192 日本企業は過剰投資だった? - その他の建物・構築物の国際比較
オフィスビルや工場、施設など企業の固定資産のうち、その他の建物・構築物の水準について、国際比較してみます。
目 次
1. 日本企業のその他の建物・構築物
前回は、企業の固定資産のうち機械設備についてフォーカスしてみました。
日本企業は1990年代に非常に高い水準で機械設備の投資を行っていて、その後停滞と共に現在は他国並みにまで落ち着いている状況です。
OECDのデータでは、固定資産は以下の4つに分類されます。
住宅(Dwelling)
機械・設備(Machinery and equipment and weapon system)
その他の建物・構築物(Other Buildings other than dwellings)
知的財産生産物(Intellectual property product)
今回はこの中で最大項目となるその他の建物・構築物についてフォーカスしてみましょう。
企業におけるその他の建物・構築物は、オフィスビルや、工場、研究施設などが考えられると思います。
また、本業以外にも不動産投資の一環として運用している分も含まれているかもしれません。
まずは、日本の状況から確認してみましょう。
図1 固定資産 その他の建物・構築物 企業 日本
(OECD統計データより)
図1が、日本企業の固定資産のうちその他の建物・構築物の推移です。
合計としてはやや上昇傾向が続いているようです。
このうち、住宅以外の建物は150~170兆円程度で横ばい傾向です。
一方で、その他の構築物はやや増加してます。
住宅以外の建物は、学校、病院、ホテル、工場、商業用建物が含まれます。
その他の構築物は、道路や橋、堤 防、ダム等の社会資本(インフラ)のほか、鉄道軌道施設、発電施設、電気通信施設などを含むそうです。
(内閣府 2008SNA に対応した我が国 国民経済計算について より)
実は日本企業の固定資産のうち、このその他の構築物はかなり高い割合となります。
日本は38%ですが、ドイツは11%、フランス21%、イギリス16%、アメリカ11%、イタリア20%です。
カナダが49%、ノルウェーが41%と日本を上回る国もありますが、日本の割合がかなり高い事が特徴的ですね。
2. 企業のその他の建物・構築物の推移
続いて、各国のドル換算値での推移を確認してみましょう。
図2 企業 固定資産 その他の建物・構築物 推移
(OECD統計データより)
図2は企業のその他の建物・構築物の推移となります。
これまでの傾向と同様に、日本は1990年代中頃にかけて成長し、その後横ばいという推移となります。
その他の建物・構築物については、人口が約3倍のアメリカを一時は上回るほどの高水準だった事になります。
3. 企業のその他の建物・構築物の増加度合
それでは、企業所有のその他の建物・構築物の成長率についても確認してみましょう。
図3 企業 固定資産 その他の建物・構築物
(OECD統計データより)
図3が企業のその他の建物・構築物の倍率を表したグラフです。
1995年を1.0としています。
日本は他の項目同様に、ほぼ横ばいである事がわかります。
一方で、ドイツ、フランス等他の先進国は全て右肩上がりで成長しています。
ドイツで1.7倍、フランスで2.2倍、イギリス、アメリカで3.2倍、カナダで4.0倍、韓国に至っては7.5倍の水準ですね。
他国は少しずつ増加しているわけですが、日本だけは横ばいです。
固定資産は通常減価(固定資本減耗)していくものですから、日本の場合は新規に設備する分と、既設の施設の減価分がちょうど釣り合うくらいの投資しか行われていないと解釈する事ができると思います。
4. 企業の1人あたりその他の建物・構築物の推移
それでは、企業のその他の建物・構築物について1人あたりの水準を見てみましょう。
図4 企業 固定資産 その他の建物・構築物 1人あたり
(OECD統計データより)
図4は企業のその他の建物・構築物を人口1人あたりに換算したグラフです。
日本は1990年代中頃に極めて高水準で、アメリカの3倍近くに達している事がわかります。
その後停滞と共に、他国に追いつかれつつあり、現在はアメリカや韓国とほぼ同水準に落ち着いていますね。
韓国やアメリカは上昇傾向が続いていますが、その他の主要国はリーマンショック後に停滞気味のようです。
日本企業は確かに設備投資を増やさなくなりましたが、少なくとも金額的に見れば他国に対して相対的に高い水準の投資の蓄積があった事がわかります。
5. 企業の1人あたりその他の建物・構築物の国際比較:1997年
1人あたりの企業のその他の建物・構築物が具体的にどの程度の水準なのか、比較してみましょう。
まずは、日本経済のピークとなった1997年の状況です。
図5 企業 固定資産 その他の建物・構築物1人あたり 1997年
(OECD統計データより)
図5が1997年の状況を、水準が高い国順に並べたグラフです。
日本は26,840ドルと、ノルウェーに次いで2番目の高水準でした。
ドイツやアメリカとも2倍近くの差をつけていますね。
この当時日本の機械・設備は1人あたり12,553ドルでした。
参考記事:日本の設備投資は少ない?
企業の固定資産を考えるうえでは、機械・設備よりもその他の建物・構築物の方がボリュームが大きいという事にもなりますね。
確かに製造・設備などよりも、その工場や研究施設の建造費の方が高くつくと考えれば、納得感もあります。
もちろん、不動産投資の一環としての保有分もあるかもしれません。
当時の日本企業の固定資産は1人あたり47,972ドルでした。
参考記事: 実は多い日本企業の固定資産
固定資産の半分以上を施設などのその他の建物・構築物が占める事になりますね。
6. 企業の1人あたりその他の建物・構築物の国際比較:2018年
図6 企業 固定資産 その他の建物・構築物 1人あたり 2018年
(OECD統計データより)
図6が2018年のグラフです。
日本は32,737ドルで、韓国(33,394ドル)、アメリカ(33,055ドル)とほぼ同水準となっています。
OECD30か国中8番目の水準ですね。
工業立国ドイツは24,902ドルで日本やアメリカよりは1段低い水準であることも特徴的です。
ドイツは他の項目でもそうなのですが、固定資産への投資は着実にゆっくりと増やしている印象を受けます。
イギリス、イタリア、フランスなどはかなり低い水準であることも特徴的ですね。
特にイギリスやフランスは製造業からの脱却が進んでいる国々ですので、必然的に企業の施設の水準は低めになっているのかもしれません。
7. 企業のその他の建物・構築物の特徴
今回は、企業の固定資産のうちその他の建物・構築物についてご紹介しました。
日本はその他の建物・構築物は停滞気味ではありますが、相対的に見ればかなり高い水準が続いてきたことになります。
近年ではアメリカや韓国に並ばれていますが、先進国の中では高い水準が維持されています。
日本経済が停滞する中で、最も変化しているのが企業ですね。
その企業が何故変化したのか、実はこの辺りにヒントがあるような気がします。
今までの統計で見てきた通り、日本企業は1990年のバブル崩壊で変質が始まったように思います。
設備投資が減り、労働者の給与総額やGDPが横ばい傾向へと変化しました。
今回わかったのは、バブル期~バブル崩壊後の2000年あたりまでに、企業の設備や施設が他国と比較して極端な水準にまで高まっていたように見受けられることです。
この時期はプラザ合意からの円高も相まって、物価比率の高かった時期と重なります。
当時に大きく投資を増やし、その後は横ばい傾向が続いている事で、国際的に見れば高止まりしていたような推移となっていますね。
国際的には割高な建物や施設を抱え、それを少しずつ更新しながら、一定水準に保ってきた事が窺えます。
近年になり、極端な水準ではなくなってきている事から、更なる投資余地なども拡がっている事も予想されますね。
今後は企業の国内向けの投資も増えてくる可能性も高いのではないでしょうか。
リーマンショック以降は様々な指標が増加傾向を続けている事でもそれが窺えます。
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