091 付加価値分配のバランス - GDP分配面の変化
労働者(家計)への分配となる賃金や、企業への営業余剰・混合所得などGDPの分配面について、主要先進国の変化度合を可視化してみます。
目 次
1. アメリカのGDP分配面の変化
前回は、G7各国のGDP分配面についての比較を行いました。
基本的にはどの国も労働者の賃金と企業の営業余剰・混合所得という形で同じくらいの割合で分配している状況が分かりました。
日本以外の主要国は、基本的には右肩上がりに増大しています。
日本は1990年頃に営業余剰・混合所得が停滞し、次いで1997年に賃金が減少→停滞を始めています。
純間接税や雇主の社会負担という政府への分配は、日本はむしろ他国よりも少ない状況という事もわかりました。
今回は、日本の転換点となった1997年からの、それぞれの成長率に着目してみたいと思います。
各国でGDP(付加価値)の分配をどのように増やしているのかを可視化してみましょう。
図1 アメリカ GDP 分配面
(OECD 統計データ より)
図1がアメリカの分配面のグラフです。
1997年の数値を1.0とした場合の倍率として表現しています。
また、年率の成長率が1%の曲線を黒い線、2%を破線、3%を点線(太)、4%を点線(細)で表現しています。
GDPが水色、賃金が青、営業余剰・混合所得が赤、雇主の社会負担が緑、純間接税がオレンジです。
赤い曲線は消費者物価指数(CPI)を示します。
各項目が、1.0より大きければ名目値で成長があり、CPIよりも大きければ実質値でも成長していることになります。
アメリカの場合は、各項目とも足並みをそろえて増大していることが分かりますね。
いずれも年率4%以上の高い成長率で、20年ほどの間に2.2~2.4倍になっていることが分かります。
よく見ると、GDP全体の成長よりも高い水準で営業余剰・混合所得が成長していて、低い水準で賃金が成長しています。
企業側により多くの分配をしている点が、アメリカの特徴と言えそうです。
2. カナダのGDP分配面の変化
続いてカナダのデータです。
図2 カナダ GDP 分配面
(OECD 統計データ より)
図2がカナダのグラフです。
カナダもアメリカ同様に人口も増え、比較的高い成長率の国です。
GDP全体として4%以上の成長ですが、やや純間接税の伸びが小さく、雇主の社会負担の伸びが大きいですね。
GDP自体の成長と賃金の成長がほぼ一致している点も特徴的です。
やはり営業余剰・混合所得の方が賃金よりも若干大きめに成長しているようです。
営業余剰・混合所得は2.6倍、賃金は2.5倍に増えています。
全体的に足並みを揃えて成長している様子が分かります。
3. イギリスのGDP分配面の変化
続いてイギリスの変化です。
図3 イギリス GDP 分配面
(OECD 統計データ より)
図3がイギリスのグラフです。
カナダ同様GDPと賃金がほぼ一致して成長しています。
4%成長で、20年程で2.3倍くらいになっています。
雇主の社会負担や純間接税の伸びが大きいのが特徴ですね。
企業や家計よりも、政府への分配を多く増やしているという事を示していると思います。
その分、営業余剰・混合所得の成長が低めになっています。
営業余剰・混合所得は賃金よりも小さい成長率になっています。
それでも年率3.5%程度、2倍以上の成長です。
4. フランスのGDP分配面の変化
続いてフランスのGDP分配面の変化です。
図4 フランス GDP 分配面
(OECD 統計データ より)
図4がフランスのグラフです。
アメリカなどと比べると低成長となりますが、概ね足並みをそろえて右肩上がりに成長している様子が分かります。
営業余剰・混合所得よりも賃金の方がやや高めの成長です。
低成長と言えど、年率3%程度、1.8~1.9倍くらいになっていることが分かりますね。
5. ドイツのGDP分配面の変化
続いてドイツのデータです。
図5 ドイツ GDP 分配面
(OECD 統計データ より)
図5がドイツのグラフです。
フランスよりも更に傾きが緩やかですが、それでも足並みをそろえて右肩上がりですね。
やや純間接税の増加が大きいようです。
近年では、営業余剰・混合所得よりも賃金の方が成長率が高い事も確認できます。
概ね年率2~3%の成長で、1.6~1.8倍程度に増大しています。
6. イタリアのGDP分配面の変化
次はイタリアのデータです。
図6 イタリア GDP 分配面
(OECD 統計データ より)
図6がイタリアのグラフです。
イタリアは各項目の推移が連動していて足並みが揃ってはいますが、他の主要先進国と比べると近年停滞傾向が見られます。
2008年頃から各項目とも停滞気味で、雇主の社会負担はCPIよりもやや下回っています。
直近値でCPIとほぼ同じ水準となっていますので、名目で成長していても実質ではほとんど成長していない状況です。
GDP、賃金、営業余剰・混合所得は2015年頃からやや増加傾向が強まっています。
近年では名目値ではプラス成長と言えそうですが、CPIとの傾きからすると実質値ではほぼゼロ成長と言えそうです。
営業余剰・混合所得と賃金の割合では、やはり賃金の方が増大が大きいようです。
7. 日本のGDP分配面の変化
図7 日本 GDP 分配面
(OECD 統計データ より)
図7が日本のグラフです。
他国と同じ縦軸スケールだと、どうなっているのかよくわかりません。
図8 日本 GDP 分配面(拡大)
(OECD 統計データ より)
縦軸の範囲を変えて、拡大したのが図8のグラフです。
GDPは1997年から停滞が続いてきたわけですが、ここから色々と読み取れることがありそうです。
まず、GDPの成長(縮小)に対して、賃金(青)が全体的に下回っています。
賃金の減少がGDPを押し下げる要因になっている事が窺えますね。
営業余剰・混合所得と比べても常に下回っていますので、企業は付加価値が停滞している中でも、賃金よりも企業の取り分である営業余剰・混合所得を確保する事を優先しているようにも見えます。
また、純間接税と雇主の社会負担はプラス成長をしていますので、政府の取り分が増えている事も示されていると思います。
つまり、付加価値(GDP)を稼げなくなっているのに、労働者への分配よりも、企業や政府への分配が優先されているという事ですね。
他の主要国(高成長なアメリカ、カナダを除く)では、営業余剰・混合所得よりも労働者への分配の方が多くなっています。
日本では付加価値分配の優先順位が政府>企業>労働者となっているようにも見えます。
8. 主要先進国のGDPの変化の特徴
今回まで、GDPの支出面、生産面、分配面に着目して、G7の主要国との比較をしてきました。
合計値としては停滞している日本ですが、その内訳を見ると色々な変化がありそうです。
・ 支出面: 企業、家計、政府共に投資を減らした(増やさなくなった)
・ 生産面: 日本の産業のほとんどが停滞・縮小産業(成長率マイナス)となっている(特に工業)
・ 分配面: 政府への分配が増え、企業への分配が優先され、労働者への分配が目減りしていた
上記のいずれも、他の先進国もそうかと思えば、どうやら違いそうです。
日本だけが違うポイントです。
他の先進国は、下記の通りです。
・ 支出面: 消費も投資も同様に右肩上がりで増加している
・ 生産面: 特徴的な成長産業を持っている(ドイツの工業、イギリスの専門サービス業など)
・ 分配面: 企業と家計で分け合いながら増えている
先進国の中で様相が異なる日本経済ですが、この先どのようになっていくのでしょうか。
2012年ころから様々な指標で上昇傾向が見受けられますので、緩やかに成長傾向にはなっていそうです。
今後の推移も引き続き注視していきたいと思います。
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