241 経済活動別に見る日本経済 - 公共的産業の付加価値とは?

1. 経済活動別にみる日本経済の変化

前回は、社会支出(Social Expenditure)について、対GDP比の比較をしてみました。
日本は、高齢者への支出がそれほど多くなく、保育など家族への支出が極端に少ないという特徴があるようです。
再分配が十分に機能していない事を踏まえるならば、このあたりのバランスに改善の余地がありそうですね。

経済について考える際に、データに基づかない思い込みや、昔の知識がアップデートされていないだけといった状況に陥りがちですね。
「公務員は付加価値を稼いでいないから無駄なので可能な限り削減すべき」といった意見も、その典型ではないでしょうか?
このような意見の背後には、付加価値と利益の混同などもありそうです。

仕事は顧客への価値提供の代行業ですね。
付加価値はその仕事の価値を金額に直したものになります。

具体的な計算方法としては、売上高から外部購入費用を差し引いたものという控除法が用いられます。
もう1つは、人件費に諸経費を加えた加算法という計算方法もあるようです。

今回は経済活動別のGDP、就業者数や付加価値に着目することで、経済活動別の変化を再確認してみたいと思います。
公務員が付加価値を稼いでいるのかどうかも、確認できると思います。

まずは、日本のGDPについて確認してみましょう。

日本 GDP 生産面

図1 日本 GDP 生産面
(OECD統計データ より)

図1は日本のGDP生産面の産業別GDPの推移です。
日本は最大産業の工業のGDPが目減りしている反面、公務・教育・保健のGDPが成長しています。
ただ、OECDのデータでは公務・教育・保健と一括りになってしまっていて、公務や公務員についてのデータが切り分けられていません。
ただし、これら公共的な産業が成長している事は見て取れますね。

ドイツ GDP 生産面

図2 ドイツ GDP 生産面
(OECD統計データ より)

図2がドイツのグラフです。
工業が圧倒的に存在感があり、なおかつ大きく成長しているのが特徴です。
工業に続いて成長しているのが公務・教育・保健です。

実は、他の主要国も多くがこの公共的産業の分野が大きく成長しているという特徴があります。
特にアメリカなどの主要国では、この公務・教育・保健が最大産業となっています。
 参考記事: 工業の縮小する工業立国日本

アメリカ GDP 生産面
フランス GDP 生産面
イギリス GDP 生産面
韓国 GDP 生産面

図3 GDP 生産面 アメリカ、フランス、イギリス、韓国
(OECD統計データ より)

図3はアメリカ(左上)、フランス(右上)、イギリス(左下)、韓国(右下)のGDPの推移です。
韓国は工業国らしく工業(赤)が大きな存在感を発揮していますが、アメリカ、フランス、イギリスは公務・教育・保健(緑)の公共性の高い産業が最大産業です。

今回はこの公共的産業の成長に着目しながら、経済活動の変化を見てみましょう。

2. 公共的産業とは?

公務員の仕事と聞けば、まずイメージするのが役所などでの公務の仕事ではないでしょうか?
あるいは、警察官や消防署職員などのイメージも強いかもしれませんね。

OECDのデータでは、公務について分けられていないので、今回は日本の経済活動別GDPのデータを見てみましょう。

日本 経済活動別 国内総生産

図4 日本 経済活動別国内総生産 暦年 名目値
(国民経済計算 より)

図4は内閣府の公表している国民経済計算による経済活動別GDPのグラフです。
1997年と2020年のデータになります。
2020年はコロナ禍により、経済に悪影響を及ぼした年になりますが、1997年よりも名目GDPが下がっている事になります。
(実質では成長しています)

大きな特徴としては、製造業(青)と建設業(水色)が大きく減少している点です。
その代わり、大きく拡大しているのが専門・科学技術、業務支援サービス業(紫)と、保健衛生・社会事業(濃緑)です。

この統計では、OECDの区分で言うところの公務・教育・保健は分けて集計されています。
つまり、図4中の公務教育保健衛生・社会事業です。

その変化を見ると、公務と教育はほぼ横ばいですが、保健衛生・社会事業は約20兆円程度のプラスで、大きく成長していることになります。

国内総生産は国内で生産された付加価値の合計です。
この中に、公務や教育、保健といった公共性の高い産業も含まれていることになり、これらの産業も付加価値を生み出しているという事が確認できます。

公務はほぼ公務員の仕事と考えられると思います。
教育や保健衛生・社会事業は公共的な産業で公務員の仕事は多いと思いますが、民間の仕事も多く含まれていると思いますので注意が必要です。

OECDのデータも、内閣府のデータも国際標準産業分類(ISIC REV4)に基づいて産業を分類しているようです。
これらの産業にどのような項目が含まれるのか、もう少し詳細に確認してみましょう。


表1 公務・教育・保健の詳細
全経済活動に関する国際標準産業分類 第4次改定版 平成21年 より抜粋

分類項目詳細
O
公務及び国防、強制社会保障事業(公務)
国家公務及び地域共同体の経済・社会政策業務一般公務
保健・教育・文化サービス及び社会保障を除くその他の社会サービス提供活動の規制
企業の効率的運営に関する規制及び助成
社会全体に対するサービスの提供外務
国防
公共の秩序及び安全に関する事業
強制社会保障事業強制社会保障事業
P
教育
初等前教育及び初等教育初等前教育及び初等教育
中等教育一般中等教育
技術・職業中等教育
高等教育高等教育
その他の教育スポーツ・レクリエーション教育
教養教育
他に分類されないその他の教育
教育支援サービス業教育支援サービス業
Q
保健衛生及び社会事業
保健衛生事業病院事業
医療業及び歯科医療業
その他の保健衛生事業
居住ケアサービス業居住介護施設
知的障害、精神衛生及び薬物乱用者居住ケアサービス業
高齢者・障碍者用居住ケアサービス業
その他の居住ケアサービス業
宿泊施設のない社会事業宿泊施設のない高齢者・障碍者向け社会事業
宿泊施設のないその他の社会事業

表1が公務・教育・保健の内訳となります。
区分の階層は若干アレンジしています。

いわゆる公務員の仕事のイメージは公務という事になりますが、教育や保健衛生及び社会事業にも政府・公務員の仕事と呼べるものが多く含まれそうです。
身近なイメージでは国公立の学校教育や、社会福祉事業などですね。
その他にも、各産業に政府の仕事が含まれているようです。
・ 電気・ガス・水道・廃棄物処理業のうち、下水道、廃棄物
・ 運輸・郵便業のうち、水運施設管理、航空施設管理(国公営)
・ 専門・科学技術、業務支援サービス業のうち、学術研究
・ その他のサービス業のうち、社会教育

これらの社会としての基盤を支える公共性の高い経済活動も、公務員が働く事で付加価値を生んでいるという事になります。

3. 労働者数の変化も見てみよう

付加価値だけでなく、労働者数の変化も確認してみましょう。

日本 経済活動別 就業者数

図5 日本 経済活動別 就業者数 暦年
(国民経済計算 より)

図5は経済活動別の就業者数です。
就業者数とは、国民経済計算の中で以下のように定義されます。
「あらゆる生産活動に従事する者をいい、雇用者とは、就業者のうち自営業主と無給の家族従業者を除くすべての者をいう。」

日本の統計は、従業員、有業者、雇用者、従業者、就業者など、労働者についての定義や範囲が統計ごとに異なるので、実態がつかみにくいです。

日本は人口減少が続いているわけですが、就業者数は微増しています。
経済活動別にみると、製造業、建設業などボリュームの大きな産業の就業者数が大きく減っている反面、専門・科学技術、業務支援サービス業や保健衛生・社会事業の就業者数が大きく増加しています。
以前も取り上げましたが、これらの変化は、主要国全般にみられる特徴ですね。
 参考記事: 労働者が増える産業とは?
 参考記事: 労働者数で見る産業の変化

一方で、就業者の区分として、市場生産者一般政府対家計民間非営利団体という分け方もあるようです。

日本 区分別 就業者数

図6 日本 区分別 就業者数 暦年
(国民経済計算 より)

図6が区分別就業者数です。

市場生産者が大多数(約90%)になりますが、一般政府が400万人(約6%)、対家計民間非営利団体が230万人(約3%)となります。
対家計民間非営利団体の就業者数が80万人も増えています。

政府は一般政府の労働者でいわゆる公務員にあたりますが、対家計民間非営利団体とは何でしょうか?

対家計民間非営利団体は、以下のように定義されているようです。(国民経済計算年報 用語解説より)
「対家計民間非営利団体は、政府によって支配、資金供給されているものを除き、家計に対して非市場の財貨・サービスを提供する全ての我が国の居住者である非営利団体が含まれる。具体的には、私立学校、政治団体、労働組合、宗教団体等が含まれる。」

日本 経済活動別 名目GDP 就業者数 変化量

図7 日本 経済活動別 名目GDP・就業者数 変化量
(国民経済計算 より)

経済活動別の名目GDP就業者数の変化量を散布図にまとめたのが図7です。

専門・科学技術、業務支援サービス業と保健衛生・社会事業の2つの経済活動が大きく就業者数もGDPも増加しています。
これらの産業は生産性(就業者1人あたり付加価値)が比較的低い産業です。
2020年の全産業の就業者1人あたり付加価値が791万円に対して、専門・科学技術、業務支援サービス業は591万円、保健衛生・社会事業は502万円です。

一方、生産性の比較的高い製造業が、大きく就業者数もGDPも減らしています。
製造業の就業者1人あたり付加価値は、2020年で1,005万円です。

日本のGDPが成長しない背景には、このような産業構造の変化も影響しているのかもしれませんね。
一方で、他国は日本よりも公共性の高い産業の労働者が大幅に増えつつ、全体のGDPも大きく成長している事実もあります。

4. 日本の公務員は少ない?

日本はこのように、公共性の高い産業が成長していますが、他国に比べるとまだ規模としてはそれほど大きくないようです。

また、日本は公務員の人数が少ないという事も指摘されているようです。
図6からすると、日本の公務員は約400万人で労働者の6%程度に相当しますが、実際に他国と比較するとどの程度なのでしょうか?

公務員の割合 対労働者数

図8 公務員の割合 対労働者数 2016年
(OECD統計データ より)

図8が一般政府で働く労働者である公務員の労働者に対する割合を比較したグラフです。

日本は5.9%で、OECD33か国中断トツの最下位になるようです。
上位には高福祉高負担と言われる北欧諸国やフランスが並びます。

公務員の割合 2016年
単位:% 33か国中
7位 22.1 フランス
11位 19.4 カナダ
19位 16.2 イギリス
21位 15.3 アメリカ
24位 13.7 イタリア
30位 10.6 ドイツ
32位 7.7 韓国
33位 5.9 日本
平均 18.0

OECDの平均値が18%程度になりますが、日本はその3分の1程度ですね。
日本は公務員の人数が圧倒的に少ない国と言えそうです。

5. 公共≒ムダという勘違い?

今回は、公務員付加価値について取り上げてみました。

公務や社会事業など公共性の高い経済活動も付加価値を生んでいます。
当然それらは私たち国民の安全を守ったり、知識・教養を高めたりと、生活を豊かにする価値ある活動ですね。
仕事は価値を提供する代行業で、その価値を金額的に表したものが付加価値であることを考えれば当然と思います。

ただし、公務員や対家計非営利団体は、市場生産者ではないため、利益を追求する存在ではありません。

SNSなどを見ても、純利益を生まない活動=無駄といった意見をよく目にします。
確かにこれらの経済活動は純利益は生み出さないかもしれませんが、付加価値を生んでいます。
その付加価値は、主に人件費+経費という加算法によって計算されているようです。
つまり、少なくとも労働者のお給料分は価値が生まれているという考えになるわけですね。

日本は付加価値が増えずに、経済が停滞しています。
日本企業は付加価値が増えていませんが、純利益は増えています。
日本の労働者は付加価値の分配である給与が増えていません。

経済活動において、まず重視すべきは純利益でしょうか?付加価値でしょうか?

他国と比較すると日本は仕事や付加価値の考え方が異質な感じがしますね。
公務員の付加価値という点を考えてみても、日本の経済観の特殊性が垣間見えるのではないでしょうか。

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