086 投資の減る日本 - GDP支出面の各国推移
GDP支出面の各項目について、日本、アメリカ、ドイツでの推移をご紹介します。日本では家計の消費が停滞し、政府の消費が増え、投資が減っているようです。
1. GDP支出面とは
前回は、G7以外の国のGDP、家計消費、労働生産性、平均給与、消費者物価指数などの各種経済指標についても、G7と同様に名目値の変化グラフを作成して、経済成長の共通点を可視化してみました。
低成長と言われる先進国でも、1. GDP、家計消費、2. 労働生産性、平均給与、3. 消費者物価指数という順に成長している事が確認できました。
この中でも、特にGDPは、国民の生産した付加価値の総額であり、支出の総額でもありますので、まさに経済活動の活発さを示す最も重要な経済指標と言えると思います。
各国ともGDPの大半は家計消費で占められるわけですが、今回はそれ以外の項目についても可視化してみたいと思います。
G7の中でも成長率の高いアメリカと、低成長なドイツ、そして日本のグラフを比較してみましょう。
GDP(国内総生産)は、内閣府によれば下記のように定義されます。
「国内総生産は、居住者たる生産者による国内生産活動の結果、生み出された付加価値の総額である。」
GDPには、支出、生産、分配の3つの側面があり、これら3つの総額はすべて一致します。(3面等価の原理)
今回は、支出面にフォーカスして、GDPを構成する項目のうち、どこに需要があるのか確認していきたいと思います。
支出面のGDPは、家計最終消費支出、政府最終消費支出、総資本形成、純輸出に分けられます。
区分の仕方は、OECDの区分に従います。
日本では、総資本形成を民間と政府(公的)で分けているのですが、OECDの場合はざっくりと合計値で区分しているようです。
家計最終消費支出は、個人(家計)が支出した新規の財やサービスの合計値です。
政府最終消費支出は、政府が支出した新規の財やサービスの合計値です。
総資本形成は、総固定資本形成と在庫変動などから構成されますが、ほぼ総固定資本形成で占められます。
総固定資本形成は、住宅やその他の建築物、機械や輸送機器などの設備、防衛装備などへの投資の合計値となります。
純輸出は、輸出の合計値から輸入の合計値を差し引いた金額です。
海外との取引で、正味でどれだけプラス(あるいはマイナス)になったかを表す数値で、ほとんどの国で輸入と輸出が相殺されて0近辺となります。
2. アメリカのGDP支出面
まずは、アメリカのグラフから見てみましょう。
図1 アメリカ GDP推移 内訳
(OECD 統計データ より)
図1がアメリカのGDP支出面の各項目の推移です。
1970年からの長期データとなります。
単位は兆ドル、名目値でのグラフです。
家計最終消費支出が赤、政府最終消費支出が緑、総資本形成がオレンジ、純輸出が青です。
各項目の推移は基本的には右肩上がりです。
(純輸出は若干マイナス額が増えている(輸入超過)ようです。)
やはり家計最終消費支出が大きな割合を占めていますね。
よく見れば家計最終消費支出は、2次関数的な上昇の仕方をしている事がわかると思います。
人口の増加 X 1人あたりの消費額増加でこのようなグラフになっているわけですね。
直近の2018年のデータでは、GDP20.6兆ドルのうち、家計最終消費が14.0兆ドル(全体の68%のシェア)、政府最終消費支出が2.9兆ドル(14%)、総資本形成が4.3兆ドル(21%)です。
1997年からの変化を見ると、GDPが2.40倍、家計最終消費支出が2.53倍、政府最終消費支出が2.38倍、総資本形成が2.25倍といずれも2倍以上になっています。
3. ドイツのGDP支出面
図2 ドイツ GDP推移 内訳
(OECD 統計データ より)
図2がドイツのグラフです。
やはりいずれも右肩上がりで推移していますね。
単位は兆ユーロです。
アメリカと比較すると、家計最終消費に対して政府最終消費支出や総資本形成の割合が近いです。
純輸出がそれなりに大きな割合でプラスになっているのも特徴的です。
2018年のデータでは、GDP3.34兆ユーロのうち、家計最終消費支出が1.74兆ユーロ(52%)、政府最終消費支出が0.67兆ユーロ(20%)、総資本形成が0.73兆ユーロ(23%)、純輸出が0.2兆ユーロ(6%)です。
1997年から2018年の変化は、GDPが1.71倍、家計最終消費支出が1.58倍、政府最終消費支出が1.75倍、総資本形成が1.59倍です。
ドイツは先進国の中では低成長な部類に入り人口も停滞していますが、それでもこれだけ成長しているようです。
特にドイツは緊縮財政とも言われていますが、総資本形成、政府最終消費支出共に右肩上がりで増加しています。
4. 日本のGDP支出面
それでは、日本のGDPの推移も見てみましょう。
図3 日本 GDP推移 内訳
(OECD 統計データ より)
図3が日本のGDP各項目の推移です。
各項目で特徴的な推移になっています。
家計最終消費支出は、1980年代後半から急激に伸びて、1990年から傾きが緩やかになり、1997年にピークとなってから横ばい傾向です。
政府最終消費支出は、2000年あたりから傾きは緩やかになりつつも一貫して増加傾向ですね。
総資本形成は1991年にピークとなってから、減少し2010年頃からやや増加しています。
ピーク値からは大きく目減りしています。
純輸出はややプラス気味で推移していますが、ほぼゼロです。
直近の2018年の数値としては、GDPが547兆円、家計最終消費支出が304兆円(56%)、政府最終消費支出が108兆円(20%)、総資本形成が133兆円(24%)です。
1997年からの成長率は、GDPが1.00倍、家計最終消費支出が1.07倍、政府最終消費支出が1.30倍、総資本形成が0.83倍です。
全体として停滞していますが、中身を見ると、政府最終消費支出が増加し、総資本形成が減少している事になります。
政府最終消費支出が増大しているのは、社会保障費の増大によるものが大きいと思います。
合計で見れば、20年以上にわたって経済規模が停滞しているわけですね。
5. 日本の総資本形成
それでは、総資本形成は、何が増えて、何が減っているのでしょうか?
総資本形成は、経済を発展させていくための社会としての投資と考えられますね。
もう少し日本の総資本形成の詳細を見てみましょう。
図4 日本 総資本形成推移 内訳
(OECD 統計データ より)
図4が日本の総資本形成の内訳の推移です。
OECDの区分通りなので、日本政府の出している区分とは異なります。
青が住宅(Dwellings)、緑がその他の建物・構築物(Other buildings and structures)、赤が機械・設備(Machinery, equipment and weapon system)、橙が知的財産生産物(Intellectual property product)です。
民間と公的という区分でなく、目的別になっているのが興味深いですね。
知的財産生産物が1つの別項目になっているのもOECDの区分で特徴的なポイントだと思います。
知的財産生産物は研究開発、コンピュータ、ソフトウェアなどのようです。
住宅、その他の建物・構築物、機械・設備共に1990年から1997年あたりをピークに減少していることが分かります。
大まかに言えば、住宅は家計の住宅購入、その他の建物・構築物は主に公共事業や企業の建築物、機械・設備が民間企業の設備投資と読み替えても差し支えないと思います。
1997年と2018年の数値を比べてみましょう
1997年 2018年
住 宅: 26.9兆円 → 17.1兆円 (- 9.8兆円、37%減)
その他の建物・構築物: 54.4兆円 → 41.0兆円 (-14.4兆円、25%減)
機 械 ・設 備: 54.1兆円 → 44.2兆円 (- 9.7兆円、18%減)
知的財産生産物: 21.4兆円 → 29.5兆円 (+ 8.1兆円、38%増)
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合 計: 160.0兆円 →133.1兆円(-26.9兆円、17%減)
知的財産生産物がプラスなので合計値のマイナス幅が小さくなっていますが、それ以外の総資本形成についてはそれぞれ大幅なマイナスです。
特に住宅は20年程の間に4割近くが減少しています。
国民が家を買わなくなっているわけですね。
公共事業や企業の設備投資も大幅なマイナスと言えます。
政府の緊縮財政が取り沙汰されていますが、家計も企業も投資を増やさなくなった事が良くわかるのではないでしょうか。
6. GDP支出面の特徴
今回は日本、アメリカ、ドイツのGDP支出面の詳細について眺めてみました。
アメリカもドイツも各支出項目が右肩上がりで成長しているのに対して、日本は停滞気味ですが支出項目それぞれで特徴があるようです。
家計最終消費支出は横ばいが続いています。
政府最終消費支出は近年やや緩やかながらも右肩上がりの成長を続けています。
総資本形成は一時期から減少して、アップダウンを繰り返しながらも停滞傾向が続いています。
本来資本主義経済は、投資により付加価値や生産性を向上し、経済を発展させるものだと思います。
総資本形成はまさにこの投資に当たる支出ですね。
それが、日本では家計も企業も政府も投資を増やさなくなった、という事が言えるのではないでしょうか。
もちろん、家計からすれば収入が減る中で家を買うのはハードルが高いですし、政府からすれば税収が減る中で公共事業を増やせないし、企業からすれば景気が悪い中で、国内での設備投資は増やせないという事情を抱えているのは理解できます。
一方で企業は、海外への投資は増やしています。
参考記事: 日本型グローバリズムの特徴
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