331 直接投資のバランス - 日本の歪な海外との関係

対外直接投資と対内直接投資のバランスを見る指標として、両者の差額と比率の国際比較をしてみます。他国は双方向的な直接投資の増加が進む中で、日本は対外直接投資に偏ったバランスのようです。

1. 直接投資残高とは

前回は、先進国各国の対外直接投資残高対内直接投資残高についてご紹介しました。
どちらもアメリカが圧倒的な水準ですが、中国、オランダなども規模を拡大していて存在感を発揮しています。
日本は対外直接投資はそれなりの規模ですが、対内直接投資が極端に少ないという特徴があるようです。

対外直接投資残高は海外に持つ資産、対内直接投資は海外に負っている負債という見方もできますね。
日本は対外資産を多く持つ国として知られています。
証券投資では資産と負債の多くは相殺していますが、直接投資では対外直接投資が大きく上回っていて対外資産の多くを占めます。
 参考記事: 対外資産って何?

今回は、対外直接投資残高と対内直接投資残高のバランスについて国際比較してみたいと思います。
対外直接投資の方が多い場合は、海外に持つ資産の方が多い事になります。
その分、配当金などでの海外からの所得も見込める事になります。

一方で、その分だけ投資資金が海外に流出しているという見方もできます。
日本の対外直接投資に偏ったバランスが一般的なのか、国際比較して確認してみましょう。

2. 直接投資の差額の推移

まずは、対外直接投資残高と対内直接投資残高の差額です。

対外直接投資残高-対内直接投資残高

図1 対外直接投資-対内直接投資
(OECD統計データより)

図1が主要国の対外直接投資残高と対内直接投資残高の差額です。
プラスだと対外直接投資残高の方が多く、海外に対する対外直接投資が超過している状況を表します。
マイナスであれば、海外からの直接投資の方が多いという事ですね。

非常に特徴的なのがアメリカです。
2015年頃までプラスでしたが、その後は大きくマイナスに転じています。
2022年には、差引で3兆ドル分だけ海外からの直接投資が超過している事になります。
よく見るとイギリスも同じような感じですね。

中国もマイナスで推移していますので、海外からの投資が超過している国と言えます。

一方で、日本はドイツやオランダを上回り、この中では最も対外直接投資が超過している状況です。

3. 直接投資の差額の国際比較

対外直接投資残高と対内直接投資残高の差額について、最新の2022年のデータで国際比較してみましょう。

対外直接投資残高-対内直接投資残高 2022年

図2 対外直接投資残高-対内直接投資残高 2022年
(OECD統計データより)

図2が最新の2022年の国際比較です。

OECD38か国+中国の中で、最も日本が正味の数値が大きな国となります。
日本は対外資産を多く持つ国と言われますが、この対外直接投資残高の超過分もかなり寄与している事になります。

一方、アメリカは断トツで対内直接投資残高が超過しています。
この分は、アメリカの海外への負債という捉え方もできますが、それだけ海外からアメリカへの投資が多いという事でもありますね。

正味の金額で対外直接投資残高が超過しているのは、日本以下規模の大きい順にドイツ、カナダ、オランダ、フランス、ルクセンブルクと続きます。
他にも、スイス、スウェーデン、ノルウェーなど、比較的所得水準が高い国が多いようです。

対内直接投資残高が超過しているのは、アメリカ、中国、イギリスなどですね。
他には、メキシコやトルコ、東欧諸国など大きく経済が成長している国が多いようです。

欧米と一括りにされがちですが、経済統計を見ているとドイツ、フランスとアメリカ、イギリス、カナダが対極の関係となっている事が多いです。
今回もその傾向が見て取れますが、カナダの立ち位置が異なるのが大変興味深いです。

4. 直接投資の比率

続いて、対外直接投資残高と対内直接投資残高のバランスについても眺めてみましょう。

対外直接投資残高に対する対内直接投資残高の比率

図3 対外直接投資残高に対する対内直接投資残高の比率 2022年
(OECD統計データより)

図3がOECD各国+中国の対外直接投資残高に対する対内直接投資残高の比率です。
単位は%です。

100を超えると対外直接投資残高に対して対内直接投資残高が超過している事を表します。
差額だと見えにくい両者のバランスを可視化できますね。

ポーランド、トルコ、メキシコなど大きく経済成長している国々が、対内直接投資残高が大きく超過する国です。
それだけ海外から投資が集まっているということがわかりますね。

アメリカ、イギリス、中国は120%を超えて、対内直接投資残高が超過する国です。

イタリアで82%、カナダ65%、フランス60%、ドイツ52%といずれも50%を超えています。
対外直接投資残高の方が超過していますが、相応の水準で海外からも投資されているという事になります。
対外直接投資残高の多いオランダやスイス、ルクセンブルクも70~80%程度で、対内直接投資残高と相応の水準です。

一方で日本だけ極端にバランスがわるく、12%と極端に低い水準で最下位です。
海外に投資ばかりしていて、海外からの投資がほとんどないという歪な関係が良く表れていますね。

5. 直接投資のバランスの特徴

今回は対外直接投資残高対内直接投資残高について、その差額比率をご紹介しました。

日本、ドイツ、カナダ、オランダ、フランスなどは対外直接投資残高が超過していて、海外に対する直接投資の方が上回っている状況です。
一方で、アメリカ、中国、イギリスや東欧諸国、トルコ、メキシコなどは、対内直接投資残高が超過しています。

日本は対外直接投資がそれなりの水準ですが、対内直接投資が極端に少なく、正味の金額では最も対外直接投資の超過する国となっています。

この対外直接投資への偏りは、先進国の中では唯一極端な水準となっています。

他国へ投資してばかりで、他国からはほとんど投資されない国という特徴があるようです。
日本はメーカーなどの海外生産が盛んですが、外資メーカーの日本進出はあまり聞きません。
TSMCなどたまに大型の投資があると、大きく報道されるくらいですね。

日本はかつてより物価比率が低くなっていますので、少しずつ対内直接投資が増えていくのか、今後も注意深くチェックしていきたいと思います。

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