087 支出が増えているのは何? - GDP支出面の変化

主要先進国のGDP支出面の各項目について、時系列的な変化をご紹介します。

1. アメリカのGDP支出面の変化

前回は、主要先進国の中では高い経済成長のアメリカ、相対的に低めの成長率のドイツ、そして停滞が続く日本のGDPを比較しました。
GDPを構成する家計最終消費支出政府最終消費支出総資本形成純輸出について、ドイツやアメリカは基本的には全て右肩上がりで上昇しているのに対して、日本だけ異なる傾向です。

日本の場合、政府最終消費支出は増大傾向にありますが、家計最終消費支出は停滞し、総資本形成に至ってはピークから減少してそのまま停滞しているという状況でした。
総資本形成は、住居や建築物などへの支出(投資)です。
民間では住宅、政府としては公共投資、企業としては設備投資などが該当し、まさに社会としての投資にあたる部分ですね。

総資本形成の内訳を見ると、民間も政府も企業も減らしていて、日本全体として投資が減っている状況が分かりました。
先進国では、日本と同じ様に総資本形成が抑えられる傾向にあるのでしょうか?
また、各国で何が経済を成長させる要素なのでしょうか。

今回は、GDPの支出面を構成する項目について、日本経済の転換点となった1997年からの成長率に着目してみたいと思います。
それぞれの項目がどのくらい成長しているのか、可視化してみましょう。

まずは、主要先進国でも高い成長率のアメリカ、イギリス、カナダについて見てみます。

アメリカ GDP 支出面

図1 アメリカ GDP詳細
(OECD 統計データ より)

図1がアメリカのGDPの支出面を示すグラフです。
青がGDP合計値、赤が家計最終消費支出、緑が政府最終消費支出、オレンジが総資本形成、紫が輸出、水色が輸入です。

1997年の数値を1.0とした場合の倍率で表現しています。
リーマンショックの2009年での落ち込みはあるものの、基本的にはいずれの項目も右肩上がりです。

20年程の間に、いずれの項目も2.0~3.0倍になっていますね。

概ね年率で4%以上の成長と言えそうです。
日本で停滞している総資本形成も、2.2倍程度になっています。
他の項目に比べて、輸出と輸入の成長率が高い事も特徴的ですね。

2. イギリスのGDP支出面の変化

つづいてイギリスのデータです。

イギリス GDP 支出面

図2 イギリス GDP詳細
(OECD 統計データ より)

図2がイギリスのグラフです。

イギリスはGDP、家計最終消費支出、総資本形成が4%成長で2.2倍程度になっています。
特徴的なのは、政府最終消費支出の伸びが大きい事ですね。政府最終消費支出は5%成長に迫る伸びで、2.7倍以上になっています。
輸出、輸入も成長が大きく、5%成長程度で輸入が3倍、輸出は2.8倍を超えます。

イギリスは、貿易と政府支出が全体を押し上げているようです。

3. カナダのGDP支出面の変化

次にカナダのデータです。

カナダ GDP 支出面

図3 カナダ GDP詳細
(OECD 統計データ より)

図3がカナダのグラフです。

カナダは、GDP、家計最終消費支出、政府最終消費支出、総資本形成が4.5%成長くらいで、2.4~2.6倍になっています。

アメリカやイギリスに比べると、総資本形成の伸びが大きく、輸出、輸入の伸びが小さいですね。輸入は3%成長で2.4倍程度、輸出は2.5%成長で2.2倍程度の成長です。

カナダは内需中心の成長と言えるかもしれませんね。

4. フランスのGDP支出面の変化

他の主要国についても見てみましょう。

まずはフランスです。

フランス GDP 支出面

図4 フランス GDP詳細
(OECD 統計データ より)

図4がフランスのグラフです。

GDP、家計最終消費支出、政府最終消費支出がほぼ同じ比率で成長しています。年率3%成長で、1.8倍程度になっています。
総資本形成は大きな伸びで4%成長、2.4倍に迫る伸びです。

輸入、輸出も大きな伸びです。
輸入に至っては5%成長に迫る勢いで、2.7倍程度になります。

特に総資本形成や貿易が伸びている国と言えそうです。

5. ドイツのGDP支出面の変化

つづいてドイツです。

ドイツ GDP 支出面

図5 ドイツ GDP詳細
(OECD 統計データ より)

図5がドイツのデータです。

他の項目に比べて、輸出と輸入の伸びが突出して高い特徴的なグラフです。
GDP、家計最終消費支出、政府最終消費支出は2~3%成長で、1.6~1.8倍の成長です。アメリカやイギリスなどと比べると低成長と言えますが、それでも20年間でこれだけ経済成長しています。

総資本形成は2012年頃までは増えたり減ったりしていますが、それ以降は一貫して増加していますね。結局20年程で1.6倍程度になっています。
輸出は3.2倍、輸入は3.0倍と非常に大きな増え方をしていますね。
他の国では輸出よりも輸入の伸びの方が大きいのですが、ドイツの場合は輸出の伸びの方が大きいです。

貿易、特に輸出型産業が経済成長の原動力となっている印象です。

6. イタリアのGDP支出面の変化

つづいてイタリアです。

イタリア GDP 支出面

図6 イタリア GDP詳細
(OECD 統計データ より)

図6がイタリアのグラフです。

イタリアは先進国の中でも成長が特に低い国の一つですね。
各項目とも2008年頃までは順調に成長していましたが、その後は停滞気味です。それでもGDPや家計最終消費、政府最終相は2%成長に近い傾きで推移していて、1.6~1.8倍程度になっていますね。

総資本形成は2011年以降大きく落ち込んで、その後緩やかに回復しています。直近では1997年と比較して1.5倍程度になっていますね。
輸出と輸入は他の項目と比べると伸びが大きいようです。

輸入が2.3倍、輸出が2.1倍程度になっています。

7. 日本のGDP支出面の変化

日本 GDP 支出面

図7 日本 GDP詳細
(OECD 統計データ より)

最後に経済停滞中の日本です。

GDP、家計最終消費はほぼゼロ成長です。
総資本形成は、1997年と比べるとマイナス成長で0.8倍です。
逆に政府最終消費支出はプラス成長で1.3倍程度ですね。

これらに比べると、輸出と輸入はアップダウを繰り返しながらも増大している事がわかります。
輸入は2倍、輸出は1.8倍となっています。
他の先進国と比べれば低い水準ですが、貿易は大きく増えている状況ですね。
GDPとして加えられるのは、輸出額から輸入額を差し引いた純輸出額となりますので、正味としてはほぼ相殺しています。

家計最終消費支出は停滞し、政府最終消費支出の伸びは総資本形成のマイナスで打ち消され、輸出は輸入で相殺されることから、結果的にGDPはずっと横ばいで推移しているという事になります。

8. GDP支出面の変化の特徴

今回は1997年を起点とした、主要国のGDP支出面の成長率(倍率)を見ていきました。

各国でそれぞれ特徴があって非常に興味深いですね。
各国とも共通しているのは、輸出や輸入などの貿易の伸びが大きい事です。
日本も他の項目は停滞していますが、輸出入は成長しています。

そして、各国ともGDPの成長は、ほぼ家計最終消費支出の成長と一致しているという事です。
アメリカは家計消費の伸びの方が大きく、ドイツは家計消費伸びの方が小さいという特徴がありますが、概ね近い値で推移しています。

当然ではありますが、各国ともGDPの最大項目は家計最終消費支出です。
家計最終消費支出がGDPに占める割合は以下の通りです。(2017年時点)
日  本 53.9%
アメリカ 66.3%
イギリス 62.2%
カナダ  56.6%
ドイツ  51.7%
フランス 51.9%
イタリア 59.8%

どの国でも家計最終消費はGDPの5割以上を占めます。
アメリカにいたっては7割近くです。
日本は低い方ですが、ドイツやフランスよりも割合は大きいようです。

また、政府最終消費支出も総資本形成も日本以外の国では右肩上がりです。
緊縮財政と呼ばれるドイツでも1.6倍以上になっています。
政府最終消費支出には、社会保障関連の支出が含まれています。
日本の場合、政府最終消費支出の増加分はほぼこのような要因と言えるのではないでしょうか。

日本は総資本形成がマイナスであるという事が、先進国の中でも異質ですね。
公共事業も日本では「無駄遣い」などと攻撃される対象となっていますが、他国と比べればむしろ大きく減額されています。
政府最終消費支出も、他国と比べれば増やしすぎではなく、むしろ増え方がゆるやかです。

政府が支出を増やせば経済成長できるという意見もあるようです。
確かに、公共投資や政府最終消費支出を増やせば、GDPが増える余地があるのかもしれません。
ただし、それで民間のお金が増えることになっても、それが家計に回らなければ意味がありませんね。

現在の日本は、企業は潤っていても、労働者の給与が低下している状況です。
あるいは、家計全体としては潤沢なお金があっても、現役世代は困窮する世帯が増えているようです。

再分配後の貧困率が高く、所得格差も大きいという指摘もあります。

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