204 雇用者の付加価値と分配 - 生産性・給与・分配率
企業に雇用されている雇用者について、生産性と分配である雇用者報酬の水準を国際比較し、その関係性を散布図で可視化してみます。
目 次
1. 雇用者1人あたり付加価値と雇用者報酬
前回は主要先進国の産業ごとの平均給与(雇用者1人あたり雇用者報酬)についてご紹介しました。
各国で共通する傾向も多い一方で、専門サービス業の給与水準の高いアメリカ、金融保険業が高いイギリスなどの特徴も確認できました。
今回は、労働者の稼ぐ付加価値と給与水準の関係についてもう少し詳しく見てみたいと思います。
以前ご紹介した労働者1人あたり付加価値は、GDPを労働者数で割ったものです。
労働者(Total employment)は、個人事業主(Self-employed)と雇用者(Employees)を合わせたものです。
GDPには個人事業主である家計の営業余剰・混合所得が含まれます。
この中にはさらに持家の帰属家賃も含まれますね。
一方で、雇用者報酬は、労働者から個人事業主を差し引いた雇用者に支払われた対価です。
直接支払われた賃金・俸給(Wages and salaries)に加え、雇主の社会負担(Contribution of employers)が含まれます。
雇用者が稼いだ付加価値は、GDPから家計の営業余剰・混合所得を差し引いたものと考えられます。
ここでは、雇用者が稼いだ付加価値を雇用者数で割った1人あたりの数値を、雇用者1人あたり付加価値と呼びます。
雇用者1人あたり付加価値 = ( GDP - 家計 営業余剰・混合所得 ) ÷ 雇用者数
この雇用者の稼いだ付加価値に対する雇用者報酬が、労働分配率に相当すると考えられますね。
まずは、この雇用者1人あたりの付加価値と雇用者報酬の関係について、日本のデータから確認してみましょう。
図1 雇用者1人あたり付加価値・雇用者報酬
(OECD統計データより)
図1が日本の雇用者1人あたり付加価値と、雇用者1人あたり雇用者報酬の推移です。
どちらも1997年にピークとなった後、減少傾向が続き、2010年ころからやや上昇するも2021年ではまだピーク値を超えられていません。
2021年の数値では、雇用者1人あたり付加価値は819万円、雇用者1人あたり雇用者報酬は477万円です。
雇用者1人あたり付加価値に対する、雇用者1人あたり雇用者報酬の割合が労働分配率に相当すると考えられますが、概ね57~60%の間で推移しているようです。
2. 雇用者1人あたり付加価値の推移
雇用者1人あたり付加価値の国際比較をしてみましょう。
図2 雇用者1人あたり付加価値 名目 為替レート換算
(OECD統計データより)
図2が主要先進国の雇用者1人あたり付加価値の推移です。
名目での為替レート換算値としています。
日本(青)は1990年代に高い水準となって以降、ドル換算値でも停滞傾向が続いています。
近年ではOECD平均値を下回り、主要先進国中で最下位となっています。
3. 雇用者1人あたり付加価値の国際比較
図3 雇用者1人あたり付加価値 名目 為替レート換算 2021年
(OECD統計データより)
図3は雇用者1人あたり付加価値について、2021年の国際比較です。
日本は74,631ドルで、OECD32か国中18番目、G7最下位でOECD平均値90,033ドルを大きく下回ります。
2022年の円安になる前で既にこの水準まで国際的な立ち位置が低下している事になりますね。
雇用者1人あたり付加価値
為替レート換算 2021年 単位:ドル
5位 136,063 アメリカ
13位 98,594 フランス
14位 95,026 イギリス
16位 92,209 ドイツ
17位 86,082 イタリア
18位 74,631 日本
平均 90,033
4. 雇用者1人あたり雇用者報酬の推移
続いて、雇用者1人あたり雇用者報酬です。
図4 雇用者1人あたり雇用者報酬 名目 為替レート換算
(OECD統計データより)
図4は雇用者1人あたり雇用者報酬の推移です。
他の指標と同様に、日本は1990年代に高い水準に達した後、停滞傾向が続く事で他の主要先進国に追い抜かれています。
近年ではイタリアと共に主要先進国で最も低い水準で、OECDの平均値程度となります。
5. 雇用者1人あたり雇用者報酬の国際比較
続いて2021年の水準で国際比較してみましょう。
図5 雇用者1人あたり雇用者報酬 名目 為替レート換算 2021年
(OECD統計データより)
図5が雇用者1人あたり雇用者報酬について、2021年の国際比較結果です。
日本は43,482ドルで、OECD32か国中17位、G7中最下位で、OECD平均値47,126ドルを下回ります。
雇用者1人あたり雇用者報酬
為替レート換算 2021年 単位:ドル
3位 86,661 アメリカ
12位 58,377 フランス
14位 56,663 イギリス
15位 55,171 ドイツ
16位 44,670 イタリア
17位 43,482 日本
平均 47,126
6. 付加価値の分配の推移
続いて、雇用者の稼ぐ付加価値に対する雇用者報酬の割合を見ていきましょう。
雇用者の労働分配率に相当する指標となります。
図6 雇用者付加価値に対する雇用者報酬の割合
(OECD統計データより)
図6が雇用者付加価値に対する雇用者報酬の割合です。
各国とも50~65%程度の幅で推移している事がわかりますね。
アメリカが65%前後と高めの水準、イタリアは50%前後で低めです。
日本は55~60%で推移していてイギリスと同程度、フランスやドイツよりやや低いようです。
OECDの平均値は上回っているので、殊更分配率が低いというわけではないようです。
7. 付加価値の分配の国際比較
図7 雇用者付加価値に対する雇用者報酬の割合 2021年
(OECD統計データより)
図7は雇用者付加価値に対する雇用者報酬の割合について、2021年の比較です。
先進国全体としても概ね45~65%の範囲内のようです。
日本は58.3%で、OECD32か国中8番目に高い水準となります。
8. 雇用者の付加価値と分配
最後に、雇用者1人あたり付加価値と雇用者1人あたり雇用者報酬の散布図で相関の具合を見てみましょう。
図8 雇用者1人あたり付加価値・雇用者報酬 2021年
(OECD統計データより)
図8が雇用者1人あたり付加価値(横軸)と、雇用者1人あたり雇用者報酬(縦軸)の各国の散布図です。
2021年の為替レート換算値で、バブルの大きさは雇用者数を表します。
各国がほぼ一直線上に並ぶような分布です。
緑色の線は雇用者付加価値:雇用者報酬 = 2:1となるような直線です。
つまり分配率が50%となるような線で、この線より上であれば分配率が50%以上であることを示します。
多くの国で緑の線上かやや上方に位置していますね。
日本は雇用者1人あたり付加価値でも、雇用者1人あたり雇用者報酬でもOECDの平均値を下回る位置です。
9. 雇用者の付加価値と分配の特徴
今回は、労働者のうち企業に雇用されている雇用者について、1人あたりの稼ぐ付加価値とその分配である雇用者報酬をご紹介しました。
雇用者に限定する事で、より実感値に近い比較となったと思います。
企業は付加価値でも雇用者報酬でも先進国の中ではやや少ない水準にまで立ち位置が変化しているようです。
今回はデータの出揃っている2021年までの比較でしたが、2022年は円安が進んだため、更に国際的な立ち位置が低下している可能性が考えられます。
分配率が他国と比較しても遜色ない事から、付加価値の分配が日本だけ企業側に偏っているというわけではないようです。
日本の企業は利益は増えていますが、付加価値は停滞気味ですね。
これは本業以外の稼ぎが増えていて、当期純利益を嵩上げしているためです。
消費者でもある労働者への賃金・給与は付加価値の分配なので、付加価値を増やしていく事の重要性が良くわかる統計結果と思います。
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