113 男性の低所得化&格差拡大 - 所定内給与中央値の変化

1. 男性労働者の給与中央値は?

前回は日本企業のうち、中小零細企業中堅企業大企業の企業規模ごとに、従業員役員平均給与と企業規模間の格差についてご紹介しました。
労働者は企業規模の大きさ関係なく、平均給与が減っています。
経営者では、大企業、中堅企業では平均収入が増えていますが、97%以上を占める中小零細企業では減少しています。

今回はより実感に近い給与の中央値についてご紹介していきたいと思います。

所定内給与 中央値 男性

図1 所定内給与 中央値 全規模 男性
(賃金構造基本統計調査 より)

図1が、男性労働者の所定内給与(月額・単位[千円])の中央値を年齢階級ごとに表したグラフです。
青が2001年、赤が2019年です。

所定内給与なので、休日出勤手当や残業手当などは含まれません。
平均労働時間は年々減少していますので、これら所定外給与は減少傾向にある事を先に頭に入れておいた方が良いかもしれません。

男性の場合は、30才未満と55~59歳で給与が微増していますが、それ以外では減少しています。
最も働き盛りと言える35~49歳でその減少幅が大きいのが特徴的ですね。
3万円程減少しています。

中央値は、平均値よりもより実感に近い数値になりますね。
全年齢の平均で、月額29.8万円となります。

ボーナスが無しとすると、年収で360万円弱と言う事ですね。
全規模の平均収入が520万円程なので、平均値と中央値ではやはり差がありそうです。

極端に高所得な層があると平均値が大きくなり、中央値との乖離も大きくなりますね。
男性労働者はほとんどの年齢層で低所得化していて、高所得者との格差も大きそうです。

所定内給与 中央値 女性

図2 所定内給与 中央値 全規模 女性
(賃金構造基本統計調査 より)

図2は女性のグラフです。

全年齢で20.3万円から22.8万円と、2.5万円も増加しています。
全ての年齢層で金額が上がっていますね。

特に30歳未満と、40歳以上で大きく上昇しているのが印象的です。
男性の給与水準が減る一方で、女性の給与水準が増加しています。

まだ男性との差はありますが、男女間の格差は縮小しているという事ですね。
全規模 中央値の男女の比を男女間格差とすると、2001年で1.51だったのが、1.31と減少しています。

2. 労働者間の格差を見てみよう!

それでは、労働者の格差についても見ていきましょう。

まずは、統計データの分布についておさらいです。

所得四分位数

図3 所得四分位数

まず、所得別が少ない人から、所得別の人数を並べた分布が図3のようになっていたとします。
この分布に含まれる人数を4等分する3本の線が引けます。

この線のそれぞれの所得の大きさを、小さい方から第1四分位数第2四分位数(中央値)、第3四分位数と呼びます。
また、この線で区切られる範囲をそれぞれ、第1四分位~第4四分位と呼びます。

第2四分位数(中央値)は、分布の人数をちょうど半分に区切る線の数値ですね。
第1四分位数は分布の下位25%を区切る線の数値、第3四分位数は上位25%を区切る線の数値といえます。

所得分布の差異

図4 所得分布の差異

ここで、図4のように所得分布が(A)という分布と(B)という分布があったとします。
中央値が同じですが、分布の形が異なります。

(A)は中央値にぎゅっと寄った分布、(B)はより平坦に広がった分布です。
視覚的にわかると思いますが、(B)よりも(A)の方が格差の小さい分布と言えますね。

より中央値に分布が集まっています。

これに比べて、(B)は低所得側にも、高所得側にも分布が広がっているため、低所得者と高所得者の格差が大きいと言えます。
何が異なるかと言うと、下位25%を示す第1四分位数と、上位25%を示す第3四分位数の間隔が異なりますね。

つまり、第3四分位数と第1四分位数の比率によって、所得格差を数値的に表せることになります。
この比が小さいほど、分布が中央値に寄っているため格差が小さいことになりますね。

すなわち、(A)の第3/第1四分位数 < (B)の第3/第1四分位数となるため、(A)の方が格差が小さいという事になるわけです。
究極は、この比が1.0の状態です。
全ての労働者が同一の賃金で働いていて賃金格差が全く無いという事になります。

それでは、日本の労働者の格差について具体的な数値を見てみましょう。

所定内給与 格差 男性

図5 所定内給与 格差 全規模 男性
(賃金構造基本統計調査 より)

図5は男性労働者の所定内給与格差です。

第3/第1四分位数を表します。
青が2001年、赤が2019年の数値です。

若年層ほど元々の格差水準は小さく、年齢が上がるにつれて格差が拡がる傾向を確認できると思います。

2019年の数値で言えば、下位25%を決める所得水準と上位25%を決める所得水準では、25歳未満で1.2倍程度なのが、55~60歳になると1.8倍にもなるわけですね。

経年による変化を見ると、実は全年齢の平均では、1.73→1.72と小さくなっている、つまり格差が若干小さくなっていることになります。

ただし、中身をよく見てみると、60~64歳が大きく減少している一方で、その他の年齢層ではむしろ数値が上がっています。
男性労働者は、高齢層が極めて増加しているためそのインパクトが大きいわけなのですが、それ以下の労働世代では格差が開いているという事になるわけです。

図1でも確認出来た通り、男性の場合は30歳以上(50~54歳除く)で給与中央値が減少しています。
その上で、格差は開いているわけですね。

つまり、労働世代では低所得化しながら格差が拡がっているという事になります。

所定内給与 格差 女性

図6 所定内給与 格差 全規模 女性
(賃金構造基本統計調査 より)

図6が女性労働者の格差のグラフです。

女性の場合は、大きく中央値の増大している35~54歳の層で格差が縮小しています。

女性はむしろ格差が小さくなりながら所得水準が上がっている言えそうです。
また、男性と比べると格差が全体的に小さいというのも特徴的ですね。

3. 給与が下がっているという異常さ

今回は日本の労働者の給与中央値格差について取り上げてみました。
日本は比較的格差の小さい国と言えますが、特に男性労働者においては、低所得化と格差拡大が進んでいる状況のようです。
格差についてのOECDのデータは以前ご紹介しました。 
 参考記事: 日本人の所得格差は小さい?
 参考記事: 緩やかに拡がる所得格差

そもそも労働者の給与水準が下がっている国は先進国では日本くらいです。
しかも、日本は低所得化しながらも、格差が開いているという労働者にとってはとても厳しい状況なわけですね。

女性労働者は所得水準が上昇傾向ですが、男性労働者の所得が下がり、格差が拡大しています。
今回の統計データは所定内給与の比較です。
恐らく昔ほど残業等による所得外給与は多かったはずですので、実際の減額量は更に大きい可能性が高そうです。

企業業績を見れば、近年かつてないほどに利益が出ています。
それでも人件費は横ばいなのは異常事態と言えるかもしれません。
 参考記事: 稼げず儲かる日本企業

そろそろ「人件費を削って利益を確保する」という平成型経営の価値観を転換する時なのかもしれませんね。

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