159 生産性が低い日本 - 労働生産性の国際比較

1. 高まらなかった労働生産性

前回は、国のフロー面での豊かさともいえる1人あたりGDPについて着目してみました。
日本はバブル期に円高も相まって、急激に1人あたりGDPが増大し、バブル崩壊とともに停滞しています。

日本経済のピークとなった1997年では平均給与1人あたりGDPも先進国で上位(それぞれ35~37か国中3位、4位)でしたが、直近では下位グループ(それぞれ20位)にまで転落しています。

結局は、バブルと為替によって、経済指標が高まっただけで、徐々に地の力が明らかになってきただけなのでしょうか?
今回は、もう一つキーとなる指標と言える、労働生産性について改めて考えてみたいと思います。

ここでの労働生産性は、労働者が1時間に稼ぐ付加価値です。

1人あたりGDPは、国民が1年間に稼ぐ付加価値の平均値ですね。
1人あたりGDPは、高齢者も子供も頭数に入りますので、国民全体のざっくりとした生産性を表す指標と言えるかもしれません。

仕事の価値を評価するのであれば、労働者が時間あたりに稼ぐ労働生産性が適していると思います。

労働生産性 名目

図1 労働生産性 推移 名目 ドル換算
(OECD 統計データ より)

図1が、OECD各国の労働生産性の推移を表すグラフです。
名目値のドル換算としています。

日本は1995年をピークにして、その後やや右肩上がりながらも停滞しています。
平均給与や1人あたりGDPと比較するとやや控えめな水準に見えます。
2013年からOECDの平均値やイタリアを下回っていますね。

韓国は右肩上がりですが、日本とはまだ落差があるようです。
1995年の段階ではほぼ同じ数値だったドイツやフランスとはだいぶ差をつけられていることもわかりますね。

やはり、労働生産性も1人あたりGDPや平均給与と同じような推移となっているようです。

2. かつては低かった日本の生産性

それでは、特定の年で切り出したデータをみてみます。
まずは過去のデータから見ていきましょう。

労働生産性 1970年

図2 労働生産性 1970年 名目 ドル換算
(OECD 統計データ より)

図2は1970年のグラフです。

データが少ないのですが、ご容赦ください。

当時日本は、1.7$/時間と、23か国中18番目の数値で完全に先進国下位の労働生産性であったことがわかります。

同じように戦後復興中のドイツでも3.3$/時間で、日本の倍以上です。
ドル換算なので、為替の影響は大きいと思いますが、1時間あたりに稼ぐドルの量を国際的な労働生産性として考えれば、このような差があったわけですね。

当時アメリカが7.0$/時間、カナダが5.4$/時間と日本の数倍の水準があったことがわかります。
時の為替は360円/ドルで固定されていた時代ですね。

労働生産性 1985年

図3 労働生産性 1985年 名目 ドル換算
(OECD 統計データ より)

図3が1985年のデータです。

日本はだいぶ労働生産性が向上し、10.9$/時間と平均値(12.5$/時間)にかなり近づきました。
25か国中17番目でまだ下位ではありますが、1位のアメリカには2分の1程度の水準にまでなっています。

この時ドル-円の為替は、240円/ドル程度です。

3. 日本の絶頂期と後退期の生産性

労働生産性 1997年

図4 労働生産性 1997年 名目 ドル換算
(OECD 統計データ より)

図4が日本の絶頂期ともいえる1997年時点のグラフです。

とても大切なグラフだと思います。

日本は当時34.9$/時間で、OECD34か国中13番目の水準です。
確かに、平均値26.2$/時間よりも大きく、ドイツやフランス、イギリス、アメリカとも遜色のない水準まで向上していることがわかります。

この時のドル-円為替は、110円/ドル程度です。

ただ、思い出していただきたいのは、平均給与1人あたりGDPは当時もっと上位だったということですね。
1997年で平均給与はOECD中3位、1人あたりGDPは同4位でした。

それに対して、労働生産性は13位に過ぎないわけですね。

実際には労働生産性を十分に高めることができなかった、というのはその後の凋落につながる非常に大きなポイントだと思います。

労働生産性 2010年

図5 労働生産性 2010年 名目 ドル換算
(OECD 統計データ より)

図5が2010年のグラフです。
日本経済の停滞が長引き、失われた10年などと言われていた時期ですね。
リーマンショックから各国が立ち直りつつあるタイミングです。

日本は50.2$/時間で、OECD平均(47.5$/時間)よりはまだ高い水準をキープしていますが、36か国中18番目の水準まで後退しています。

カナダに抜かれ、イタリアに肉薄されている状況ですね。

この時のドル-円為替は88円/ドルで、かなり円高に振れていた時期です。
円高なので、ドル換算値としては大きめに出るはずですが、この程度の水準というわけですね。

4. 低生産性なりの経済水準へと転落

最後に直近のデータを見てみましょう。

労働生産性 2019年

図6 労働生産性 2019年 名目 ドル換算
(OECD 統計データ より)

図6が直近の2019年のグラフです。

日本は44.6$/時間で、平均値の51.6$/時間を下回ってしまいました。
順位も、G7最下位、35か国中20位と下位グループとなります。

ドイツが61.7$/時間、フランスが63.1$/時間、アメリカが77.0$/時間で、大きく差をつけられていますね。

為替は109円/ドルで、1997年の時点とほとんど変わりません。
直近の数値では、日本は平均所得も、1人あたりGDPも、労働生産性もOECD中20位と同一順位で下位グループに属することになります。

5. 成長率で見る労働生産性

労働生産性の自国通貨ベースでの成長率も眺めてみましょう。

労働生産性 成長率

図7 労働生産性 成長率
(OECD統計データ より)

図7が1991年を基準(1.0)とした労働生産性の成長率です。

日本は1997年を過ぎても成長が続き、2004年くらいをピークにて停滞、2012年あたりからやや増加傾向となります。
ただし、他国が右肩上がりで成長してるのに対して、停滞が際立っていますね。

1991年に対して日本が13倍程度、フランス、ドイツ、イタリアが2倍程度、アメリカが2.7倍です。

6. 労働生産性の特徴とは

1人あたりGDPは国民1人あたりの年間の付加価値額で、労働生産性は労働者の1時間あたりの付加価値額です。

付加価値の総額を割る人数が国民なのか、労働者数なのかという違いと、1年間という単位か、1年間の平均労働時間かによって数値の意味が変わってきますね。

実際には、日本は1997年の絶頂期で、ほかの主要国に比べて労働時間が長かったため、1人あたりGDPは大きかったものの、労働生産性はそこまで高くないと言えそうです。
当時の日本経済の絶頂期を実現していた一因が、労働者の長時間労働であったという事が言えそうですね。

平均労働時間

図7 平均労働時間 推移
(OECD 統計データ より)

図7が労働者の平均労働時間の推移です。

日本はほかの主要国、特にイギリス、フランス、ドイツなどよりも労働時間が長いことがわかります。
特にバブル崩壊までは極めて労働時間が長かったわけですね。

直近ではかなり減少して、アメリカ以外にもイタリアやカナダよりも労働時間が短くなっているようです。

経済が好調だった時期に、安くても長時間労働で稼ぐというスタイルから脱却できなかったといえるかもしれません。
せっかく高水準の経済レベルまで世界に先駆けて到達したにもかかわらず、短い労働時間で、価値の高い仕事をするというスタイルへの転換ができなかったわけですね。

そして、現在では労働時間が短くなっていますので、低い労働生産性なりの賃金やGDPにしかならず、低迷しているというのが実態なのかもしれません。
働き方改革などと言われて労働時間を短くすることを掲げられていますが、仕事の価値を高めることができなければ、結局労働者が困窮するだけですね。

今の低所得労働者の増加がそれを物語っているように思います。
日本特有の悪習ともいえるサービス残業を加味すれば、さらに実態としての生産性は低下しているはずです。

生産性(値付け)の低い仕事を、とにかく労働者の長時間労働で賄うというスタイルが、日本型経済の特徴といえるのかもしれません。
人の仕事に相応の価値を認め、対価と賃金に反映する、という普通の事業活動への転換が必要だと思います。

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