179 生産面から見る日本の物価 - 経済活動別デフレータ

1. 物価マイナスの産業とは?

前回は、GDP生産面(経済活動別)の実質値の変化についてフォーカスしてみました。
実質値は、ある基準年で物価を固定し、その物価で置き換えた場合の数量的な変化を確認するための指標となりますね。

実質GDP = 名目GDP ÷ 物価指数(デフレータ)

GDP生産面で実質GDPで成長しているという事は、生産量が増えているという事になります。
日本は、名目GDPが停滞していて、実質GDPが成長しています。
つまり、デフレータ=物価指数が低下して、モノや安くなっている状況ですね。

今回は、日本の統計データを基に、各産業のデフレータを確認していきたいと思います。

GDP 経済活動別 デフレータ 日本

図1 GDP 経済活動別 デフレータ 日本

図1はGDP経済活動別(いわゆる生産面)のデフレータを1994年基準に直してグラフ化したものです。
以前はOECDのデータで同様の生産面のデフレータを取り上げました。
 参考記事: 良いものを安くは正しいのか

図1の区分の仕方は、国際標準産業分類 第4版に準じたものになっていて、OECDのデータ区分とほぼ一致します。
ただし、OECDの区分よりもやや詳細に分かれていますので、こちらの方がより実態を把握しやすいかもしれません。

デフレータ=物価指数が堅調に増加しているのが、宿泊・飲食サービス(グレー)と建設業(水色)くらいです。
鉱業(ピンク)は物価がマイナス推移していましたが、近年急激にプラスに転じています。
同様に農林水産業(薄緑)、電気・ガス・水道・廃棄物処理産業(紫)も大きく物価マイナス傾向だったのが、1994年時点の水準に達しないまでも近年急激に増加しています。

金融業は2000~2010年ころまで急激にデフレータが増加→減少し、現在は1994年時点よりもマイナスです。
その他の産業は、停滞や、ややマイナスで推移しています。

日本は他の主要国と比べると全体的に物価が停滞しています。
他の主要国と同じような動きをしているのは、情報・通信業(青)で、大きく物価が下落しています。
恐らく携帯電話料金の値下げや、通信速度の向上がデフレータにも反映しているものと思います。
物価はこのように、分野によっては単位性能あたりのコストという要素も計算されているようです。

他の主要先進国と異なり下落傾向なのが、製造業(緑)と専門・科学技術・業務支援サービス業(薄橙)です。

日本は前回前々回で見てきた通り、製造業が最大産業です。
その最大産業の製造業が、名目GDPで10兆円ほど縮小していますが、実質値では成長しています。
つまり、図1に示されるようにデフレータがマイナスという事ですね。

1994年に比べて7割未満の物価水準になっています。
全体的に製造業では値段を上げるどころか、大きく値段を下げている事を示します。
これは、OECDのデータで確認したように、他の主要国には見られない日本独特の傾向です。

もう一つ特徴的なのは、成長産業である専門・科学技術・業務支援サービス業のデフレータがマイナスという事です。
コンサルティングや士業など専門的なビジネスが多く、この産業は他の主要国も成長していてGDPもプラスです。

日本だけこの産業のデフレータがマイナスとなっています。
この産業には業務支援サービス業が含まれていますが、その中に労働者派遣業が含まれている事等も影響しているかもしれませんね。

2. 製造業の物価は何が下がっているのか?

やはり日本では製造業が最も変質しているようです。
製造業の更に詳細な業種別のデフレータも見てみましょう。

GDP 製造業 デフレータ 日本

図2 製造業 詳細 デフレータ 日本

図2は製造業の詳細業種についてのデフレータです。

成長産業の移ろいなどが良くわかるように思います。

まず目を引くのが、情報・通信機器(濃緑)と電子部品・デバイス(薄青)の下落幅が極めて大きいという部分です。
これらに共通するのは、ハイテク産業である事とグローバル化の影響を大きく受けている事ですね。

恐らくデフレータは、半導体の性能も加味した指標となっていると思いますので、処理速度等の性能向上により物価(同じ性能あたりの生産額)が下落している面が強いように思います。
例えば、CPUの処理速度1GHzのPCが以前は50万円だったのが、現在は5万円程度でも買えます。
たしかに、1994年当時から比べると、性能あたりの価格は10分の1程度になっているのも納得がいきます。

もちろん、生産コストの低下や、他国製品との価格競争なども要因も相まって、こういった分野の物価下落が顕著なのかもしれませんね。
電気機械も一部この影響を受けているものと推定できます。

性能向上やコモディティ化によって、これらハイテク産業が全体の物価水準を引き下げているという面がありそうです。

その他の業種についても見てみましょう。

デフレータがプラスで推移しているのが石油・石炭製品(茶)です。
これは明らかに輸入による原料の値上がりが影響していそうですね。
日本は国内物価が停滞しているので、海外とは相対的に物価が下がっている相対的デフレ期とも言える状況です。
国内から見れば、輸入品の物価が上がっている事になりますね。

食料品(ピンク)、金属製品(青)、一次金属(グレー)は停滞から直近ではややプラスです。
一次金属、食料品はやはり原材料の輸入価格上昇の影響がありそうですね。
さらにこれに付随する金属製品の物価に影響がでていると見れそうです。

化学(水色)は規模の大きな業種ですが、比較的物価が下がっています。
また、製造業の2台巨頭である輸送用機械(赤)、はん用・生産用・業務用機械(薄緑)もマイナス→停滞している状況です。
1994年と比べると9割未満の水準です。

その他の業種もややマイナス→停滞といった状況が目立ちます。

3. 物価からもわかる製造業の特殊性

今回は経済活動別の物価(デフレータ)についてご紹介しました。
国内データを見ると、物価の変遷が更に詳細にわかり興味深いですね。
日本では特に最大産業の製造業が変調しているという事が良くわかります。

デフレータ=物価指数で見てみると、製造業の中の半導体関連業種の物価下落が著しく全体を押し下げている事がわかります。
これは、ハイテク産業の技術向上によるものと、国内産業の縮小及び価格競争、グローバル化・コモディティ化などが反映されたものと考えられそうです。

一方で、その他の業種でも物価の下落や停滞が目立ちます。
特に、規模の大きな産業も物価が下がっている事が特徴的ですね。

製造業全体では1994年の7割程度の物価水準になってしまっています。
ハイテク産業を除いたとしても、全体的に物価が下がっています。

製造業は、技術向上も含めて安価に大量にという規模の経済を求める傾向にありますね。
名目値よりも実質値の方が成長しているという事は、それを裏付けるように思います。

日本の製造業は、名目値、つまり金額で見た付加価値が縮小しています。
しかも、この数値は売上高や純利益ではなく付加価値です。

付加価値は、労働者の仕事の金額的価値そのものですね。
その仕事の価値が下がっているという事にもなります。

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・本ブログに用いられる統計データは政府やOECDなどの公的機関の公表しているデータを基にしています。
・統計データの整理には細心の注意を払っていますが、不整合やデータ違いなどの不具合が含まれる可能性がございます。
・万一データ不具合等お気づきになられましたら、「お問合せフォーム」などでご指摘賜れれば幸いです。
・データに疑問点などがございましたら、元データ等をご確認いただきますようお願いいたします。
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