218 豊かになれない日本の労働者 - 世代別平均給与の推移

1. 働く人が豊かになれない日本

前回は、家計の金融資産、純金融資産について、先進国での比較をしてみました。
日本は先進国(OECD36か国)の中で、比較的金融資産を多く持つ国です。

特に現金・預金の水準は圧倒的なのですが、その内訳を見ると現在の高齢層が現役世代の時に積上げた部分が多く、大きく嵩上げされた状態といえそうです。
一方で、現役世代は先進国で唯一平均給与が停滞していて、金融資産もあまり増えていません。

現役世代の給与が減少している事については、本ブログでも何度か触れてきました。
 参考記事: サラリーマンの貧困化
 参考記事: 安くなったエンジニアたち
 参考記事: 先進国の所得格差の特徴
 参考記事: 安くなった日本人

今回は、日本の労働者の平均給与に改めてフォーカスしてみましょう。
日本の平均給与が伸びないのは、男性よりも低賃金な女性や高齢労働者が増えたので、その分平均値が下がっているからだと考える人が多いようです。
一方で、現役世代の男性労働者自体が低所得化している事は、あまり知られていないようです。

民間給与実態統計調査に、男女別年齢階層別のデータがありましたので、詳しく眺めていきたいと思います。
まずは、男女合計の推移から見てみましょう。

平均給与 男女合計

図1 平均給与 男女合計 年齢階層別
(民間給与実態統計調査)

図1は、男女合計の年齢階層別の平均給与の推移グラフです。
元のデータは5歳ごとのデータですが、煩雑なので私の方で10歳ごとの数値に再計算しています。
1年間勤めた労働者(1年勤続者)のデータとなります。

本ブログでも労働者の平均給与については、何度か取り上げてきましたが、年齢階層別の推移については初めてとなります。

まず、全年齢合計の平均給与(黒)は、バブル崩壊までは右肩上がりに成長していて、バブル崩壊後成長が緩やかになり、1997年をピークにしていったん減少し、リーマンショックで急激に落ち込んだ後、徐々に回復傾向となっています。

ここまでは、これまでも取り上げてきた通りですね。
GDPや1人あたりGDPの推移とも連動しています。
そして、コロナ禍の影響とみられる2019年、2020年の減少が確認されます。
平均値では、20年以上前の1997年のピーク値を超えられていません。

年齢階層別にみると、どの世代も概ね全年齢合計の平均値と連動した推移となっています。
一方的に増えたり、減ったりする世代が特にない状況ですね。
ただし、リーマンショック後の推移では、50代に比べて40代が横ばい傾向であることが特徴的です。

平均給与 男女合計
1997年→2020年 単位:万円
合 計: 467.3 → 433.1 (-34.2)
20代: 336.4 → 323.2 (-13.3)
30代: 473.9 → 419.7 (-54.2)
40代: 529.7 → 485.5 (-44.2)
50代: 557.9 → 516.1 (-41.8)

もちろん、1997年当時よりも社会保険料が上がっていますので、可処分所得で見ると上記の数値よりもさらに減っているはずですね。
可処分所得については、今後別の機会に取り上げていきます。

平均給与 男女合計

図2 平均給与 男女合計 年齢階層別
(民間給与実態統計調査 より)

図2はそれぞれの年齢階層について、1997年の水準を基準(1.0)とした場合の倍率を現したグラフです。

どの年齢階層でも1997年から減少し、2009年を底にして増加傾向である事がわかります。
特に20代は2009年以降の回復傾向が強いようです。

ただし、どの年齢階層でも1997年より減少しています。
1997年の水準に対して、直近の2020年では平均で7%、30代では12%も減少している状況です。

2. 貧しくなった日本の男性労働者

続いて、男女別でもデータを確認していきましょう。

図1は男女合計のデータでした。
「女性労働者の増加によって平均給与が減少している」といった意見もあるようですが、実際に男性だけのデータとしてはどうでしょうか?

平均給与 男性

図3 平均給与 男性 年齢階層別
(民間給与実態統計調査 より)

図3が男性労働者の年齢階層別平均給与の推移です。

男女合計よりも数値は大きくなりますが、傾向はあまり変わりませんね。

1997年をピークにして、いったん減少し、2009年を底にして上昇傾向、直近は減少といった具合です。
ただし、リーマンショック後の推移が40代だけ横ばいなのが特徴的です。
いわゆるロスジェネといわれる世代ですが、50代の回復傾向と比べると大きく差があることがわかります。

平均給与 男性
1997年→2020年 単位:万円
合 計: 577.0 → 532.2 (-44.9)
20代: 374.8 → 352.0 (-22.8)
30代: 550.6 → 489.8 (-60.8)
40代: 672.5 → 598.0 (-74.5)
50代: 720.6 → 661.8 (-58.9)

1997年の水準と比べると、各年齢層で大きく平均給与が下がっています。
特に40代では74.5万円も下がっているのは驚きですね。
30代、50代も60万円ほど減少しています。

先ほどの男女合計値よりも減少幅が大きいようです。
男性労働者の平均給与がこれほど減少しているのは意外だったのではないでしょうか?

平均給与 男性

図4 平均給与 男性 年齢階層別
(民間給与実態統計調査 より)

図4が各年齢階層については、1997年を基準(1.0)とした倍率です。
どの年齢層も同期して推移している様子がわかりますね。

リーマンショック後の回復期も40代以外は一致して上昇傾向となっています。
40代だけが横ばい傾向である事も確認できます。

3. 奇妙な女性労働者の給与水準

それでは、女性の労働者の平均給与はどうでしょうか?

平均給与 女性

図5 平均給与 女性 年齢階層別
(民間給与実態統計調査 より)

図5が女性の年齢階層別平均給与です。

縦軸を男性のグラフのスケールと合わせている関係もありますが、年齢階層別での差がほとんどないのが特徴的です。

男性のグラフ(図3)は年齢階層が上がるごとに、平均給与も上昇しています。
一方、女性のグラフはほとんど給与が変わりません。
そして男性と比べると、全体的にかなり低い水準です。

年齢が上がるほど、賃金が上昇するフルタイム労働者が減り、賃金がほとんど変わらないパートタイム労働者が増えるなどの要因があるかもしれません。
このあたりについては、今後もう少し深堀りしてみたいと思います。

平均給与 女性
1997年→2020年 単位:万円
合 計: 278.9 → 292.6 (+13.7)
20代: 286.2 → 287.8 (+ 1.6)
30代: 299.2 → 310.1 (+10.9)
40代: 279.7 → 319.0 (+39.2)
50代: 278.7 → 314.9 (+36.3)

女性の場合は、少しずつ平均給与の上昇が見られ、1997年の水準と比べると、特に40代、50代で増加幅が大きいようです。

平均給与 女性

図6 平均給与 女性 年齢階層別
(民間給与実態統計調査 より)

図6が女性の年齢階層別に1997年の水準を基準(1.0)とした時の倍率のグラフです。
男性と異なり、リーマンショックでの大きな落ち込みはなく、リーマンショック後の上昇傾向によって、プラス成長となっています。

4. 日本人の平均給与の特徴

今回は日本の労働者について、男女別、年齢階層別の平均給与についてフォーカスしてみました。

男性労働者は年齢関係なく平均給与が下がっているという事実と、女性は若干平均給与は上がっているながらも男性と比べると極めて低い水準である事が改めて確認できました。

そもそも、先進国で平均給与がマイナス成長しているのは日本だけです。

平均給与

図7 平均給与 名目値
(OECD統計データ より)

図7は1997年を基準(1.0)とした平均給与倍率ですが、マイナス成長しているのは日本だけで、他国は軒並みプラス成長です。
その結果、1990年代に先進国で3番目の高水準だったのが、直近では下位グループにまで転落してしまっています。

平均給与 2019年

図8 平均給与 2019年
(OECD統計データ より)

図8が平均給与(名目)のドル換算値を大きい国順に並べたグラフです。

日本は4万ドル強で36か国中20番目の水準で、既に先進国で下位グループに属します。
OECDの平均値も下回ります。

現在は20位という順位ですが、このまま平均給与の停滞が続けば、今後更に順位を下げていく事は想像に難くないですね。
働く人の賃金が上がっていく社会への変化が必要だと思います。

皆さんはどのように考えますか?

参考:最新データ

(2023年9月追記)

平均給与 名目 為替レート換算 2022年

図5 平均給与 為替レート換算 2022年
(OECD統計データより)

図5は2022年の平均給与の比較です。

2021年→2022年で各国ともドルに対して自国通貨安が進んでいますが、日本は特に円安が進み(年平均134円/ドル)水準が下がっています。

日本の平均給与は34,393ドルで、OECD34か国中21位、G7中6位で、韓国に抜かれ、イタリアに肉薄されています。

平均給与 男性 年齢階層別 1年勤続者

図6 平均給与 男性 年齢階層別
(民間給与実態統計調査より)

図6は2022年の最新データまで反映した、男性の年齢階層別平均給与です。

2020年はコロナ禍と思われる減少が見られますが、2021年、2022年と上昇が見られます。
長らく停滞が続いた40代もやや上向いているようです。

ただし、1997年のピークから見ると目減りした状態からは脱せていません。
20代が若干のプラスになったようです。

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