140 政府の負債と経済成長 - 各国政府の収入・支出・負債
1. リーマンショックを機に負債を増やす先進国
前回は、GDP支出面の家計最終消費支出についてフォーカスしてみました。
家計消費は先進国の中では平均並みである事がわかりました。
今回からは少し目線を変えて、政府の支出や収入、負債について見ていきたいと思います。
「国民1人当たり〇〇万円の借金」という政府の負債についても確認してみたいと思います。
今回は、社会保障費まで含めた、政府支出(General Government Total Expenditure)と政府収入(General Government Revenue)について取り扱っていきたいと思います。
出展はIMFのWorld Economic Outlook Databaseです。
今まで国際比較はOECDのデータを使ってきましたが、IMFのデータも興味深いものが多そうです。
今回はまず、政府の支出、収入、収支と、政府負債、政府純負債について、各国の自国通貨でのデータを見ていきましょう。
まずは経済成長率の大きいカナダ、アメリカ、イギリスのデータです。

図1 政府の収支と負債 カナダ
(IMF World Economic Outlook Databaseより)
図1がカナダのグラフです。
政府収入(青) - General Government Revenue
政府支出(赤) - General Government Total Expenditure
政府収支(緑) - General Government Net Borrowing/Lending
政府純負債(ピンク) - General Government Net Debt
政府負債(オレンジ) - General Government Gross Debt
GDP(黒)
Net Borrowing/Lendingは、日本語では純貸出/純借入と表記されますが、ここではわかりやすく政府収支と訳します。
カナダの場合は、GDPが右肩上がりで成長しながら、政府収支はゼロ付近で均衡していますね。
ただ、政府負債も右肩上がりです。
特に2009年以降で急激に増大しています。
一方で、政府純負債はある水準で横ばいですね。
政府自体が金融資産を持っていますので、負債と資産が相殺されて、純負債は負債よりも少額となるという事だと思います。
カナダの政府負債の対GDP比は89%、政府純負債の対GDP比は26%程度です。

図2 政府の収支と負債 アメリカ
(IMF World Economic Outlook Databaseより)
図2はアメリカのグラフです。
GDP以外のデータが2001年からしかないのですが、ご容赦ください。
アメリカも基本的には右肩上がりで、GDP、政府収入、政府支出、政府負債、政府純負債が増大しています。
カナダと比べると政府支出が政府収入を上回っていて、政府純資産も右肩上がりである事がわかりますね。
政府収支が常にマイナスになっています。
2009年に一気に収支がマイナスとなり、政府負債も政府純負債も増大しています。
直近ではアメリカの政府負債対GDP比は109%、政府純負債対GDP比が84%です。

図3 政府の収支と負債 イギリス
(IMF World Economic Outlook Databaseより)
図3がイギリスのグラフです。
イギリスも右肩上がりで成長する中、2009年から政府収支がマイナスに転じていて、政府負債、政府純負債が増大しています。
その後は政府収支がゼロに近づいてきていて、政府負債と政府純負債の増加の程度も緩やかになっていますね。
直近ではイギリスの政府負債対GDP比は85%、政府純負債対GDP比が75%です。
2. 緊縮ドイツの実態、政府収支マイナスのフランス、イタリア
緊縮財政と言われるドイツや、フランス、イタリアについても同様に見ていきましょう。

図4 政府の収支と負債 ドイツ
(IMF World Economic Outlook Databaseより)
図4がドイツのグラフです。
やはりリーマンショックで急激に負債や純負債が増えていますが、その後は減少しています。
政府収支を見ると、若干のプラスになっている事もわかりますね。
緊縮財政と言われる割には、政府収入も政府支出も増えている事も注目すべきではないでしょうか。
実態としては、政府の収入も支出も増やしていますが、収入が上回る状態が続いているため純負債や負債が減少しているという事が見て取れます。
直近ではドイツの政府負債対GDP比は60%、政府純負債対GDP比が41%です。

図5 政府の収支と負債 フランス
(IMF World Economic Outlook Databaseより)
図5がフランスのグラフです。
フランスは1990年あたりから政府収支のマイナスが継続しています。
特に1993年あたりと、2009年あたりで急激に収支がマイナスになり、その分政府負債や政府純負債が急激に増大しています。
直近ではフランスの政府負債対GDP比は98%、政府純負債対GDP比が89%です。

図6 政府の収支と負債 イタリア
(IMF World Economic Outlook Databaseより)
図6がイタリアのグラフです。
イタリアもずっと政府収支がマイナスで推移している国ですね。
他の国と異なるのは、リーマンショック以降のGDPの伸びがかなり鈍化している点でしょうか。
そして、政府負債も政府純負債もかなり大きな水準で増大が続いています。
直近ではイタリアの政府負債対GDP比は135%、政府純負債対GDP比が123%です。
3. 経済が停滞し、負債が増え続ける日本
それでは、日本のグラフを確認してみましょう。

図7 政府の収支と負債 日本
(IMF World Economic Outlook Databaseより)
図7が日本のグラフです。
明らかに他の国と異なりますね。
GDP、政府収入、政府支出が1997年頃から横ばいです。
それに対して、政府負債、政府純負債が増大し続けています。
政府収支も1993年頃から基本的にはマイナスです。
直近の2019年の数値はそれぞれ次の通りとなります。
GDP 554兆円
政府収入 190兆円
政府支出 209兆円
政府収支 -18兆円
政府負債 1318兆円
政府純負債 858兆円
政府負債が1300兆円を超えていて、これが「国民1人あたり1,000万円以上の借金」と言われる部分ですね。
正確には、「人口1人あたり1,0000万円以上の政府の負債」という事になります。
ただし、政府も金融資産を持っていますので、その差し引きである純負債で見れば858兆円まで目減りします。
また、この統計はあくまでも、金融資産を表します。
政府が金融負債を増やす反対で、国民(家計)が金融資産を増やしています。
政府が投資をすることによって、橋や道路などのインフラという固定資産も持っているはずです。
これらのインフラは、国民が生活や事業活動をする際の、基盤となり、国民や企業が長期にわたり便益を受けるものです。
これらの本来固定資産にカウントされるものは、金融資産・負債を見るこの統計には入っていませんので、注意が必要と思います。
政府の固定資産まで集計した統計データや、日本全体としての正味資産(国富)も今度ご紹介する予定です。
4. 政府が負債を増やす意味とは?
直近の日本の政府負債対GDP比は238%、政府純負債対GDP比は155%です。
日本の借金がGDPの2倍以上と騒がれているのは、この政府負債対GDP比の数値ですね。
負債の増え方は他の国と対して変わりませんが、分母のGDPが成長していないので、その比が増大し続けているという事情が読み取れます。
各国のグラフをもう一度比較して欲しいのですが、日本が明らかにおかしいのは、負債が増えているという事よりも、経済成長していない事ですね。
当然経済成長していれば、税収も増えるでしょうから政府負債自体がもっと減っている可能性もあると思います。
また、家計、企業、政府、金融機関、海外の経済主体別の資金過不足で考えると、全体の合計値はゼロとなります。
日本の場合、現在は企業が大きく貯蓄主体(資金余剰)となっている分、余計に政府の負債が増える関係になっている点にも注目すべきと思います。
資金過不足についても今後ご紹介していきます。

図8 日本 資金循環 フロー 資金過不足
(日本銀行 資金循環より)
皆さんはどのように考えますか?
次回はもう少し詳しく、政府支出や政府収入の比較をしてみます。
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<ブログご利用の注意点>
・本ブログに用いられる統計データは政府やOECDなどの公的機関の公表しているデータを基にしています。
・統計データの整理には細心の注意を払っていますが、不整合やデータ違いなどの不具合が含まれる可能性がございます。
・万一データ不具合等お気づきになられましたら、「お問合せフォーム」などでご指摘賜れれば幸いです。
・データに疑問点などがございましたら、元データ等をご確認いただきますようお願いいたします。
・引用いただく場合には、統計データの正誤やグラフに関するトラブル等には責任を負えませんので予めご承知おきください。
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