転落が進みそうな気配です。
この停滞から抜け出して成長軌道に戻り、1人1人が豊かに暮らせる社会に変化していく必要があると思います。

今後は人口が減っていく事が確実視されている中で、総額であるGDPはなかなか成長しにくい面があるかもしれません。
せめて、国民1人1人の豊かさを表す1人あたりGDPが向上していく必要がありそうですね。

皆さんはどのように考えますか?

参考:最新データ

(2023年9月追記)

1人あたりGDP 名目 為替レート換算

図9 1人あたりGDP 名目 為替レート換算
(OECD統計データより)

図9が主要先進国の1人あたりGDPについて、最新の2022年まで延長したグラフです。

日本は2021→2022年の円安を受けて大きく減少してイタリアをわずかに下回ります。
2022年の為替レートは131円(年平均)です。

他国も自国通貨安(ドル高)を受けてやや減少が見られます。

1人あたりGDP 名目 為替レート換算

図10 1人あたりGDP 名目 為替レート換算 2022年
(OECD統計データより)

図10が2022年の1人あたりGDPの比較です。
日本は33,863ドルで、OECD37か国中21位と順位を低下させています。

1人あたりGDP 実質 為替レート換算 2022年

図11 1人あたりGDP 実質 為替レート換算 2022年
(OECD統計データより)

図11は、1人あたりGDPの実質 為替レート換算の2022年の比較となります。
日本の順位はそれほど変わりませんが、イタリアよりは上位となっています。

「経済指標は実質で見るべき」というご指摘をいただく事もあるのですが、実数・水準のドル換算値による比較は名目で見た方がわかりやすいですね。

実質値は、実質化の基準年がいつかで数値も変わります。
図11は2015年が実質化の基準年で、2015年の為替レートでドル換算されたものです。
この基準年も、年が経つにつれてより後年へと変更されていきます。
つまり、公開されている統計データの実質値とは、定期的に更新される基準年の名目値に依存した数値になっているわけです。
結局は最新年の実質値は名目値を見ている事と大して変わりません。

実質で国際比較するのであれば、ある年からの成長度合い(指数や倍率)で見るときに参照するのが良いのではないでしょうか。

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