116 「実質」と「名目」の違いとは?

1. 順調に成長しているように見える”実質GDP”

前回までは、企業規模ごとの給与や格差について取り上げました。
日本では、特に男性労働者の貧困化が進んでいます。
これは中小企業だけの問題ではなく、大企業でさえ、給与が下がり、格差が開いているという現実が明らかとなりました。
つまり、男性労働者が総じて貧困化しているという事になります。

何故このような労働者の貧困化が進んでいるのでしょうか。
色々と要因があると思いますが、そもそも経済成長していないから、というのが根本的なようです。

しかし、インターネットの議論などを見ても「実質GDPが常にプラスなのだから経済は成長しているではないか」などといった意見もあるようです。
日本の経済は、「成長している」のでしょうか、「停滞している」のでしょうか。

今回は、少し脱線してキーポイントになる「実質値」と「名目値」について改めて考えてみたいと思います。

GDPは、国内で1年間に生産された財やサービスの「付加価値の総計」ですね。
つまり、国民が生み出した仕事の価値を合計したもので、経済指標で最も重要な数値の一つだと思います。

内閣府によれば、名目値と実質値の違いは以下のようです。

「名目値」
実際に市場で取り引きされている価格に基づいて推計された値

「実質値」
ある年(参照年)からの物価の上昇・下落分を取り除いた値。

名目値では、インフレ・デフレによる物価変動の影響を受けるため、経済成長率を見るときは、これらの要因を取り除いた実質値で見ることが多い。
そして、GDPの名目値から実質値を算出する際に使用されるのが、「GDPデフレータ」ですね。

「実質化の意味とデフレーター」
一般に財貨・サービスの価額(金額)の変化は、その財貨・サービスの数量の変化 と価格の変化の組み合わせによって生じる。
実質化とは、時価で表示した価額(名目値) の動きから価格変動の影響を取り除くことであり、実質化された価額を実質値という。
 また、価格水準を表す指数をデフレーターという。
国民経済計算においては、基準時点 の価格で比較時点の数量を評価した価額をもって実質値とし、「名目値=実質値×デフ レーター」という関係を満たすように実質値及びデフレーターを作成する。
(引用: 国民経済計算の作成方法)

「名目」と「実質」と聞くと、「名目」は何だか「仮の」とか「代わりの」といった印象を持ちませんか?
私は最初そのようなイメージを持ち、あまり重要な指標ではないのかと思っていました。
しかし、名目値こそが、観測される生の数値そのもので、全ての基準となるべき数値なのですね。

そして、「実質」と聞くと、「本当の」とか「実態の」という印象を持つと思いますが、むしろ物価水準の変化(GDPデフレータ―)によって作り出された数値になるわけです。
実質で表現されるのは、価格に影響されない数量的な数値になります。
「物価をある年に合わせて考えると」という前提の付く指標です。
なので、OECDのデータでは実質値をConstant pricesと表記されています。

それでは、実際にGDPの推移グラフを見てみましょう。

日本 実質GDP OECD

図1 実質GDP 日本
(OECCD 統計データ より)

図1がOECDの統計データで公開されている、日本の実質GDPのグラフです。
さすがにリーマンショックで落ち込みがありますが、趨勢的には右肩上がりで順調に経済成長しているように見えますね。

実質GDPは、名目GDPの数値を、ある基準年からの物価の変動分を表す指数「GDPデフレータ」で割った数値です。
このグラフは2010年を基準の年とした実質値と言う事になります。

基準の年からの物価の変動分をキャンセルして、数量的な経済成長を表現した数値という意味です。
これを見ると、誰もが日本は順調に経済成長しているように思うのではないでしょうか。

実質GDPが上がっているのだから、日本経済は成長して豊かになっている、という意見もあながち大げさでは無さそうです。

2. 明らかに停滞して見える”名目GDP”

次に、名目GDPについても見てみましょう。

日本 名目GDP OECD

図2 名目GDP 日本
(OECCD 統計データ より)

図2が名目GDPのグラフです。

図1の実質GDPのグラフと随分と異なりますね。

1991年のバブル崩壊までは順調に成長していますが、その後は成長が鈍化し、1997年をピークにして停滞しているように見えます。
2011年ごろからまた上昇基調になっていますが、2016年になって初めて1997年のピークを上回るという程度ですね。

順調に成長しているように見える実質GDPと比べると、名目GDPは明らかに変調し停滞しているように見えます。

日本 名目GDP 直近 OECD

図3 名目GDP 日本 直近
(OECCD 統計データ より)

ついでに、蛇足ではありますが、名目GDPのグラフを図3のように表現する事も出来ます。
2009年からのグラフですね。

短期で見るとこのように順調に成長しているように見えます。
リーマンショックで大きく低下した2009年からのグラフなので、右肩上がりに成長しています。
ただし、長期で見れば直近でやっとピーク値を超えた程度なわけです。
統計データは恣意的に表示範囲を変える事で、成長しているようにも、停滞しているようにも見せられるという好例ではないでしょうか。

話を元に戻します。
図1の実質値と図2の名目値のグラフを重ね合わせてみましょう。

日本 GDP 実質値・名目値比較 OECD

図4 GDP 実質値・名目値 比較 日本
(OECD 統計データ より)

図4が実質値と名目値のGDPを重ね合わせたグラフです。

実質値は基準となる2010年の物価を1.0としていますので、2010年では実質値と名目値は一致します。

2010年以降は名目値も実質値もどちらが上なのかよくわからない状態ですが、1983年~2009年までは実質GDPよりも名目GDPの方が上に来ていますね。
実は順調に経済成長しているように見える実質GDPよりも、停滞しているように見える名目GDPの方が、先に数値が大きくなっていたわけです。
これが、あたかも実質GDPが成長しているように見える、ミソの部分ですね。

よく考えてみてほしいのですが、例えば1997年には名目GDPが540兆円だったわけです。
名目値は統計データで収集された生の数値そのものですね。
それに対して実質値は460兆円ほどです。
2010年を基準にすると、1997年で本来は540兆円(名目値)だったにもかかわらず、実質値は460兆円としてグラフ上は描かれてしまうわけですね。

つまり、日本のデータの場合実質値で見ると、過去のデータ程実態よりも小さく表現され、全体でみるとあたかも右肩上がりに成長しているように見えるわけです。
何故かと言うと、この期間は物価が減少して停滞していたわけですから、年が経過するほど物価が下がる=GDPデフレータが1より小さくなるわけです。
逆に、基準年より過去に遡るほどGDPデフレータが1よりも大きくなるわけです。

つまり、過去の方が物価が高いということですね。
基準年より過去では、その時々の数値(名目値)を1よりも大きい数値で割るわけですから、実質値は名目値よりも小さくなるわけですね。

そうすると図2のようなグラフになります。

実際のグラフの意味を考えたときに、このグラフが「間違ったグラフ」という事ではありませんね。
物の値段が下がっているので、同じお金(例えば1万円)を持っていたとして、時が経過して物価低下が進むほど、そのお金で買える数量がその分増えるわけですね。

つまり、基準年の価値を固定して考えたときに、年々お金の価値が上がるようになるには、過去に遡るほど名目値よりも減少していくグラフになるという事です。

日本は経済停滞と物価停滞が並行して続き、実質値で見ると右肩上がりのグラフになっているという事ですね。
別な表現をすると、昔よりたくさん働いているけど、稼ぎが変わらない状態とも言えそうです。

3. 他の国のグラフは???

それでは、他の国は名目GDPと実質GDPはどのようになっているのでしょうか。

アメリカ GDP 実質値・名目値比較 OECD

図5 GDP 実質値・名目値比較 アメリカ
(OECD 統計データ より)

ドイツ GDP 実質値・名目値比較 OECD

図6 GDP 実質値・名目値比較 ドイツ
(OECD 統計データ より)

図5がアメリカ、図6がドイツのグラフになります。

図4と是非見比べてみて下さい。
基準年の2010年より前の状態が、まるっきり逆転しているのがわかると思います。
つまり、日本は名目値(青)の方が上で、実質値(赤)の方が下ですね。
アメリカもドイツも、実質値の方が上で、名目値の方が下です。
そして、基準年の2010年を境に、逆転します。

見方を変えてグラフの傾きで見ると、名目値よりも実質値の方が傾きが小さいですね。
これが、軽いインフレの国(ほとんどの国)の経済成長のグラフです。
ちなみに、イタリアは少し怪しいですが、イギリスも、フランスも、カナダも他の主要国は皆、このようなグラフになります。

異なるのが日本だけという事です。

つまり、名目値に対して、物価上昇分だけ実質値の方が目減りして評価される、というのが通常の経済成長している国のグラフと言う事ですね。
これが一般的な成長の傾向と言えそうです。

4. 各国のGDPデフレータを見てみよう!

それでは、名目値を実質値へと変換するための、GDPデフレータを見てみましょう。

GDPデフレータ 2010年基準 OECD

図7 GDPデフレータ 2010年基準
(OECD 統計データ より)

図7が2010年基準のGDPデフレータのグラフです。

2010年に1.0となります。
このグラフをみても明らかなように、日本は2010年までは右肩下がりでその後横ばいといった感じですね。

他の主要国は右肩上がりです。
2010年基準だとちょっとわかりにくいので、更に基準年を変えて表現していましょう。

GDPデフレータ 1991年基準 OECD

図8 GDPデフレータ 1991年基準
(OECD 統計データ より)

図8が基準を1991年にした時のGDPデフレータの推移です。

この方が関係がより分かりやすいですね。
GDPデフレータはすなわちインフレかデフレを表す指標です。
継続的にプラスであれば物価が上昇基調なのでインフレ、マイナスであればデフレですね。

せっかくなので、このグラフにはできる限りのOECDの国と、1991年を基準にした時の年間の成長率を表現しています。
日本以外の国は、右肩上がりなのでインフレですね。

日本だけが1997年あたりから下がっていますので、ずっと物価の低迷が続いている事になります。
2013年ころからやや上昇傾向になっいます。

主要国では概ね1~2%程度のインフレである事もご確認いただけると思います。

5. GDP成長率を改めて見てみよう!

それでは、各国のGDPについて、ある基準年からの成長率を改めて見てみましょう。

実質GDP 成長率 OECD

図9 実質GDP成長率 2010年基準
(OECD 統計データ より)

図9が1979年を100とした場合の、実質GDPの成長率です。

韓国がものすごい事になっていますが、それ以外の国は日本も含めて概ね同じような傾向の右肩上がりのグラフに見えますね。

直近値でも、日本はアメリカやイギリスよりも成長率が小さいですが、ドイツやフランスよりも大きいという水準です。
日本はそれなりに、「世界の中でも成長している」ように見えます。
(ただし、よく見れば、1997年頃までは日本が成長率では先行していて、それ以降は他国に追い抜かれている状況だという事はわかります)

名目GDP 成長率 OECD

図10 名目GDP 成長率
(OECD 統計データ より)

図10が1979年を基準(100)としたときの名目GDPの成長率です。

日本は、やはり1997年頃までは何とか他国についていっているようにも見えますが、その後は停滞している事がわかりますね。
1997年以降は横ばいです。

他の国は低成長のドイツでさえ右肩上がりを続けています。
日本は名目値ですら成長しておらず、「世界から取り残されている」という状況がわかるのではないでしょうか。

6. 実質成長は「数量的な」変化

いかがでしょうか、今回はGDPの「名目値」と「実質値」についてフォーカスしてみました。
素人ながら経済統計と向き合ってきて思う事は、「まず名目値を見る事」だと思います。
名目値が上がっているのか、下がっているのかを確認する、というのが第一ステップなのではないかと思います。
経済成長している事が前提の世界の中で、名目値が上がっていない時点でそもそもが「異常」であると考えるのが良いのではないでしょうか。

実質値は、名目値の成長が「物価上昇」によってどれだけ目減りするかといった観点で見るの良いように思います。
現在の日本は、名目値が成長していないにもかかわらず、「物価下落」によって実質値が嵩上げされている状況ですね。
物価が下落してデフレでも、実質GDPが成長しているのだから良いではないか、というご指摘もいただきます。
ただし、その裏では、これまで見てきたように「貧困化」「格差拡大」が進んでいるわけですね。

しかも、日本の場合は実質GDPは成長しているのに、実質給与は停滞が続いています。
実質値で見ても、労働者は豊かになれていないわけです。

そして何より、成長している他国と比べると、相対的に日本が「安い国」となってしまっています。
既に裕福な人や、輸出産業からすると都合が良い面あるのかもしれませんが、大多数の国民が窮乏している事は既に散々見てきた通りですね。

通常の経済は、「国民の所得が上がり、需要・消費が増え、企業の業績が良くなって投資が増え、物価が上がり、そして所得が上がり、、」と循環していくものだと思います。
デフレだと、「国民の所得が下がり、需要・消費が減り、企業の業績が悪くなって投資が減り、物価が下がり、更に所得が減る」という循環になると言われています。

しかし現在の日本は、「国民の所得が下がり、需要・消費が減り、企業の投資が減っているが業績(純利益)が「良くなり」、物価が下がり、更に所得が減る」という不思議な状況です。
今までも確認してきましたが企業はこのような状況でも利益を増やしています。
国民の所得を直接的に上げる主体の企業が「あまり困っていない」というのが日本の異常なところなのかもしれませんね。

経営者の分配に関するとらえ方が、企業と労働者(=消費者)が一緒に成長していくという方向性に変化していく事が大切だと思います。

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