237 貧困率の高い日本 - 現役世代の国際比較

日本は貧困率の低い国として知られていますが、再分配前と再分配後では国際的な立ち位置が大きく異なります。日本は先進国の中で再分配後の貧困率の高い国とになるようです。

1. 貧困率とは

前回は、先進国各国の現役世代(18~65歳)について、所得格差を表すジニ係数に着目してみました。
日本は再分配前の当初所得ではジニ係数が小さく格差の小さい国と言えます。
再分配後の可処分所得では縮小しているものの、先進国の中では比較的格差の大きな国である事がわかりました。

今回は、貧困率について改めて着目してみたいと思います。

貧困率は、「中央値の50%となる貧困線を下回る所得しか得られない人の割合」を表します。
この貧困率の定義は相対的貧困率と呼ばれます。

OECDのデータでは、貧困率は当初所得再分配後の可処分所得について計算されています。

2. 日本の現役世代の貧困率

まずは日本の貧困率についてデータを見てみましょう。

貧困率 日本 18~65歳

図1 貧困率 日本 18~65歳
(OECD統計データ より)

図1が日本の貧困率となります。
当初所得(before taxes and transfers)と再分配後(after taxes and transfers)のデータです。
当初所得は市場所得、再分配後の所得は可処分所得に相当すると思いますが、明記されていなかったためこのような表現としています。

1985年に当初所得で0.105、再分配後で0.106でしたが、2012年にかけて徐々に拡大していき、その後やや減少しています。

2018年では、当初所得で0.165、再分配後で0.127となります。
最近ではやや減少傾向ながら、1980年代に比べると貧困率が高まっている事になります。

3. 再分配前の貧困率の国際比較

それでは、OECD各国で直近の貧困率を比較してみましょう。

まずは当初所得からです。

貧困率 当初所得 18~65歳 2018年

図2 貧困率 当初所得 18~65歳 2018年
(OECD統計データ より)

図2がOECD各国の貧困率を比較したグラフです。

日本は0.164で37か国中29番目で、先進国の中では貧困率の低い国となります。
対照的に、フランス(0.255)やイタリア(0.221)は貧困率が高いですね。

貧困率 当初所得
18~65歳 2018年 37か国中
1位 0.255 フランス
8位 0.221 イタリア
16位 0.204 アメリカ
17位 0.193 イギリス
18位 0.189 カナダ
23位 0.178 ドイツ
29位 0.164 日本
35位 0.130 韓国
平均 0.190

日本の数値が図1と異なるのは、OECDの所得の定義が2018年に改訂された結果を受けて、図2の方は新しい定義(New income definition)の数値を用いているためです。
図1は推移のグラフなので、従来定義(Current definition)の数値です。
数値の傾向はそれほど変わりません。

4. 再分配後の貧困率の国際比較

続いて、再分配後の貧困率の国際比較です。

貧困率 再分配後 18~65歳 2018年

図3 貧困率 再分配後 18~65歳 2018年
(OECD統計データ より)

図3が再分配後貧困率です。

各国で当初所得の貧困率より低下し、再分配によって改善されている様子が確認できます。

日本は0.130で当初所得よりは貧困率が改善されていますが、他国と比較すると高い方になるようです。
37か国中9番目、G7で3番目でOECDの平均値(0.104)を上回ります。

貧困率 再分配後
18~65歳 2018年 37か国中
2位 0.158 アメリカ
4位 0.142 イタリア
9位 0.130 日本
13位 0.118 カナダ
14位 0.118 韓国
18位 0.106 イギリス
20位 0.097 ドイツ
26位 0.086 フランス
平均 0.104

当初所得で最も貧困率の高かったフランスは、再分配後には0.086で平均値を下回り、貧困率の小さい国となっているのが印象的です。
フランスは再分配による貧困や格差是正に積極的な国のようです。

5. 再分配効果の国際比較

続いて、貧困率の再分配効果についても国際比較してみましょう。

貧困率 再分配効果 18~65歳 2018年

図4 貧困率 再分配効果 18~65歳 2018年
(OECD統計データ より)

図4が貧困率の再分配による改善効果を表したグラフです。
再分配効果は、当初所得の貧困率と再分配後の貧困率の差分として計算しています。

貧困率 再分配効果
18~65歳 2018年 37か国中
2位 0.169 フランス
17位 0.087 イギリス
21位 0.081 ドイツ
22位 0.079 イタリア
25位 0.071 カナダ
30位 0.046 アメリカ
32位 0.034 日本
36位 0.012 韓国
平均 0.082

日本は0.034で、37か国中32位という低位で、平均値の半分未満、G7最下位です。
日本は当初所得での貧困率は低い方ですが、再分配効果が低く、再分配後の貧困率が高くなっているという特徴があります。

日本は失業率が低く、皆が仕事を得やすい国ですが、再分配後の貧困率が高いという皮肉な状況です。
一方で、失業率が高いフランスでは、当初所得の貧困率が高いですが、再分配後の貧困率が低いという真逆の特徴があります。

6. 貧困ギャップの国際比較

貧困に関しては、貧困ギャップ(Poverty gap ratio)という指標もあります。

貧困ギャップは、貧困層の収入がどの程度貧困線を下回っているかという、貧困の程度を表す指標です。
貧困率が貧困線以下の水準の人の割合を示すのに対して、貧困ギャップは貧困の深さを表す指標となるそうです。

貧困ギャップ 平均値 18~65歳 2018年

図5 貧困ギャップ 平均値 18~65歳 2018年
(OECD統計データ より)

図5が貧困ギャップの比較となります。

貧困ギャップ 平均値
18~65歳 2018年 37か国中
1位 0.434 イギリス
2位 0.429 イタリア
4位 0.389 アメリカ
7位 0.381 日本
13位 0.356 カナダ
19位 0.324 韓国
28位 0.287 ドイツ
32位 0.267 フランス
平均 0.325

上位にイタリアやアメリカが入っていますが、意外にもイギリスが1位となっています。
日本は0.381で37か国中7番目、平均値を上回り、貧困ギャップの大きな国となります。

日本は貧困の程度が深い国という特徴もあるようです。
やはり、ドイツやフランスとは対照的ですね。

7. 現役世代の貧困率の特徴

今回は、現役世代貧困率についてフォーカスしてみました。

日本は、失業率が低く、当初所得の格差や貧困率も小さい国ですが、再分配後の格差や貧困率は当初所得より改善されているものの、他国と比較して大きいという特徴があるようです。
経常移転による再分配が、他国ほど十分に機能していない事を窺わせます。
再分配後の貧困率が高いことに加えて、貧困の深さも深いという特徴があるようです。

さらにそもそもの所得水準が低下・停滞していて、先進国では既に低位となっている事も深刻ですね。
 参考記事: 可処分所得の詳細比較

日本の現役世代が困窮しているという事情が、国際比較を通して明確になってきたように思います。

ただし近年は再分配後の貧困率も改善傾向にありますので、この先の変化に注目していきたいですね。

皆さんはどのように考えますか?

参考:最新データ

(2024年11月追記)

貧困率 可処分所得 18~65歳 2021年

図6 貧困率 可処分所得 18~65歳 2021年
(OECD.Statより)

図6が2021年の可処分所得の貧困率です。

日本は12.7%で2018年よりやや改善していますが、イタリアよりも高い水準となりG7中2番目、OECD中8番目の高さとなっています。

貧困ギャップ 可処分所得 18~65歳 2021年

図7 貧困ギャップ 可処分所得 18~65歳 2021年
(OECD.Statより)

図7が2021年の貧困ギャップです。

日本は2018年の38.1%から39.3%と上昇し、G7中2位、OECD中5番目の高水準となっています。

低所得者ほど困窮が厳しいという状況が進んでいるようです。

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