202 労働分配率が高い産業とは? - 産業別労働分配率
1. 産業別の労働分配率
前回は、主要国の産業別平均給与を計算しご紹介しました。
各国で例外的な事例もありますが、おおむね情報通信業や金融業、工業といったあたりの平均給与が高く、一般サービス業や公務・教育・保健の平均給与が比較的低めであるようです。
今回は産業別のGDPのデータから、労働分配率を計算してみたいと思います。
GDP(国内総生産)は国内で生産された付加価値の合計です。
GDP 分配面には労働者への分配である雇用者報酬(Compensation of employees)が含まれます。
労働分配率 = 雇用者報酬 ÷ 付加価値と考えられますので、産業ごとの雇用者報酬をGDPで割れば産業ごとの平均労働分配率を計算することができますね。
早速日本のデータから見ていきましょう。

図1 産業別 労働分配率 日本
(OECD統計データ より)
図1が日本の産業別労働分配率の推移です。
平均で約50%程度です。
建設業、専門サービス業、公務・教育・保健といったあたりの水準が高いことがわかります。
一方、工業は平均値未満で労働分配率がやや低めですね。
労働分配率は稼ぎ出す付加価値に対する人件費の割合ですので、設備で稼ぐよりも、労働者自体の知識や技能で稼ぐ産業の方が労働分配率が高くなるという傾向がありそうです。
不動産業は帰属家賃がGDPに含まれており、正確な労働者への分配率を計算できないため割愛しています。
産業別 労働分配率 日本
2019年 単位: %
77.9 建設業
71.8 専門サービス業
65.8 公務・教育・保健
62.9 その他サービス業
56.8 一般サービス業
51.6 全産業平均
2. アメリカの労働分配率
次にアメリカの産業別労働分配率を見ていきましょう。

図2 産業別 労働分配率 アメリカ
(OECD統計データ より)
図2がアメリカのグラフです。
公務・教育・保健がやはり8割程度と非常に高水準ですね。
一般サービス業、専門サービス業、その他サービス業、建設業が続きます。
金融業の労働分配率がリーマンショック後に低下傾向なのが特徴的です。
工業や情報通信業も低下傾向ですね。
産業別 労働分配率 アメリカ
2019年 単位: %
79.4 公務・教育・保健
67.0 専門サービス業
66.5 建設業
66.0 その他サービス業
64.9 一般サービス業
55.4 全産業平均
3. イギリスやドイツ、フランスの産業別労働分配率
それでは、イギリス、ドイツなど他の主要国についても見ていきましょう。

図3 産業別 労働分配率 ドイツ
(OECD統計データ より)
図3がドイツのグラフです。
突出して公務・教育・保健が高いですが、その他の産業は平均値に収斂していくような特徴があります。
建設業が高い水準から低下し、専門サービス業や情報通信業が上昇して、ちょうど60~65%の間に多くの産業がまとまっています。
工業も平均値以上で、比較的労働分配率が高いのも特徴的ですね。
産業別 労働分配率 ドイツ
2019年 単位: %
81.0 公務・教育・保健
65.1 一般サービス業
63.6 専門サービス業
61.4 工業
60.1 情報通信業
59.2 全産業平均

図4 産業別 労働分配率 イギリス
(OECD統計データ より)
図4がイギリスのグラフです。
2020年のデータまであるため、2020年のコロナ禍による労働分配率の変化も表現されていて興味深いですね。
経済停滞によってさまざまな産業の仕事が滞り、付加価値が低下したため多くの産業で労働分配率が上昇しています。
給与所得は変わらず、仕事の量が低下したためその割り算である労働分配率が上昇しているわけですね。
一方、公務・教育・保健だけ低下しています。
コロナ禍で公共サービスが増え、給与所得に対して付加価値が増加した結果、労働分配率が下がっているのだと思います。
非常に興味深い変化ですね。
2019年までの推移を見てみると、やはり公務・教育・保健の水準が突出して高く、次いで一般サービス業、専門サービス業などとなっています。
建設業の労働分配率が低いのもイギリスの特徴です。
産業別 労働分配率 イギリス
2019年 単位: %
76.7 公務・教育・保健
67.0 一般サービス業
63.6 情報通信業
62.6 専門サービス業
52.9 工業
54.4 全産業平均

図5 産業別 労働分配率 フランス
(OECD統計データ より)
図5がフランスのグラフです。
フランスも比較的一定範囲にまとまった分布になっていますね。
公務・教育・保健とその他サービス業の水準が高いですが、専門サービス業や金融業、建設業の労働分配率もかなり高いようです。
フランスも2020年までのデータがありますが、イギリスほど明確に変化が出ているわけではなさそうです。
金融業、一般サービス業、建設業、工業は上昇していますが、専門サービス業や情報通信業は低下しています。
産業別 労働分配率 フランス
2019年 単位: %
75.4 その他サービス業
75.0 公務・教育・保健
68.8 専門サービス業
65.2 金融業
62.7 一般サービス業
57.3 全産業平均
4. 経済変調中のイタリア、経済成長中の韓国
それでは、イタリアと韓国についても見ていきましょう。

図6 産業別 労働分配率 イタリア
(OECD統計データ より)
図6がイタリアのグラフです。
全体的にやや上昇基調で収斂していく様子が見て取れますね。
公務・教育・保健が突出して高い水準を維持しています。
工業も高い水準であることが特徴的ですが、全体的に労働分配率は低めです。
イタリアはGDP分配面が極端に企業側(営業余剰)に多いため、労働者への分配が総じて少ないのが特徴です。
参考記事: 付加価値の「分配」って何?
産業別 労働分配率 イタリア
2019年 単位: %
72.3 公務・教育・保健
56.5 その他サービス業
52.5 工業
47.9 建設業
47.0 金融業
44.8 全産業平均

図7 産業別 労働分配率 韓国
(OECD統計データ より)
図7が韓国のグラフです。
他の主要国と異なり、建設業が極めて高い水準ですね。
専門サービス業もかなり高い水準で、公務・教育・保健に次ぎます。
産業別 労働分配率 韓国
2019年 単位: %
83.2 建設業
72.6 公務・教育・保健
66.6 専門サービス業
60.2 その他サービス業
58.9 一般サービス業
51.8 全産業平均
4. 主要国の労働分配率の特徴とは
いかがでしょうか?
今回は主要国の産業別労働分配率について取り上げてみました。
労働分配率は、その産業で生み出される付加価値のうち、労働者への分配がどれくらいの割合かを示したものです。
稼ぐ付加価値に対して、労働者の賃金が相対的に低ければ労働分配率は低くなります。
一方で、稼ぐ付加価値に対して労働者の賃金が相対的に高いと労働分配率が高くなりますね。
主要国全体的に共通しているのは、公務・教育・保健の労働分配率が高いことです。
これまで見てきたように、公務・教育・保健は公共性の高い事業ですが、労働生産性も平均給与も比較的低い産業です。
属人的な仕事も多いため、労働分配率が高いものと思います。
一般サービス業や専門サービス業も比較的労働分配率が高い産業ですね。
やはり、属人的な仕事は分配率が高くなる傾向のようです。
一方で、工業は比較的労働分配率が低めの国が多いようです。
ドイツやイタリアはやや高いです。
日本と韓国で建設業の労働分配率が非常に高いのも特徴的ですね。
どのような産業で労働者への分配が優先されているのか、とても示唆的なデータではないでしょうか。
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