203 先進国の稼げる産業とは - 生産性・平均給与の国際比較

1. 決して低くはない日本の工業の生産性

前回は、GDP(付加価値)に対する労働者への雇用者報酬の割合である、労働分配率について取り上げました。
日本は、全体的に労働分配率が低めで、特に生産性が高い工業でも顕著なようです。

ここ数回で、産業別の労働者数や、生産性(1人あたりGDP)、平均給与について各国ごとの推移をご紹介してきました。
今回は、直近(2019年)の数値について、産業ごとに各国の比較をしてみましょう。

まずは、全産業の平均値からです。

1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 全産業平均 2019年

図1 1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 全産業平均 2019年
(OECD統計データ より)

図1が主要国について、労働者の1人あたり付加価値平均給与労働分配率をまとめたものです。
全産業の平均値となります。
カナダは残念ながら産業ごとの給与所得のデータが揃っていなかったため、1人あたり付加価値だけのグラフになります。

アメリカが突出して高い数値ですが、それ以外のG7諸国で比較すると日本は生産性では決して低い水準とまでは言えませんね。
一方で、平均給与は明らかに他国よりも劣っているようで、労働分配率も低めです。

全産業平均
2019年 単位:ドル (%)
A: 1人あたり付加価値
B: 平均給与
C: 労働分配率
A/B/C
129,345 / 71,653 / 55 アメリカ
85,223 / 48,828 / 57 フランス
78,518 / 42,706 / 54 イギリス
77,421 / 45,821 / 59 ドイツ
74,333 / 38,342 / 52 日本
70,661 / 31,674 / 45 イタリア

1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 工業 2019年

図2 1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 工業
(OECD統計データ より)

図2が工業のグラフです。
図1の平均値と比べると、工業は各国とも生産性も平均給与も高めの産業ですね。
やはりアメリカが突出していますが、カナダの生産性も高い水準です。

日本も生産性は比較的高い水準を誇りますが、他国と比べると平均給与が大きく見劣りします。
特にドイツと比較すると、労働分配率の違いが大きいですね。
同じ工業立国としてこの点は大きく異なるようです。

工業
2019年 単位:ドル (%)
A: 1人あたり付加価値
B: 平均給与
C: 労働分配率
A/B/C
162,765 / 73,838 / 45 アメリカ
120,309 / 63,667 / 53 イギリス
113,624 / 61,240 / 54 フランス
105,395 / 48,696 / 46 日本
104,048 / 63,916 / 61 ドイツ
82,574 / 43,368 / 53 イタリア

2. 差のつくサービス業

それでは、他の産業についても同様にみていきましょう。
まずは、サービス業関連からです。

1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 一般サービス業 2019年

図3 1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 一般サービス業
(OECD統計データ より)

図3が一般サービス業のグラフです。
一般サービス業は、小売業・卸売業、宿泊業、飲食業などが含まれます。

総じて各国とも生産性も平均給与も低い水準ですね。
一方で労働分配率は各国とも高めです。
イタリアの生産性が高めなのが目を引きます。
イタリアは一般サービス業のGDP比率が高い国でもあります。

一般サービス業
2019年 単位:ドル (%)
A: 1人あたり付加価値
B: 平均給与
C: 労働分配率
A/B/C
83,255 / 54,053 / 65 アメリカ
66,153 / 41,455 / 63 フランス
58,783 / 25,817 / 44 イタリア
56,250 / 31,968 / 57 日本
54,825 / 35,695 / 65 ドイツ
51,881 / 34,783 / 67 イギリス

1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 専門サービス業 2019年

図4 1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 専門サービス業
(OECD統計データ より)

図4が専門サービス業のグラフです。

専門サービス業には、コンサルティング業や士業、業務支援サービス業などが含まれます。
アメリカの生産性と平均給与が突出しているのが目を引きますね。

その他の国は一般サービス業よりもやや高い水準です。
ただし、日本の場合は生産性で一般サービス業より低く、平均給与で大幅に高い水準です。
(イタリアに至っては両方とも一般サービス業よりも低い水準です)

専門サービス業
2019年 単位:ドル (%)
A: 1人あたり付加価値
B: 平均給与
C: 労働分配率
A/B/C
157,983 / 105,844 / 67 アメリカ
76,775 / 52,833 / 69 フランス
64,457 / 40,983 / 64 ドイツ
58,505 / 36,599 / 63 イギリス
55,175 / 22,890 / 41 イタリア
54,687 / 39,266 / 72 日本

3. 稼ぎ頭の金融保険業・情報通信業

次に、金融保険業と情報通信業についても見ていきましょう。

1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 金融保険業 2019年

図5 1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 金融保険業
(OECD統計データ より)

図5が金融保険業のグラフです。
各国とも凄まじい生産性と平均給与の水準を誇ります。
アメリカが突出していますが、イギリスもかなり高水準ですね。
他の産業では総じて低めのイタリアも金融業の生産性は非常に高いようです。

日本も他の産業よりも生産性は高いものの、平均給与は他国と比較すればかなり低い水準のようです。

金融保険業
2019年 単位:ドル (%)
A: 1人あたり付加価値
B: 平均給与
C: 労働分配率
A/B/C
219,122 / 113,932 / 52 アメリカ
197,576 / 95,541 / 48 イギリス
138,456 / 65,024 / 47 イタリア
124,517 / 57,588 / 46 日本
124,022 / 73,997 / 60 ドイツ
117,893 / 76,925 / 65 フランス

1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 情報通信業 2019年

図6 1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 情報通信業
(OECD統計データ より)

図6が情報通信業のグラフです。

やはりアメリカがダントツですが、次いでフランスが高い水準のようです。
日本も生産性は高めですが、平均給与が低いようです。
日本は金融業もそうですが、生産性の高いエリート産業でも、平均給与が低いという特徴がありそうです。

情報通信業
2019年 単位:ドル (%)
A: 1人あたり付加価値
B: 平均給与
C: 労働分配率
A/B/C
224,996 / 109,503 / 49 アメリカ
143,629 / 85,006 / 59 フランス
127,743 / 62,064 / 49 日本
123,344 / 74,183 / 60 ドイツ
114,786 / 72,984 / 64 イギリス
105,932 / 48,825 / 46 イタリア

4. 公共サービスや建設業、農林水産業

つづいて、公務・教育・保健、建設業、農林水産業についても比較してみましょう。

1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 公務・教育・保健 2019年

図7 1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 公務・教育・保健
(OECD統計データ より)

図7が公務・教育・保健のグラフです。
公共性の高い産業ですので、生産性を求めるものではありませんが、総じて1人あたり付加価値が低めの産業です。
その割には、平均給与が若干高めになっていますので、労働分配率が軒並み高いのが特徴ですね。
アメリカ以外の横並び感が何とも象徴的です。

日本も他の産業では、生産性のわりに平均給与が低いですが、公務・教育・保健ではほぼ他国並みの水準と言えそうです。
それでもやや労働分配率は低めです。

公務・教育・保健
2019年 単位:ドル (%)
A: 1人あたり付加価値
B: 平均給与
C: 労働分配率
A/B/C
98,877 / 78,467 / 79 アメリカ
65,916 / 43,366 / 66 日本
63,337 / 47,472 / 75 フランス
61,118 / 44,187 / 72 イタリア
58,853 / 44,741 / 77 イギリス
57,763 / 46,764 / 81 ドイツ

1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 建設業 2019年

図8 1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 建設業
(OECD統計データ より)

図8が建設業のグラフです。

全体的に生産性が低く、平均給与も低めです。
アメリカとフランスがどちらもやや高めですが、日本が生産性のわりに平均給与が高く労働分配率が78%という高水準です。
イギリスとイタリアの平均給与が低い事も特徴的ですね。

建設業
2019年 単位:ドル (%)
A: 1人あたり付加価値
B: 平均給与
C: 労働分配率
A/B/C
78,308 / 52,091 / 67 アメリカ
77,405 / 46,762 / 60 フランス
70,562 / 39,219 / 56 ドイツ
70,102 / 30,172 / 43 イギリス
57,458 / 44,770 / 78 日本
50,891 / 24,354 / 48 イタリア

1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 農林水産業 2019年

図9 1人あたり付加価値・平均給与・労働分配率 農林水産業
(OECD統計データ より)

図9が農林水産業です。

各国とも他の産業と比較すると生産性も平均給与も低く、労働分配率が極端に低いのが特徴的です。
特に日本の生産性は極端に低いですね。
もちろん、農林水産業は生産性を追求する産業ではありませんが、日本は独特の産業文化があるように思います。

農林水産業
2019年 単位:ドル (%)
A: 1人あたり付加価値
B: 平均給与
C: 労働分配率
A/B/C
81,070 / 23,792 / 29 アメリカ
55,174 / 15,267 / 28 フランス
50,567 / 15,346 / 30 ドイツ
44,073 / 15,621 / 35 イギリス
41,380 / 11,533 / 28 イタリア
19,958 / 10,123 / 51 日本

5. 比較から見える各国の特徴

今回は、産業別生産性(1人あたり付加価値)、平均給与労働分配率について主要国での比較をしてみました。
各国の特徴をまとめてみましょう。

アメリカ
・全体的に生産性も平均給与も突出して高水準
・特に金融業と情報通信業では群を抜く高さ
・専門サービス業も高い水準を誇る

ドイツ
・G7の中では全体的に中程度
・やや労働分配率が高めの産業が多い

フランス
・G7の中ではやや上位が多い
・情報通信業と専門サービス業の水準が特に高い

イギリス
・G7の中ではやや下位が多い
・金融業が突出して高水準

イタリア
・G7の中で最下位が多い
・金融業の水準が高い
・全体的に生産性のわりに平均給与が低い

日本
・G7の中でイタリアに次いで下位の産業が多い
・生産性は中程度~下位ながら、平均給与が総じて低い
・建設業は生産性が低いわりに平均給与は高め
・農林水産業は極端に生産性が低く、労働分配率が高い

日本以外の主要国は、金融業や情報通信業など生産性の高い産業は、平均給与もそれに応じてかなり高い水準に達しています。
日本はこれらの高付加価値産業でも、他の産業よりは高水準ながら、他国と比較すると平均給与は低めに抑えられています。
一方で建設業や農林水産業など、生産性の低い産業では平均給与もそれなりの水準で、労働分配率が高めです。

日本は、平均給与が全体的に低めですが、産業間の格差が小さいという事が言えそうです。

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