148 負債が減る日本企業 - 企業の純金融資産国際比較
経済主体のうち、家計が純金融資産を増やす一方で、主に純金融負債を増やすのが企業です。日本は企業の純金融負債がむしろ目減りしていますが、国際比較する事でその傾向を確認してみます。
1. 企業の1人あたり純金融資産の国際比較
前回までは家計、企業、政府、金融機関、海外の主体ごとの純金融資産(Financial net worth: 金融資産・負債差額)を見る事で、各国の金融バランスシート(Financial balance sheets)を可視化してきました。
主要国だけでなく、経済発展中の国、投資の集まる国、資源国、人口の減る国、変調著しい国など、様々な国の経済の形を眺めてきました。
どの国でも共通なのは、基本的には家計が純金融資産を増やしている点ですね。
経済全体で見れば誰かの純金融資産は誰かの純金融負債になりますので、家計の代わりに純金融負債を増やす主体がある事になります。
標準的な国家の典型は、その主体が企業という事になると思います。
政府についてはアメリカやフランス、日本のように純金融負債を増やしている国もありますが、スウェーデンやフィンランド、ルクセンブルクのように純金融資産がプラスの国もあります。
海外は、主要先進国の多くでは純金融負債が増えていて、当該国から海外への投資が増えているようです。
ドイツや日本、スイスなどが典型ですね。
一方で、経済が変調しているギリシャや、イタリア、スペイン、経済発展中のハンガリーやポーランドでは海外の純金融資産が大きくプラスになっていて、海外への負債を増やしている事になります。
今回から、それぞれの経済主体についての各国比較をしていきたいと思います。
まずは、日本の変調が著しい企業からです。
国家間での統計データを厳密に比較するのは難しいと思いますが、今回は人口1人あたりのドル換算値を基本として比較していきます。
是非前回までにご紹介してきた各国通貨ベースでの経済の形を思い起こしながら、ご覧いただければと思います。
図1 企業 純金融資産 1人あたり ドル換算
(OECD 統計データ より)
図1がOECD各国の企業の純金融資産(金融資産・負債差額)を比較したグラフです。
純金融資産なので、マイナスだと純金融負債になります。
すべての国でマイナスです。
青が1995年、赤が直近の2018年です。
日本企業は1995年の時点では、データのある中で最も高い水準の純金融負債があったことがわかりますね。
そこから、純金融負債を減らして現在は14番目の水準となります。
まだ高い水準ではありますが、多くの国に抜かれている状況です。
アメリカの純金融負債の伸び方は凄まじいですね。
1995年には日本よりも低い状況だったのが、現在はOECDで2番目に高い水準です。
2. 企業の1人あたり純金融資産の推移
次に、主要国の推移を見てみましょう。
図2 企業純金融資産 1人あたり
(OECD 統計データ より)
図2が、主要国の企業の純金融資産(1人あたり)の推移を示しています。
1995年の時点で高い水準であった日本企業の純金融負債が、減少しつつ停滞している間に、他の主要国に抜かれたり追いつかれたりしている状況がわかりますね。
同じ工業国のドイツの純金融負債が長期的には増えているながらも、非常に水準が低いことが特徴的です。
ドイツの場合は、海外が純金融負債を大きく増やしている経済の形でした。
自国産業は少しずつ成長させながら、海外に大きく投資しているような国と言えそうです。
製造業から脱却しつつあるイギリスや、イタリア、フランスも停滞気味です。
一方で、スウェーデンやスイスなどは大きく増やしていますね。
3. 企業の純金融負債の成長度合い
続いて、自国通貨ベースで見た場合の、各国企業の純金融負債の伸び具合を比較してみましょう。
図3 企業 純金融負債 倍率
(OECD 統計データ より)
図3が企業の純金融負債の伸び具合を表したグラフです。
1995年の自国通貨ベースでの水準を基準(1.0)とした場合の倍率で表現しています。
基本的にどの国も右肩上がりで企業の純金融負債が増えていることがわかります。
アメリカやカナダで4倍以上、フランスで3.5倍程度、イギリスやドイツでも2倍以上です。
イタリアは2006年頃から横ばいです。
日本だけマイナスです。
GDPや物価、平均給与の成長率のグラフとも非常に似ている事がわかるのではないでしょうか。
4. 企業の純金融資産の特徴
今回は企業の純金融資産(負債)に着目してみました。
家計の純金融資産が増える裏で、企業の純金融負債が増えるのが先進国の標準形と言えます。
日本の場合は、企業の純金融負債が減少している所が他国と異なるポイントですね。
確かに、日本企業は1980年代~1990年代にかけて積極的に投資を行い、負債を増やしている様子が窺えます。
図4 総固定資本形成 機械・設備 1人あたり 推移
(OECD 統計データ より)
例えば図4のようなグラフが典型的ですね。
主要国の機械・設備のグラフです。
1980年代中頃から、2000年頃にかけて日本は他国に比べると極めて高い水準の機械・設備投資を行っていたと言えます。
そして1995年以降は図2と同様で減少→停滞している状況ですね。
1995年は物価水準も世界一だった時期です。
1人あたりGDPも、給与水準も極めて高い水準だった日本経済のピークとなった時期です。
結局バブルが崩壊した後にも、これだけの割高な機械・設備を投資していたことになります。
日本は、企業が負債を増やさず、海外進出や金融投資を増やす主体へと変化しています。
近年は政府と海外が負債を増やす事で、家計の純金融資産が増えている状況です。
これは他国では見られない日本独特の変化のようです。
(やや似ているのがオランダとスペインです)
自国企業が負債を増やし、国内への事業投資を増やしていくかというのが、国内経済が成長しているかどうかをみるバロメータと言えそうです。
バブル期~ポストバブル期での極端な状況が、近年(特に2010年以降)では解消されつつあるように思います。
再び企業が国内での事業投資を増やしていく転機が訪れつつあるのかもしれません。
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