351 労働生産性の国際比較 - 労働時間あたりGDP

1. 労働時間あたりGDP 1~50位

前回は、ILOのデータベースから、労働生産性の指標である労働者1人あたりGDP(実質、購買力平価換算値)について国際比較をしてみました。
日本は2023年で8万ドル程度で、世界187の国と地域中46番目の水準でした。
近年ではやや停滞傾向が続いていて、他の主要先進国や西欧諸国との差が開き、東欧諸国と同じくらいの水準となります。

所得水準の高い国は労働時間が短い傾向になり、パートタイム労働者の割合も多くなります。
労働者1人あたりよりも、労働時間あたりで見た生産性の方がより公正な評価となるという意見もあるようです。

今回は、ILOのデータベースから、労働生産性のもう1つの指標となる労働時間あたりGDPについて国際比較してみたいと思います。

早速、最新の2023年のデータについて、世界順位を確認してみましょう。

まずは1位から50位までです。

労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算値 2023年 1~50位

図1 労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算値 2023年
(ILOSTATより)

図1が2023年の各国の労働時間あたりGDPのうち、上位50か国の国際比較です。
実質GDPを総労働時間で割り、2017年の購買力平価でドル換算した数値となります。

日本は41.65ドルで、世界187の国と地域中47位です。
前回ご紹介した労働者1人あたりGDPが46位でしたので、労働時間あたりにすると1つ順位が下がる事になります。

上位はルクセンブルク(146.09ドル)、アイルランド(142.5ドル)、ノルウェー(92.58ドル)などお馴染みの国が並び、多くを西欧・北欧諸国が占めます。

労働者1人あたりGDPだと世界3位だったシンガポールは、労働時間あたりGDPでは73.77ドルで10位へと後退しています。
相対的にシンガポールは平均労働時間が長い事が考えられそうです。

一方で、労働者1人あたりGDPだと20位台だったドイツやフランス、イタリアは順位が上がっています。
ドイツ(68.14ドル)は15位、フランス(67.92ドル)は16位、イタリア(61.73ドル)は18位です。

西欧・北欧諸国は労働時間あたりの生産性が高く、平均労働時間が短いという特徴がありますね。

アメリカは69.66ドルでドイツ、フランスを上回りますが、労働者1人あたり程の差はありません。
順位も労働者1人あたりでは8位でしたが、労働時間あたりだと13位に後退します。

アジア地域でも台湾(57.05ドル)、香港(56.51ドル)、ブルネイ(49.48ドル)、韓国(41.98ドル)と日本を上回る国がいくつもあります。

2. 労働時間あたりGDP 51~100位

続いて、労働時間あたりGDPの51~100位です。

労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算値 2023年 51~100位

図2 労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算値 2023年 51~100位
(ILOSTATより)

図2が労働時間あたりGDPの51~100位のグラフです。

50位台に東欧諸国が並び、60位前後に中東・CIS諸国が固まっています。
ルーマニア(38.4ドル)やスロバキア(36.7ドル)、ポーランド(36.5ドル)などは日本(41.7ドル)と大分近い水準です。

BRICsのロシア(29.5ドル)は62位、ブラジル(16.9ドル)は95位です。
労働者1人あたりGDPでは95位だった中国は、100位以内にはランクインしていません。

アフリカ諸国や中南米の国々もこの範囲に多くランクインしています。

3. 労働時間あたりGDP 101~150位

続いて、101~150位です。

労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算値 2023年 101~150位

図3 労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算値 2023年 101~150位
(ILOSTATより)

図3が労働時間あたりGDPの101~150位です。

120位くらいまでに中南米の多くがランクインしていて、後はアジアとアフリカ諸おっくが多いようです。

中国(15.4ドル)は104位、インド(7.9ドル)は131位となります。

4. 労働時間あたりGDPの推移

続いて、主要国の労働時間あたりGDPについて、時系列的な推移を眺めてみましょう。

労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算値

図2 労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算値
(ILOSTATより)

図2が主要先進国、韓国、BRICsの労働時間あたりGDPの推移です。
2005年からのデータとなりますが、停滞する国と上昇している国とが明確にわかりますね。

日本は少しずつ上昇していますが、他の国ほどではありません。
他の主要先進国と比較すると、以前からかなり低い水準だったことになります。
韓国の上昇傾向が強く、2022年から日本を上回っています。

中国やインドも上昇していますが、日本との差はまだ大きそうですね。

イタリアはかなり高い水準ですが、近年では横ばい傾向が続いていて、ドイツやフランスとは差が開いているようです。

台湾は2005年では日本を下回っていましたが、2013年に日本を抜き、2023年にはカナダを上回っています。

トルコとルーマニアは2005年の段階では日本の半分近くでしたが、2023年にはかなり近い水準にまで上昇しています。
ただし、トルコは労働者1人あたりGDPでは近年日本を上回りますが、労働時間あたりGDPではまだ超えていません。
平均労働時間がトルコの方が長い事が推測されますね。

3. 労働時間あたりGDPの特徴

今回は、ILOのデータから、労働生産性の指標である労働時間あたりGDPについてご紹介しました。

日本は労働時間あたりで見ても、残念ながら先進国の中ではかなり低い水準となります。

187の国と地域の中では47番目と上位にある事は確かですが、2005年時点では41位でしたのでじりじりと国際的な順位が低下している事になります。

購買力平価で換算すると、各国の物価水準を揃えた上で、数量的=実質的な数値を比較する事になります。
つまり、物的労働生産性を推測し国際比較している事になるわけです。

「安いものに大量に囲まれた国」で物的生産性も高いように見える日本ですが、計算結果としては今回のような数値と順位になります。

豊かさや生産性とは何なのか、購買力平価とは何かを改めて考える良いきっかけになれば幸いです。

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