196 物価指数の違いとは? - 消費者物価指数とGDPデフレータ
1. 物価指数の不思議な不一致
前回は、GDP生産面について産業別シェアを各国比較してみました。
アメリカやイギリスなどの工業から専門サービス業や公共的な事業へ転換を進める国や、ドイツや韓国のように得意な工業のシェアを維持しながら産業の転換を進める国など、特徴がみてきました。
一方で日本は、最大産業の工業の経済規模が縮小しつつ全体のシェアも低下しています。専門サービス業や公務・教育・保健のシェアは増加していますが、まだ他国と比較すると一般サービス業のシェアが高く、中途半端な状況とも言えそうです。
日本の経済統計を見ている中で、不思議な点はいくつもありますが、その代表的なものが物価の停滞です。
しかも、GDPデフレータと消費者物価指数(CPI)で数値が大きく異なります。
消費者物価指数はGDPデフレータと比較すると下振れしやすいという事はよく言われるようですが、他国もそうなのでしょうか?
今回は、この物価に関する2つの指標について改めてフォーカスしてみたいと思います。

図1 物価指数の比較 日本
(OECD統計データ より)
図1は日本のGDPデフレータと消費者物価指数について、1997年を基準(1.0)とした場合の変化率を示したグラフです。
消費者物価指数はほぼ横ばいで、2014年あたりからやや増加基調です。
GDPデフレータは大きくマイナスになったから、2014年以降増基調となっています。
直近では消費者物価指数が1.03程度に対して、GDPデフレータが0.89程度です。
やはり消費者物価指数に対して、GDPデフレータの方がかなり下振れしているようです。
経済指数の推移をみる場合には、名目値と実質値という区別を行いますね。
名目値は額面の金額そのものの数値です。
一方実質値は、名目値の変化に対して、物価の変化分を除外した数量的な変化を表す数値です。
物価は変化しますので、基準年の物価で一定とみなした場合に、数量的にどの程度の変化があったのかを表すことになります。
実質値は非常に重要な数値ですが、物価が停滞している日本においては、実質化した数値を見る際に注意が必要です。
実質値 = 名目値 ÷ 物価
実質値は上式のように求められます。
日本の場合は物価指標が1前後で変動していますので、実質化することによって微妙な変化として現れてきます。

図2 日本 GDP 物価指数による実質化比較
(OECD統計データ より)
図2が日本の名目GDP(黒)を、GDPデフレータで実質化した場合(青)と、消費者物価指数で実質化した場合(赤)の比較となります。
名目GDPを図1のそれぞれの物価指標で割ったものです。
消費者物価指数で実質化したグラフ(赤)はほとんど名目値と変わりません。
図1で見た通り、消費者物価指数は1前後で推移しているため当然ですね。
一方でGDPデフレータで実質化したグラフ(青)は名目値よりも大きくプラスとなっています。
図1でみれば、GDPデフレータは1未満のため、割り算をすると元の数値よりも大きくなるわけです。
しかも、右肩上がりに増加しているようなグラフになりますね。
もちろんGDPを実質化する際には、GDPデフレータで実質化するのが当然です。
一方で平均所得などは、どちらで実質化するのが良いでしょうか?
このような問題は、名目や実質とはそもそも何なのかを考えるのにとても興味深い観点ではないでしょうか。
2. 他国も物価指標が乖離しているのか?
それでは、この2つの物価指数が乖離しているのは日本だけの特徴なのでしょうか?
他の主要国についても見ていきましょう。

図3 物価指数の比較 1997年基準 アメリカ
(OECD統計データ より)

図4 物価指数の比較 1997年基準 イギリス
(OECD統計データ より)

図5 物価指数の比較 1997年基準 カナダ
(OECD統計データ より)
図3~5がアメリカ、イギリス、カナダの物価指数の比較です。
3か国ともGDPの成長率も比較的高い水準の国々ですが、物価も堅調に上昇しているようです。
イギリス、カナダはほぼ一致しますが、アメリカはややGDPデフレータの方が下振れしているようです。
各国ともGDPデフレータと消費者物価指数は同期して上昇していて、年率2%程度の上昇率のようです。
1997年の水準に対して1.5~1.6倍程度の物価上昇となっています。
もう少し低成長な国々はどうでしょうか?

図6 物価指数の比較 1997年比較 イタリア
(OECD統計データ より)

図7 物価指数の比較 1997年基準 フランス
(OECD統計データ より)

図8 物価指数の比較 1997年基準 ドイツ
(OECD統計データ より)
図6~8がイタリア、フランス、ドイツのグラフです。
タリア、フランスはリーマンショックのあたりから成長率が鈍化しているように見えますが、両指標はほぼ一致します。
ドイツは堅調な推移ですがややGDPデフレータの方が下振れしているようです。
これら3か国はアメリカなどと比較するとGDPの成長も低成長ですが、物価の上昇率もやや低いようです。
概ね1~2%程度の成長率で、1997年の時点に比べて1.3~1.5倍程度の物価となっているようです。

図9 物価指数の比較 1997年基準 韓国
(OECD統計データ より)
図9が韓国のグラフです。
韓国は非常に高い水準で経済成長していますが、物価の上昇も大きいようです。
消費者物価指数で1.75倍、GDPデフレータで1.5倍程度の物価上昇ですね。
やはりGDPデフレータの方が下振れしているようです。
3. 物価指数に乖離があるのは工業国だから?
上記の特徴をよく見てみると、ドイツ、韓国などの工業国は消費者物価指数よりもGDPデフレータの方が下振れしていることがわかります。
再度同じスケールで日本のグラフも見てみましょう。

図10 物価指数の比較 1997年基準 日本
(OECD統計データ より)
図10が日本のグラフを他国と同じスケールに直したものです。
明らかに他国と比べると物価が停滞あるいはマイナスしていることがわかります。
そしてGDPデフレータの方が下振れしていますね。
工業国の方がGDPデフレータが下振れしやすいという特徴があるのかもしれません。
「消費者物価指数は、全国の世帯が購入する家計に係る財及びサービスの価格等を総合した物価の変動を時系列的に測定するものです。 すなわち家計の消費構造を一定のものに固定し、これに要する費用が物価の変動によって、どう変化するかを指数値で示したもので、毎月作成しています。 指数計算に採用している各品目のウエイトは総務省統計局実施の家計調査の結果等に基づいています。 品目の価格は総務省統計局実施の小売物価統計調査によって調査された小売価格を用いています。 結果は各種経済施策や年金の改定などに利用されています。」(統計局HPより)
消費者物価指数は、材やサービスがどの程度の数量購入されるかというバスケットを固定して、物価を推定する手法となります。
GDPデフレータは、バスケットが固定されておらず、人々の消費や投資の行動に応じて重みづけが変わっていくという事になるようです。
GDPデフレータは内閣府が作成していますが連鎖方式という計算方法により算出されています。
また、消費者物価指数は私たち消費者の消費するモノやサービスを観測したものですが、GDPデフレータで計上されるような企業間取引の物品や輸出品の物価は反映されません。
このように、物価を算出する上でのバスケットの想定の仕方や、観測するモノやサービスの範囲に相違があるようです。
4. 実質化のポイント
今回は、2つの物価指数の違いについてフォーカスしてみました。
特に1997年以降停滞の続く日本においては、実質値を算出する上でどの物価指数(デフレータ)で実質化するかで数値が大きく変わることがわかりました。
物価指数によっては、実質値が停滞しているようにも、成長しているようにも、減少しているようにも見えます。
消費者物価指数やデフレータにはさらに詳細項目がありますので、真に実質値と呼べるものを正しく計算するのは非常に難しいのではないでしょうか。
GDPだけでなく、平均給与なども実質化を考えるのであれば、どの指数で計算するのが適切なのか、よく考える必要があるように思いま
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