169 株式と為替の関係変化 - 円高・株高から円安・株高へ
日本企業は国内での事業投資を増やしていませんが、株高が進んでいます。かつては円高と株高が進んでいたのが、近年では円安と株高が連動する関係に変化しているようです。
1. 企業の資産と株式の関係
前回は、日本の貿易について考えてみました。
実は輸出も輸入も日本は極めて少ない国で、内需型の経済であることがわかりました。
日本は貿易よりも内需の強い国であるにも関わらず、ニュースなどでは円安になると輸出型企業の業績向上が見込まれ、株高になると言われてます。
実際に、為替と株式の関係はどのようになっているのでしょうか。
今回は、為替と株式、企業の資産についてフォーカスしてみたいと思います。
図1 企業の純資産・株式と為替 日本
図1が日本企業の純資産(赤)と株式総額(青)と為替レート(黒)を比較したグラフです。
純資産は法人企業統計調査、株式・GDPは国民経済計算と異なる統計データの出典ですので、参考程度のデータ比較になります。
国民経済計算などの統計では、企業の株式は負債側にカウントされます。
まずは企業の純資産と株式を見比べてみましょう。
企業の正味の価値=純資産に対して、所有者の持分=株式がどれだけ割高(割安)に評価されているか、という視点になります。
この統計の株式には、上場企業の株式と非上場の株式が含まれます。
バブル崩壊時(1990年)には、企業の純資産約200兆円に対して、株式総額が700兆円以上となっています。
正味の資産価値に対して、3倍以上の評価額がついていた事になりますね。
極めて過大に企業が評価されていたことがわかります。
その後、株式総額はアップダウンしますが、企業の純資産は上昇傾向が続いています。
2006年にも株式総額のピークがありますが、この時は純資産約350兆円に対して、株式総額約750兆円で2倍程度です。
バブル崩壊時程の乖離はありませんが、株価としてはかなり過大に評価されていたようです。
そして近年株式総額がまた急拡大していますが、純資産の増大と足並みの揃った増大であることがわかります。
2019年では、企業の純資産約750兆円に対して、株式総額800兆円程度です。
現在の株式の総額は、企業の資産価値に対しては、ある程度適正な範囲なようにも見えますね。
また、注意が必要なのは、企業の純資産には、金融資産として他企業の株式も含まれます。
企業の株式の価値が上がれば、自然と企業の純資産も上がる関係ですね。
このように、企業の株式総額と純資産には、ある程度連動して増大していく関係がある事がわかります。
一方で、今まで見てきた通り、企業の固定資産は増えていません。
日本の企業の場合は、金融資産ばかりが増えているという特殊な状況です。
2. 日本企業の資産・負債・純資産
日本企業の資産・負債・純資産についても確認してみましょう。
図2 日本の法人企業 全規模 資産・負債 詳細
図2は、法人企業統計調査による日本の法人企業の資産と負債の詳細項目です。
参考記事: 事業投資から金融・海外投資へ
このグラフをみて一目瞭然ですが、日本企業は資産も負債もほとんどの項目で横ばいです。
唯一右肩上がりに増大しているのが、資産側の有価証券 他ですね。
つまり、金融資産だけが右肩上がりに増大している状況です。
純資産は、資産と負債の差し引きですので、日本企業が純資産を増やしているのは、この金融資産による増大分がかなり大きいと見てよさそうですね。
資産側の有形固定資産が停滞し、有価証券等が急拡大を始めるのが1990年代後半です。
この中には、対外直接投資も多く含まれていますので、金融投資・海外投資が多いという事になりそうです。
また、図1には参考までにGDPも併記しておきました。
純資産はストックですが、GDPはフローですので、注意が必要です。
日本のGDPは1990年代後半から停滞していますが、企業の純資産は右肩上がりに増大していますね。
実はGDPの停滞し始めた1990年代後半から、日本企業の純資産が急増し始めます。
図2を見ると、この時がちょうど資産側の有価証券等が急拡大を始めるタイミングです。
そして、直近では日本の法人企業はGDPの1.5倍に相当する純資産を持っているという事になります。
3. 為替と株式の関係とは
次に、為替と株式の関係に着目してみましょう。
ここでの為替は円/ドルではなく、ドル/円となります。
どちらの方向が円高(円安)なのかわかるように右側に方向を書いておきました。
日本は2003年ころまでは、為替と株式は連動して推移している事がわかるのではないでしょうか。
当時までは円高→株高(円安→株安)と、現在一般的に言われているのとは逆方向ですね。
アップダウンのタイミングを見るとそれが良くわかります。
円高と並行して経済が拡大し、それに伴って株式総額も増大してきたというのがバブル崩壊までの日本経済の傾向ですね。
その後も2003年くらいまでは、為替と株式が連動しています。
2003年以降は、この関係が逆転し、現在よく言われるように円安→株高(円高→株安)となっています。
2003年あたりを起点に、為替と株式の関係が逆転しているのは、非常に興味深いと思います。
しかも、前回までに見てきた通り、この辺りから日本の製造業は現地生産化を急激に進めています。
輸出の割合が低いのに、為替と株式がこのような動きをするようになっている事にも影響していそうですね。
円安は輸出に有利と言われますが、海外資産が円建てで割高に加算されるという効果もあるように思います。
アメリカに100万ドルの金融資産を持っていたとしたら、100円/ドルであれば日本円で1億円の価値ですが、120円/ドルだと1.2億円になりますね。
このように、円安は輸出が割高となり輸出型産業が利益を出しやすいという面と、海外資産が割高に加算されるという効果が見込める事になります。
日本企業の株式・純資産と為替の関係も少し整理して考えてみると、国内経済の変化が見えてくる気がします。
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