064 日本は人手不足って本当? - 業況と雇用人員の過不足

日本は人手不足と言われますが、製造業と非製造業では傾向が異なるようです。日本銀行の短観データから日本企業の感じる人員の過不足間を可視化してみます。

1. 雇用人員DIとは

前回は、日本銀行の短観データより、各企業規模の需給について取り上げました。
国内需要も、海外需要も基本的にはどの企業規模でもマイナスで、累積すれば右肩下がりの状況という事がわかりました。

日銀短観では、様々な指標の統計結果が公表されていますので、今回はまた別の指標についてご紹介します。
 参考URL: 短観調査表

今回は、「雇用人員DI」を取り上げたいと思います。
貴社の雇用人員」という質問に対して、1.過剰、2.適正、3.不足の回答のうち、1.過剰と答えた割合から3.不足と答えた割合を差し引いたものです。

雇用人員DIがプラスであれば従業員が過剰であると考え、マイナスであれば不足と考える企業が多いという事になります。

最近よく「人手不足」という言葉を耳にする一方で、大企業でのリストラは加速し、景気が好転しているような実感もありません。
そのヒントが垣間見れるかもしれませんね。

雇用人員DI

図1 日本銀行 短観 雇用人員DI 予測
(日本銀行 短観データ より)

図1が雇用人員DIとなります。

大企業中堅企業中小企業の企業規模、製造業非製造業の区分ごとのグラフです。
概ね傾向は一致しているようですね。

1980年代後半から1991年にかけてのバブル期に急速にマイナス(つまり人員不足)となり、1991年のバブル崩壊後は急速にプラス(人員過剰)へ転じています。
1994~2005年に掛けて人員過剰の状態が続きましたが、2008年に向けて人手不足感が増大し、2008年のリーマンショック後は急激に人員過剰へ・・・

その後緩やかに人手不足感が増してきていますが、2020年に入り今回のコロナショックで、また人員過剰側に変化しつつある様子がわかります。

労働者の過不足が、明らかに景気によって左右されている様が可視化されているのではないでしょうか。
つまり景気が比較的良ければ人員不足、悪くなれば人員過剰と判断されてしまうわけですね。

よく見ると、製造業は人員過剰気味、非製造業は人員不足気味で推移しているのも興味深いです。

2. 雇用人員DIの累積値

雇用人員DI 累積

図2 日本銀行 短観 雇用人員DI 予測 累積
(日本銀行 短観データ より)

図2が雇用人員DIに関する累積データです。

その時々の人員の過不足についてのDIを累積したところで、統計的には何ら意味はありません。
ただ、DIを累積すると、概ね実感値に近いデータになるというご意見もありました。(私もそう感じます)

今回の雇用人員DIは典型的なグラフになっています。

図2を見ると製造業がプラス、非製造業がマイナスで推移しています。
つまり、製造業では過不足感は変動するものの、総じて人員過剰である割合の方が多いという事ですね。
大企業ほど人員過剰感が強い事もわかります。

逆に非製造業は総じてマイナスの領域傾向として右肩下がりです。
つまり慢性的に人員不足という状況を示していると思います。

3. 製造業の業況と雇用人員

労働者の過不足は、当然ですが業況と連動する事になります。
業況が悪ければ人員過剰と感じ、業況が良ければ不足と感じるわけですね。

以前ご紹介した業況DIと重ね合わせる事で、労働者の過不足感が業況に大きく影響されている事を可視化してみます。

業況DI 雇用人員DI 大企業 製造業

図3 業況DIと-雇用人員DIの比較 大企業 製造業
(日本銀行 短観データ より)

業況DI 雇用人員DI 中小企業 製造業

図4 業況DIと-雇用人員DIの比較 中小企業 製造業
(日本銀行 短観データ より)

図3、図4はそれぞれ大企業・製造業と中小企業・製造業で業況DI雇用人員DIを比較したものです。

比較しやすくするために、-雇用人員DIは雇用人員DIに-1をかけてグラフを反転させています。
つまり、-雇用人員DIはプラスであれば人員不足、マイナスであれば人員過剰です。

業況DIのアップダウンのタイミングと-雇用人員DIのアップダウンのタイミングが一致します。
つまり事業がうまくいっていれば比較的人員不足と感じ、悪化していれば人員過剰と感じている事が一致しているわけですね。
(当然と言えば当然ですが。。。)

企業規模間で比較すると、大企業は業況DI(青)と-雇用人員DI(赤)で業況DIの方が上方に位置します。
逆に中小企業は業況DIの方が-雇用人員よりも総じて下方に位置します。

大企業ほど業況の割には人員過剰で、中小企業ほど業況の割には人手不足であるという事が示されているのではないでしょうか。

4. 非製造業の業況と雇用人員

図3, 図4は製造業のみでしたので、念のため非製造業についてもグラフを見ておきましょう。

業況DI 雇用人員DI 大企業 非製造業

図5 業況DIと-雇用人員DIの比較 大企業 非製造業
(日本銀行 短観データ より)

業況DI 雇用人員DI 中小企業 非製造業

図6 業況DIと-雇用人員DIの比較 中小企業 非製造業
(日本銀行 短観データ より)

図5,図6が非製造業の大企業、中小企業について業況DIと-雇用人員DIを比較したグラフです。
非製造業では大企業では業況DIと-雇用人員DIがどちらが上か判別しにくいですが、中小企業は明白ですね。

業況が良くないのに、人手不足という事が如実に表されているのではないでしょうか。

5. 雇用人員DIの特徴

今回は雇用人員DIについてご紹介しました。

大企業、特に製造業では、人員過剰感が大きいようです。
当然製造業では、海外展開や、自働化、省力化が進んでいますから、国内の労働者の担う仕事が減っているのは確かだと思います。

一方で、生産性の低いと言われる中小企業や非製造業では人手不足感が強いわけですね。
図6が典型的ですが、業況が悪くても人手不足という状況にまで陥っています。

一方で、人手不足という事は、労働者の給与水準が上がっていく大きな動機ともなりますね。

皆さんはどのように考えますか?

参考:最新データ

(2023年11月追記)

雇用人員DI 実績

図7 雇用人員DI 実績
(日本銀行 短観データより)

図7が最新のデータ(2023年7~9月期)まで延長したグラフです。

コロナ禍により急激に人員過剰となった後、また人員不足側へと転じているようです。

2010年以降は全体として人員不足が進んでいるような印象ですね。

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