171 株式で増す海外の存在感 - 上場企業の株式保有金額

国民経済計算では企業の負債の一部として集計される株式について、保有者である投資部門別の株式保有金額について統計データを確認してみます。目減りする国内主体に対して、海外主体の保有金額が大きく増加している特徴があるようです。

1. 日本企業の株式推移

前回は、製造業グローバル化についてフォーカスしてみました。
日本の場合は、日本企業の海外への進出(流出)が多く、外国企業への日本への進出(流入)が極めて少ない、流出一方に偏った歪なグローバル化が進んでいる事を確認できました。

一方で、日本企業の株式所有については外国の保有比率が上がっているという話をよく聞くのではないでしょうか?
今回は日本企業の株式についてフォーカスしてみたいと思います。

日本 上場企業 投資部門別 株式保有金額

図1 日本 上場企業 投資部門別株式保有金額の推移
(日本取引所グループ 株式分布状況調査 より)

図1が日本取引所グループの株式分布状況調査より、日本の上場企業について主体別に株式保有金額の推移をグラフ化したものです。
参考までに、内閣府の国民経済計算において、企業の株式(負債項目)も併記してみました。

上場企業の株式総額は、企業の株式の大部分を占めている事が確認できるのではないでしょうか。
差分は、非上場企業の株式総額と考えれば良いと思います。
(異なる統計データの比較なので、誤差が含まれます)

まず特徴的なのは、株式の総額はアップダウンが大きく、近年増加傾向ながらも長期で見ると停滞気味である事ですね。
ピークとなったのが1989年の株式バブル崩壊時です。

そして2006年にもピークがあり、直近ではこのピークも超えています。

2. 投資部門別の株式保有金額

次に、保有主体別の推移に注目してみましょう。

日本 上場企業 投資部門別 株式保有金額

図2 日本 上場企業 投資部門別株式保有金額
(日本取引所グループ 株式分布状況調査 より)

図2が投資部門別の詳細グラフです。

政府・地方公共団体金融機関証券会社事業法人等(企業)、個人その他(家計)、外国法人等(海外)

GDP等の経済主体とほぼ一致する区分けになっていますね。

とても印象的なのは、金融機関、家計、企業ともに連動して推移していて、相対的な関係性にほとんど変化がない点です。
アップダウンがあるものの、停滞している印象を受けますね。

最も顕著な推移をしているのが、外国法人等(海外)です。
1989年の株式バブル崩壊時には20兆円程度と、した保有金額ではなかったようですが、右肩上がりに増大を続けて直近では160~200兆円と10倍近くに増大しています。

バブル崩壊時(1989年)と直近値(2019年)の数値は以下の通りです。

日本 上場企業 株式保有金額
単位:兆円 1989年→2019年
1.2 → 0.8 ( -0.5) 政府・地方公共団体 
216.3 → 161.6 ( -54.8) 金融機関
10.1 → 11.1 ( +1.1) 証券会社
146.7 → 122.2 ( -24.5) 事業法人等
101.8 → 90.4 ( -11.4) 個人・その他
20.8 → 162.4 (+141.6) 外国法人等

明らかに、企業の株式市場においては、海外の存在感が増している事がわかりますね。

3. 投資部門別の株式保有比率

もう少し明確に株式の保有比率を見てみましょう。

日本 上場企業 投資部門別 株式保有比率

図3 日本 上場企業 投資部門別株式保有比率の推移
(日本取引所グループ 株式分布状況調査 より)

図3が投資部門別の株式保有比率の推移です。

株式全体に占める、各主体の持ち分の割合となります。

金融機関も企業も家計も、金額はアップダウンを繰り返しながら停滞していますが、海外の保有金額が増大しているため、全体に占めるシェアは低下傾向ですね。

バブル崩壊時(1989年)と直近値の数値とその変化量は以下の通りです。

日本 上場企業 株式保有比率
単位:% 1989年→2019年
0.3 → 0.1 ( -0.2) 政府・地方公共団体 
43.5 → 29.5 (-14.0) 金融機関
2.0 → 2.0 ( ±0.0) 証券会社
29.5 → 22.3 ( -7.2) 事業法人等
20.5 → 16.5 ( -4.0) 個人・その他
4.2 → 29.6 (+25.4) 外国法人等

既に日本企業の株式の約3割は海外が所有している事になります。

4. 投資部門別の株式保有金額の変化

バブル崩壊直前の1989年と、近年の2019年における投資部門別の株式保有金額を見比べてみましょう。

日本 上場企業 投資部門別 株式保有金額

図3 日本 上場企業 投資部門別株式保有比率の変化
(日本取引所グループ 株式分布状況調査 より)

図4が1989年と2019年の主体別の株式保有金額です。
海外が8倍ほどに増大したのに対して、国内の主体の持ち分は1~2割減少している事になります。

日本企業は誰のものか?という所有についての問題を考えた場合、既に上場企業の3割(の所有権)は海外のものと言えそうです。
上場企業は、日本国民の利益だけを重視する存在でなくなりつつある、という事にもなるのかもしれません。

5. 日本企業の株式の特徴

今回は、日本取引所グループの統計データから、投資部門別の上場企業の株式保有金額についてご紹介しました。

株式の多くは上場企業によるものです。
上場企業は、株式市場に株式を上場し、投資家がそこで売買する事になります。
上場企業の株式については、企業の手の届かないところで価格と所有者が移り変わる事になりますね。

日本の家計は株式の保有が少ない特徴がありますが、投資部門別に見ても多くはありませんし、近年でもバブル期より目減りしています。

企業や金融機関など国内主体の保有金額が目減りし、海外主体が一方的に増やしている状況ですね。

企業のグローバル化は貿易や海外活動で確認できますが、このように企業の所有という面でも進んでいるようです。

より具体的には、この海外による企業の株式は証券投資と直接投資に分かれるはずです。
日本の場合は、海外からの対内直接投資が極端に少ないという特徴がありますので、この多くは証券投資によるものと推測されます。

企業経営と密接に関係する直接投資が少ない分、株価の上下に敏感に反応する証券投資が主体となり、株価の不安定さが増している側面もあるかもしれませんね。

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