192 日本企業は「過剰投資」だった?
1. 企業所有の施設は?
前回は、企業の固定資産のうち機械設備についてフォーカスしてみました。
日本企業は1990年代に非常に高い水準で機械設備の投資を行っていて、その後停滞と共に現在は他国並みにまで落ち着いている状況です。
OECDのデータでは、固定資産は以下の4つに分類されます。
住宅(Dwelling)
機械設備(Machinery and equipment and weapon system)
一般建造物(Buildings other than dwellings)
知財製品(Intellectual property product)
このうち、住居と知財製品は他の2項目と比べると小さいので、今回は一般建造物についてフォーカスしてみましょう。
企業における一般建造物は、オフィスビルや、工場、研究施設などが考えらえると思います。
まずは、各国の全体の推移から確認していきましょう。

図1 企業 固定資産 一般建造物 推移
図1は企業の一般建造物の推移となります。
これまでの傾向と同様に、日本は1990年代中頃にかけて成長し、その後横ばいという推移となります。
一般建造物については、人口が約3倍のアメリカを一時は上回るほどの高水準だった事になります。
これは日本の経済を考えるうえで、極めて重要なポイントではないでしょうか。
2. 成長率を見てみよう!
それでは、企業所有の一般建造物の成長率についても確認してみましょう。

図2 企業 固定資産 一般建造物 成長率
図2が企業の一般建造物の成長率を表したグラフです。
1995年を1.0としています。
日本は他の項目同様に、ほぼ横ばいである事がわかります。
一方で、ドイツ、フランス等他の先進国は全て右肩上がりで成長しています。
ドイツで1.7倍、フランスで2.2倍、イギリス、アメリカで3.2倍、カナダで4.0倍、韓国に至っては7.5倍の水準ですね。
他国はしっかりと成長しているわけですが、日本だけは横ばいです。
固定資産は通常減価していくものですから、日本の場合は新規に設備する分と、既設の施設の減価分がちょうど釣り合うくらいの投資しか行われていないと解釈する事ができると思います。
3. 1人あたりの水準を見てみよう
それでは、企業の一般建造物について1人あたりの水準を見てみましょう。

図3 企業 固定資産 一般建造物 1人あたり 推移
図3は企業の一般建造物を人口1人あたりに換算したグラフです。
日本は1990年代中頃に極めて高水準で、アメリカの3倍近くに達している事がわかります。
その後停滞と共に、他国に追いつかれつつあり、現在はアメリカや韓国とほぼ同水準に落ち着いていますね。
韓国やアメリカは上昇傾向が続いていますが、その他の主要国はリーマンショック後に停滞気味のようです。
4. 日本企業の施設は多すぎるのか!?
1人あたりの企業の一般建造物が具体的にどの程度の水準なのか、比較してみましょう。
まずは、日本経済の絶頂期であった1997年の状況です。

図4 企業 固定資産 一般建造物 1人あたり 1997年
図4が1997年の状況を、水準が高い国順に並べたグラフです。
日本は26,840$と、ノルウェーに次いで2番目の高水準でした。
ドイツやアメリカとも2倍近くの差をつけていますね。
この当時日本の機械設備は1人あたり12,553$でした。
参考記事:「設備投資」の適正水準とは!?
実は企業の固定資産を考えるうえでは、機械設備よりも一般建造物の方がボリュームが大きいという事にもなりますね。
確かに製造設備などよりも、その工場や研究施設の建造費の方が高くつくと考えれば、納得感もあります。
当時の日本企業の固定資産は1人あたり47,972$でした。
参考記事: 企業の「固定資産」と経済成長
固定資産の半分以上を施設などの一般建造物が占める事になりますね。

図5 企業 固定資産 一般建造物 1人あたり 2018年
図5が直近の2018年のグラフです。
日本は32,737$で、韓国(33,394$)、アメリカ(33,055$)とほぼ同水準となっています。
OECD30か国中8番目の水準ですね。
工業立国ドイツは24,902$で日本やアメリカよりは1段低い水準であることも特徴的です。
ドイツは他の項目でもそうなのですが、固定資産への投資は着実にゆっくりと増やしている印象を受けます。
イギリス、イタリア、フランスなどはかなり低い水準であることも特徴的ですね。
特にイギリスやフランスは製造業からの脱却が進んでいる国々ですので、必然的に企業の施設の水準は低めになっているのかもしれません。
5. 日本経済の転換は企業が握る?
日本経済が停滞する中で、最も変質しているのが企業ですね。
その企業が何故変質してしまったのか、実はこの辺りにヒントがあるような気がします。
今までの統計で見てきた通り、日本企業は1990年のバブル崩壊で変質が始まったように思います。
設備投資が減り、労働者の給与総額やGDPが横ばい傾向へと変化しました。
今回わかったのは、バブル期~バブル崩壊後の2000年あたりまでに、企業の設備や施設が他国と比較して過剰な水準にまで高まってしまったように見受けられることです。
バブル期に融資を受けて株式や不動産に過剰に投資を行うのと並行して、国内事業の設備投資等も大きく増大したのかもしれません。
そして、円高傾向や物価水準高もあいまって、企業設備の水準が極めて過剰な水準にまで高まってしまったのかなと思います。
当時の日本の物価水準は、1995年でアメリカの約2倍という極端な水準でした。
需要に対して、供給力が極端に高まってしまい、しかも他国に比べれば極端に高い物価なので、大量に作った生産品が売れません。
既に投資した設備をフル稼働し、設備規模を維持するために「安く大量に」という規模の経済を追うビジネスモデルばかり定着してしまったのかもしれませんね。
本来そこで、高付加価値路線に転換できればよかったのかもしれませんが、残念ながら薄利多売ビジネスを志向するようになってしまったように思います。
結局はこのような規模の経済一辺倒の価値観が続き、その後の日本型グローバリズムに繋がっていったのではないでしょうか。
このように考えた場合、現在は企業の負債も、固定資産も他国並みに落ち着いてきていますので、産業構造を転換していく好機が到来しているようにも見受けられます。
つまり、バブルを機に異常をきたした状態が、長引く経済停滞と共にある程度解消してきていると見て良いのではないでしょうか。
ここから先も、規模の経済一辺倒の経済観で停滞を続けるのか、先進国らしい経済構造に転換していくのか、私たちは岐路に立たされているように感じます。
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