033 私たちは何に満足するのか - 生活の向上感と満足度
日本人は生活の向上感が無いながらも、比較的満足感が高いという傾向があるようです。どのような面で満足感を高めているのか、統計データで確認してみます。
1. 生活の満足度についての世論調査
前回は、日経平均株価と私たちの給与は連動しておらず、むしろ生活への満足度が連動しているような状況が明らかとなりました。
私達は生活のどんなところに満足感を覚えるのでしょうか。
今回から内閣府の世論調査結果を元に、日本人の満足感について取り上げていきたいと思います。
世論調査には、調査対象の偏りがあるなどの指摘が多いようです。
実際に世論調査のフェイスシートを調べてみると、次のような事実がわかりました。
平成30年のフェイスシートによれば、調査対象者は以下のような割合だったようです。
性 別: 男性 45.9%、女性 54.1%
年 齢: 30才未満 7.8%、30才台 12.4%、 40才台 16.8%、 50才台 16.1%、 60才台 20.2%、70才台 18.2%、80歳以上 8.5%
仕 事: 雇用者51.3%、自営業主7.6%、家族従業者2.1%、無職39.0%
世帯構成: 1人世帯 11.4%、夫婦だけ 25.7%、親と子 50.5%、親と子と孫 10.8%、その他
未・既婚: 既婚 72.0%、既婚(離・死別) 13.5%、 未婚 14.4%
子供有無: いる 77.4%、 いない 22.5%、 無回答 0.1%
住 宅: 持ち家 81.7%、 賃貸 16.3%、 給与住宅 1.4%、 その他 0.6%
住 宅: 一戸建 82.0%、 集合住宅 17.7%、 その他 0.3%
調査対象が偏っていると考える方もいらっしゃるかもしれませんし、そう思わない方もいると思います。
私は、正直偏っているな、という印象です。
既婚者で子供がいる家族の割合が明らかに大きいですし、住宅にしても一戸建て、持ち家の割合が大きいですよね。
持ち家の比率は全国平均でも7割弱と言われています。
年齢も若年層は少なく、高齢層が多いです。
働き盛りの50歳未満で37.0%しかありません。
今は結婚すること自体が贅沢となりつつある状況ですし、単身世帯数が激増しているわけですから、国民生活を満遍なく平等に調査したとは言い難いと思います。
例えば2016年で単身世帯は27.1%だそうなのですが、この調査では11%程度です。
総じて考えると、持ち家があって、結婚していて、子供のいる、現在においては比較的裕福で、年齢層も上の層の意見が多い調査結果である、と考えた方が良さそうですね。
ただし、時系列で傾向を見ていけば、時代の変遷とともに私達の「満足感」についての傾向について知ることができるかもしれません。
そういった前提を頭に入れた上で、世論調査の詳細を一緒に見ていきましょう。
2. 生活の向上感
まずは、私たちの生活が向上しているかを集計した「去年と比べた生活の向上感」について見ていきましょう。
図1 生活の向上感
(国民生活に関する世論調査 より)
まず図1に去年と比べた生活の向上感のグラフを示します。
1999年~2001年のデータが欠落しておりますが、ご容赦ください。
このシリーズでは世論調査の結果は全て統一的なフォーマットで表現します。
赤いラインがプラスの評価割合、青いラインがマイナスの評価割合、緑のラインがDIとなります。
DI(Diffusion Index)はある選択肢の百分率と他の選択肢の百分率の差によって算出されます。
この場合は、「向上している」の数値から「低下している」の数値を引いたものです。
DIがプラスだと向上していると感じる人の割合の方が多いことを示し、マイナスだと低下していると感じる人の割合が多いことを示します。
また、グレーのラインは、総合の満足度を示しています。
それぞれの指標がどの程度この満足度に影響があるのか比較するために表示してあります。
中間的な評価割合が大きいものは黒いラインで表示してあります。
さて、向上感のグラフですが、圧倒的に「同じようなもの」という回答が多いですね。
しかも趨勢的には増えている印象です。
1973年に「向上している」と「低下している」の回答は逆転し、以降は低下しているの方が大きい状況が続いています。
DIとしてはマイナスが続いているという事ですね。
基本的には変わらないという感覚の人が大多数で、低下し続けていると感じている人も多い事がわかります。
3. 所得・収入についての満足度
次に、生活満足度を構成するうちの所得・収入についての満足度です。
図2 現在の生活の各面での満足度 所得・収入
(国民生活に関する世論調査 より)
図2は満足度のうち、所得・収入に関するグラフです。
「満足」「不満」がともに50%前後です。
「満足」には「満足している」と「まあ満足している」が含まれます。
「不満」には「不満だ」と「やや不満だ」が含まれます。
現在の所得・収入に対して「満足」が「不満」を下回る状態(DIがマイナス)が続きましたが、2017年からは逆転し、満足の方が多くなっています。
詳細を見ると、性・年齢別に見ると、「満足」の割合は女性の30歳代、40歳代で、「不満」の割合は男性の60歳代で、それぞれ高くなっているようです。
従業上の地位別に見ると、「満足」の割合は家族従業者、主婦で、「不満」の割合はその他の無職で、それぞれ高くなっているそうです。
また、職業別に見ると、「満足」の割合は管理・専門技術・事務職で、「不満」の割合は販売・サービス・保安職、生産・輸送・建設・労務職で、それぞれ高くなっているそうです。
結果は2極化していますので、職業、年齢などによる格差等が満足感に影響しているのでしょうか。
DIはほぼマイナスですので、満足度の高さに対しては、この項目はプラスに寄与していなさそうです。
4. 資産・貯蓄についての満足度
次に、資産・貯蓄についての満足度です。
図3 現在の生活の各面での満足度 資産・貯蓄
(国民生活に関する世論調査 より)
図3は資産・貯蓄に関する満足度のグラフです。
所得・収入に比べて「不満」の方が「満足」よりも大きい状態が続いています。
DIも常にマイナスですね。
2017年以降ではその差が小さくなっているように見えます。
都市規模別に見ると、「不満」の割合は小都市で高くなっていおり、性別に見ると、「満足」の割合は女性で、「不満」の割合は男性で、それぞれ高くなっているようです。
年齢別に見ると、「満足」の割合は70歳以上で、「不満」の割合は30歳代から50歳代で、それぞれ高くなっているようです。
性・年齢別に見ると、「満足」の割合は女性の60歳代、70歳以上で、「不満」の割合は男性の30歳代から50歳代、女性の40歳代、50歳代で、それぞれ高くなっているようです。
従業上の地位別に見ると、「満足」の割合は家族従業者、主婦で、「不満」の割合は雇用者で、それぞれ高くなっているようです。
5. 耐久消費財についての満足度
次に、具体的なモノに対する指標として耐久消費財についての満足度です。
図4 現在の生活の各面での満足度 耐久消費財
(国民生活に関する世論調査 より)
図3は、自動車、家電、家具などの耐久消費財に関する満足度です。
前述の所得などと比べると、「満足」が非常に大きな数値となっているのがわかります。
耐久消費財の何に満足しているのかは人それぞれなのだと思いますが、機能・性能、コストあるいはその両方(コストパフォーマンス)に満足感を覚える人が多いという事でしょう。
日本では比較的高性能な製品が安く入手できるという事が大きいのかもしれません。
DIはかなり大きなプラスの数値で推移しており、総合満足度を引き上げる要因の一つと考えられそうです。
「満足」とする者の割合は女性で、「不満」の割合は男性で、それぞれ高くなっており、年齢別に見ると、「満足」の割合は70歳以上で、「不満」の割合は40歳代、50歳代で、それぞれ高くなっているようです。
6. 日本人の生活満足度の特徴
今回は満足度を表す指標のうち、向上感、お金に関するもの、消費に関するもの(耐久消費財)について取り上げてみました。
生活の向上感は同じような状態が続くと感じている人が圧倒的に多く、次いで低下していると感じる人が多い状況です。
総合すると低下していると感じている人が常に多い状況が続いています。
所得・収入や資産・貯蓄などお金に関する事は、満足、不満それぞれの数値が大きく、不満と感じる人の方が多い状況が続いています。
所得・収入については、近年満足が不満を逆転していますので、この後の展開に注目したいところです。
これらに対して、耐久消費財の満足度が非常に高いのが印象的です。
日本では品質の割りに安い製品が多いので、コストパフォーマンスが良いという観点で耐久消費財についての満足度が高いのかもしれません。
簡単に言えば収入・資産については不満が上回り、消費の面では満足感が高いという事です。
比較的裕福な層が多いと思われる世論調査でこのような結果なわけですね。
次回は別の指標についても取り上げていきたいと思います。
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