143 増大する政府負債の意味とは?
1. 政府収支マイナスが続く日本
前回は、政府の収入や支出について主要国との比較をしてみました。
実は日本は、政府の収入も支出も、主要国の中では少ないという事がわかりました。
今回は、政府の収支と負債について取り上げてみましょう。

図1 政府収支 1人あたり 推移
(IMF World Economic Outlook Database より)
図1が主要国の政府収支の推移です。
日本は1992年頃までは他の主要国よりも、収支がプラス寄りに推移していました。
1995年~2007年頃に、他の主要国よりもマイナス幅の大きい期間があったようです。
リーマンショック後の動きは、アメリカやイギリスと同じ様な動きですね。
アメリカはその後も収支マイナスの幅が大きくなっています。
日本は総じて、マイナス幅の大きい水準で推移していることがわかると思います。
2. 政府負債が積み上がる日本
日本は政府収支がマイナスの状態が継続していることがわかりました。
マイナスの分は基本的に国債(政府の負債)により賄われるので、政府負債の累積額が増大することになりますね。
政府負債、純負債についても順に見ていきましょう。

図2 政府負債 1人あたり 推移
(IMF World Economic Outlook Database より)
図2が政府負債の推移です。
日本が断トツの状態が続いていますね。
1990年頃から2007年頃まで、他の主要国が横ばい→増加傾向だった時期に、日本だけ増大が続いていたことがわかります。
ちょうど、収支が日本だけマイナス幅が大きかった時期ですね。
直近では、以下の数字となります。
日本 95,791$
アメリカ 70,917$
イタリア 44,694$
イギリス 42,354$
フランス 41,104$
カナダ 41,003$
ドイツ 27,660$
日本は1人あたりでイタリアやイギリスの2倍以上の政府の負債がある事になります。
「日本人1人あたり1000万円の借金」と言われるのはこの数字ですね。
日本人の負債ではなく、政府の(主に国民に対する)負債が人口1人あたりにすると1000万円ということです。

図3 政府負債 対GDP比 推移
(IMF World Economic Outlook Database より)
図3は政府負債の対GDP比を表したグラフです。
日本は直近では対GDP比で200%を超えています。
これも「GDPの2倍以上の借金」として大騒ぎされている数字ですね。
直近の数字は次の通りです。
日本 238%
イタリア 135%
アメリカ 109%
イギリス 85%
フランス 98%
ドイツ 60%
スウェーデン 35%
日本は突出して政府負債が大きい事は事実のようです。
3. いくらか目減りする政府純負債
日本だけでなく、各国とも現在は負債だけではなく金融資産も持っていますね。
本来、「国の借金」とまで表現するのであれば、金融資産と負債の差額である純負債を見るのが適当だと思います。

図4 政府純負債 1人あたり 推移
(IMF World Economic Outlook Database より)
図4が1人あたりの政府純負債の推移です。
日本の純負債の水準は大分目減りしたように見えますね。
アメリカだけでなく、日本と比べて人口の少ないイタリアやフランスの存在感が大きくなってきたように思います。
直近の数値は下記の通りです。
日本 62,346$
アメリカ 54,845$
イタリア 40,794%
フランス 37,449$
イギリス 31,935$
ドイツ 19,121$
カナダ 11,966$
スウェーデン 1,654$
スウェーデンはほぼゼロですが、カナダも非常に小さな数値ですね。
緊縮と言われるドイツも純負債の水準は小さいようです。
日本はやはり最も大きな数値ですが、他国との差は随分と縮まっているようです。

図5 政府純負債 対GDP比 推移
(IMF World Economic Outlook Database より)
図5が政府純負債の対GDP比のグラフです。
やはり日本は1990年代後半から200年代中頃にかけて大きく純負債を増大させている事がわかりますね。
政府負債程断トツ感はないのではないでしょうか。
直近の数値は下記の通りです。
日本 155%
イタリア 123%
フランス 89%
アメリカ 84%
イギリス 75%
ドイツ 41%
カナダ 26%
スウェーデン 0%
4. 政府が負債を増やす意味とは?
この数回で政府の収入や支出、負債について取り上げてきました。
TVやSNSなどでも、経済学者や評論家などが、「日本は放漫財政だ」とか、「いや緊縮財政だ」等と意見の割れるところのようですね。
統計データを見てわかる事は、次の点ではないでしょうか。
① 日本政府の収入や支出の水準は比較的少ない
② 日本政府の支出も収入もGDPと連動して停滞している
③ 日本政府の収入よりも支出の方が上回っているため負債・純負債が増大している
①を見れば他国と比べて政府支出が少ないので、緊縮財政と見えるかもしれません。
政府支出の内訳を見れば、社会保障費の増大に比べ、総固定資本形成が減少しています。
公共事業が減らされていると感じている人も多いのではないでしょうか。
③を見れば、収支の結果としての政府負債・純負債は増大を続けており、主要国でも断トツの水準です。
負債を増やし続けている、という見方をすると放漫財政と見えるのかもしれません。
経済主体は、家計、企業、政府、金融機関、海外に分けられます。
金融資産については、誰かの純負債は誰かの純資産となっています。
一方で、純負債を負う主体は、その代わりに主に「固定資産」や他者への便益を生み出しているはずです。
政府で言えば支出を増やして負債を負う代わりに、公務員の給与や、道路や橋などのインフラを生み出していますね。
政府の負債を議論する場合に、この観点が抜け落ちているケースが多いように見えます。
また、政府が純負債を増やす裏では、家計の純金融資産が増えています。

図6 日本 各経済主体 金融資産・負債差額 ストック
(日本銀行 資金循環 より)
図6は日本の経済主体ごとの純金融資産(負債)のグラフです。
全て足すとゼロになります。
今回ご紹介したのは、あくまでも政府(緑色)の部分ですね。
政府や企業(赤)、海外(水色)が負債を増やす事で、家計(ピンク)の資産が増えている、という関係がわかると思います。
そしてこのグラフで最もおかしな動きをしているのは、誰でしょうか?
「政府」が負債を増やし続けている事が問題視されがちですが、もっとおかしな動きをしているのは「企業」ですね。
GDPの議論などもそうですが、日本の統計データばかりを見ていると、このおかしな部分に気付けない事が多いように思います。
このグラフをみると明らかに企業の純負債が横ばいです。
本来資本主義経済においては、主に企業が負債を増やして事業を拡大する事で、信用創造により流通するお金が増えて、経済が成長するというモデルのはずです。
次回以降で取り上げていきますが、基本的には他国は企業が負債を増やしています。
日本の場合は、その企業の負債が増えないため、代わりに政府と海外が負債を増やしている、という状況ですね。
政府の負債が増えるのは、企業が負債を増やさ(せ)ない代わりであるとも見て取れます。
そして企業が負債を増やさなくなったのは、明らかに1991年のバブル崩壊を機にしてのことですね。
それまでは、図6を見ても明らかなように、鏡に映したように企業の純負債と家計の純資産が対称形状で成長しています。
バブル崩壊までは、政府も海外もほとんど負債を増やしていませんが、バブル崩壊以降負債を増やすように推移を始めています。
当然、デフレですから、企業は国内で投資しても回収するようなリターンが得られないから、負債を増やさず事業への投資も増やさないという「合理的」な判断をしているのかもしれません。
そして、その企業が、労働者への分配を抑制し、さらには金融投資をして資産を増やす主体にまで変貌しています。
直接的に労働者に給与を支払うのは、政府ではなく、企業ですね。
その企業が変質してしまっているという事を、しっかりと認識すべきと思います。
企業が負債を増やし、国内で労働者や事業に投資をする、というごく真っ当な関係に戻ることが、根本的な日本経済が改善すべき課題と思います。
皆さんはどのように考えますか?
次回からは、いよいよ各国の経済主体毎の金融負債について取り上げていきます。
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