190 実は多い日本企業の固定資産 - 残高の国際比較

日本の企業は国内での事業投資が増えていません。その蓄積(ストック)となる固定資産残高も停滞傾向ですが、国際比較により日本企業の固定資産の水準を可視化してみます。

1. 固定資産とは

前回は、企業の株式についてフォーカスしてみました。
統計上は、株式は負債側に計上される項目ですが、実際には企業の株主側の所有権である株主資本を表すものになります。
日本は株式はそれなりに増加していますが、成長率で見ると他国と比べて低水準であることもわかりました。

企業所有の国際化が進む中で、確かに日本の上場企業の株式では海外の所有する割合が増えています。
しかし他国の水準と比較すると、1人あたりの株式で見ても、日本経済の絶頂期と言える1997年でも直近でも、先進国で中位程度の水準に留まる事がわかります。

この数回ほどは、企業の金融資産や負債といったお金の面に着目してきました。
企業は負債を増やして、事業投資を行い、結果的に施設や機械設備などの固定資産を増やして、生産力や付加価値を増加させる存在ですね。
企業の負債を増やす裏側には、固定資産の増加も観測されるはずです。

今回からは企業の固定資産について着目していきたいと思います。

OECDの統計データでは、経済主体のストック面は金融資産負債非金融資産に分けられます。
そして、非金融資産は更に生産資産非生産資産に分かれます。

生産資産は更に固定資産と在庫に分かれます。
基本的に在庫は僅少ですので生産資産≒固定資産です。
非生産資産は土地や資源等です。

企業として特に重要なのは固定資産ですね。
この中に、機械・設備、その他の建物・構築物、住宅、知的財産生産物などが含まれます。

2. 日本企業の固定資産

まずは日本企業の固定資産の推移から眺めてみましょう。

固定資産 非金融法人企業 日本

図1 固定資産 非金融法人企業 日本
(OECD統計データより)

図1が日本の企業の固定資産の推移です。

企業の固定資産は全体としてやや停滞気味ですが増えていて、2020年の段階では約900兆円程となります。

住宅、機械・設備は1990年代からほぼ横ばいで推移しています。
その他の建物・構築物と知的財産生産物は1990年代からするとやや増加しているようですね。

投資と減耗の差引となりますが、少しずつ固定資産が蓄積されている状況と言えます。

3. 企業の固定資産の推移

続いて、企業の固定資産についてドル換算値で国際比較してみましょう。

企業 固定資産

図2 企業 固定資産 推移
(OECD統計データより)

図2はOECD各国の企業固定資産の推移です。

非常に特徴的なのは、日本の企業の固定資産が1995年にアメリカを抜いて1位となっている点ですね。
人口で約3倍の差があるわけですが、それでも日本企業の総固定資産がアメリカを抜いているという高水準だった事になります。

もちろんこの年は円高(94円/ドル)の年で、ドル換算の際の為替の影響も大きかったはずです。

しかし、それ以降はジグザグしながらも横ばいの推移です。

4. 企業の固定資産の増加度合

それでは、企業の固定資産は近年増えるものなのかどうか、成長率でも評価してみましょう。

企業 固定資産

図3 企業 固定資産 成長率

図3は1995年を基準(1.0)とした固定資産倍率を表します。
各国の通貨ベースの数値ですので、データへの為替の影響はありません。

日本はほぼ横ばいがつづき、直近では1995年の水準に対して1.1倍とほとんど変わりません。
他の主要国は、ドイツ1.8倍、フランス2.4倍、イギリス2.7倍、アメリカ3.0倍、韓国7.0倍(!)などかなりの水準で成長している事がわかります。

企業の固定資産は増えていくのが当たり前の状況の中で、日本の企業だけが停滞気味という事になりますね。

5. 企業の1人あたり固定資産の推移

総額だけでなく、人口1人あたりの数値で比較すると、その水準の高低をより的確に比較できると思います。

企業 固定資産 1人あたり

図4 企業 固定資産 1人あたり 推移

図4が人口1人あたり企業固定資産を表したグラフです。
非常に特徴的なグラフとなります。

1995年に日本はアメリカの約2.5倍という高水準となり、その後停滞しています。
2020年にはアメリカやドイツ、韓国などに追いつかれ同じような水準になっています。

フランスやカナダ、イギリスなどとの差も縮まっていますね。

意外なことに、企業の固定資産は増えていませんが、他国に対して相対的に(金額で見れば)多い状況が続いていた事になります。

6. 企業の1人あたり固定資産の国際比較:1997年

それでは、1人あたり固定資産額が多いのか、少ないのか、具体的に比較をしてみましょう。

まずは日本の経済絶頂期の頃の比較です。

企業 固定資産 1人あたり 1997年

図5 企業 固定資産 1人あたり 1997年

図5が日本経済の絶頂期であった1997年のグラフです。
日本は47,972ドルで、統計データのあるOECD20か国中ノルウェーを凌いで第一位の高水準であった事になります。

G7では次いで34,296ドルのドイツで6位、26,473ドルのアメリカで12位です。

日本企業は当時、金額で見れば極めて高い水準の固定資産を持っていたことになります。

7. 企業の1人あたり固定資産の国際比較:2018年

企業 固定資産 1人あたり 2018年

図6 企業 固定資産 1人あたり 2018年

図6が2018年のグラフです。

日本は59,038ドルで実はまだドイツ(58,212ドル)やアメリカ(57,484ドル)をやや上回っている水準ですね。
30か国中で8位です。

1人あたりGDPや平均所得、労働生産性などのフロー面では、36か国中20位前後と既に下位グループに属する日本ですが、家計の金融資産や企業の固定資産などストック面ではまだ高い水準をキープしている状況です。

8. 企業の固定資産の特徴

日本は投資も含めたフロー面が停滞しているわけですから、ストック面でも他国に追い抜かれつつあります。
このようなフロー面での停滞が、徐々にストック面での立ち位置の低下にも影響し始めている事は認識しておいた方が良いように思います。

特に日本は、経済のエンジンとも呼べる企業が変質しています。
付加価値向上のための事業投資をしていれば、負債固定資産が増えるはずなのですが、日本だけどちらも停滞しています。
そして消費者でもある労働者の所得が低下し、さらに経済が停滞するという自己実現的な経済停滞が続いていますね。

一方で、金額で見た場合の企業の投資や固定資産は、相対的に高い水準が続いていた事になります。
それにもかかわらず、労働生産性はそれほど高まらなかったというところにむしろ問題点が潜んでいるのかもしれませんね。

企業の負債と投資の関係は、日本経済の状況を端的に表すバロメーターと言えそうです。

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