145 純金融資産の共通点 - 仏・伊・北欧の金融バランスシート

1. 少し日本と似ているフランス、イタリア

前回は、各国の家計、企業、政府、金融機関、海外の主体ごとの純金融資産(Financial net worth: 金融資産・負債差額)を見る事で、金融バランスシート(Financial balance sheets)を可視化してみました。
家計の純金融資産が右肩上がりなのは、どの国も共通のようです。
その代わりに負債を増やす主体がどこなのか、と言う部分で各国の経済の形が異なるという事ですね。

日本は、企業が負債を減らしているので、代わりに政府と海外が負債を余計に増やしているような変化をしています。
アメリカやイギリス、カナダなどは、やはり基本は企業が負債を増やしていて、その次に政府や海外が負債を増やしているような状況ですね。
ドイツの場合は、企業も緩やかに純金融負債を増やしていますが、それ以上に海外が大きく負債を増やす存在となっています。

今回は、G7残りのフランス、イタリアと、北欧諸国についての金融バランスを見ていきたいと思います。
ちょっとマニアックな内容になっていきますが、とても大事な観点だと思いますので、どうぞお付き合いください。

まず日本の状況のおさらいです。

純金融資産 日本

図1 日本 純金融資産 推移
(OECD 統計データ より作成)

図1が日本純金融資産の推移です。

家計が右肩上がりで純金融資産が増加していて、政府と海外が右肩下がりで純金融負債を増やしています。
企業は、元々高い水準でしたが、純金融負債を減らしています。

純金融資産 フランス

図2 フランス 純金融資産 推移
(OECD 統計データ より作成)

図2はフランスのグラフです。

アメリカやカナダなどと比べると企業の純金融負債の伸びが緩やかですね。
2008年あたりから政府の純金融負債の伸びが大きくなっています。
ドイツと比べ、海外の純金融資産はほとんど変化していません。

純金融資産 イタリア

図3 イタリア 純金融資産 推移
(OECD 統計データ より作成)

図3はイタリアのグラフです。

フランスよりも更に状況が異なりますね。
2006年あたりから企業の純金融負債が横ばいです。
政府の純金融負債ももともとの水準が大きく、かつ増え続けていますので直近では企業の純金融負債よりも大きくなっています。

そして、家計の純金融資産が2006年から停滞気味になっているのがわかります。
イタリアは経済が停滞していると良く指摘されますが、経済の形をみるとこのような状況になっているわけですね。

誰も純金融負債を増やす主体がなく、家計の純金融資産が増えていない、と言う事なのだと思います。

それでも、1995年の水準と比べると家計の純金融資産は2倍以上にはなっています。

ここまでは、日本も含めた経済大国であるG7の経済の形を見てきました。
とても大切な着眼点だと思いますので、他の国々についてもフォーカスしてみましょう。

2. 典型的なスウェーデン、デンマーク

まず今回取り上げるのは、北欧諸国です。
北欧と言うと、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェーですね。

純金融資産 スウェーデン

図4 スウェーデン 純金融資産 推移
(OECD 統計データ より作成)


図4はスウェーデンのグラフです。

家計と企業が綺麗な対称形状で成長しているのがわかります。
政府も金融機関も海外も、それと比べると非常に小さな割合ですね。
企業が純金融負債を増やして、家計が成長するという典型的な経済の形と言えそうです。

よく見ると2016年くらいまで海外の純金融資産がプラスだったようです。
海外からの投資も一定量あったわけですね。

そして2006年あたりから政府の純金融資産もプラスです。
政府は純金融負債を増やすばかりの主体と言うわけでもない事がわかります。

純金融資産 デンマーク

図5 デンマーク 純金融資産 推移
(OECD 統計データ より作成)


図5はデンマークのグラフです。

デンマークもスウェーデンほどではありませんが、綺麗に家計の純金融資産と企業の純金融負債が対称的に成長しています。
政府の純金融資産はほぼゼロですが、直近では海外の純金融負債が増えていますね。

スウェーデンもデンマークも政府の純金融資産がほぼゼロなのも特徴的です。
北欧は高福祉高負担と言われますが、家計の純金融資産が順調に増えている様子がわかります。

3. 特徴的なフィンランド、ノルウェー

北欧の中でも、スウェーデン、デンマークは、典型的な資本主義国家の経済の形と言えそうですが、フィンランドとノルウェーは少し様子が異なりそうです。

純金融資産 フィンランド

図6 フィンランド 純金融資産 推移
(OECD 統計データ より作成)


図6がフィンランドのグラフです。

特徴的なのは企業の純金融負債のアップダウンが激しい点です。
ただ、日本と異なるのは政府の純金融資産が大きく、かつ増えているという部分ですね。

1999年あたりから、海外の純金融資産が減っていき、その分家計と政府の純金融資産が少しずつ増えています。
1999年までは、海外からの投資が増え、企業が純金融負債を増やして経済が成長する、というモデルだったようですね。

その後は、海外からの投資が減り、企業の純金融負債が停滞しながらも家計と政府の純金融資産を増やしています。
今までにない、特殊な経済の形と言えそうです。

フィンランドと言えば、ノキアが有名ですね。北欧で随一の工業国としても知られているようです。
1995年~1999年にかけて、EUへの加盟、ユーロの導入などもこの辺りと関係しているのでしょうか。
2000年頃を境に金融バランスが変わった興味深い国と言えそうです。

フィンランドは2000年代初頭では、4年連続で国際経済競争力首位となっていたようです。
国民の幸福度が高い国としても有名ですね。

現在は、政府と家計で純金融資産を分け合っているような形です。
北欧の中でも独特な経済の形と言えるのかもしれません。

純金融資産 ノルウェー

図7 ノルウェー 純金融資産 推移
(OECD 統計データ より作成)


図7はノルウェーのグラフです。
今までのグラフとは全く異なるのにお気づきでしょうか。

私も何度かデータを見直したのですが、どうやらこれで間違いなさそうです。

右肩上がりで純金融資産が伸びている緑色は、家計ではなく、政府です。
右肩下がりで純金融負債が増えている黄色は、企業ではなく、海外です。

よく見ると家計の純金融資産は右肩上がりで増加していますし、企業の純金融負債も右肩下がりで増えています。
ノルウェーは水産業でも有名ですが、経済的には何よりも北海油田等による原油の輸出が大きい国のようです。

高福祉高負担国としても有名ですが、この石油の収益を運用する独自の年金ファンドも注目されているようです。
石油収入をノルウェー政府年金基金やノルウェー政府年金ファンドというシステムで、海外企業や国内企業への投資に回して運用しているという事ですね。

政府の純金融資産が大きくプラスなのも、その石油収入による膨大な収入を投資に回しているから、と言う事ができそうです。
その分、政府の純金融資産が増え、海外や国内企業の純金融負債が増えているわけですね。
あまりにも政府、企業、海外の動きが大きいのでわかりにくいのですが、実は家計の純金融資産も1995年から2018年までで約5倍に増大しています。

資源大国ならではの金融バランスと言えそうです。
おそらく、中東などの産油国もこのような金融バランスなのではないでしょうか。

4. 先進国の一般的な金融バラス

いかがでしょうか、今回はG7の残りのイタリアとフランス、そして北欧諸国の金融バランスにフォーカスしてみました。
資本主義経済としては、主に企業が純金融負債を増やして、家計の純金融資産が増えていくというモデルが基本とは言えそうです。

ただし、フィンランドのように純金融資産を政府と家計で分け合うような国もありますし、ノルウェーのような資源大国では政府が一方的に純金融資産を増やしているような国もあるという事ですね。

次回も、OECD加盟国各国の経済の形についてご紹介していきたいと思います。

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