350 労働生産性の国際比較 - 労働者1人あたりGDP
国際労働機関(ILO)の統計データから、世界各国の労働生産性について国際比較してみます。
目 次
1. ILOとは
前回までは、IMFの統計データから、1人あたりGDPの国際比較をしてみました。
日本は欧米を中心とした先進国の中ではかなり低い水準となりますが、世界の中ではまだ上位40位以内に入っているようです。
相対的な順位は低下していますので、今後の推移が気になるところですね。
今回から、国際労働機関(ILO: International Labour Organization)の公開している労働生産性の国際比較をしていきたいと思います。
ILOのウェブサイトによれば、ILOとは次のような機関になるようです。
「国際労働機関 (ILO) は、社会正義と国際的に認められた人権および労働者の権利の促進に尽力しており、社会正義は普遍的かつ永続的な平和に不可欠であるという設立当初の使命を追求しています。 唯一の三者構成の国連機関である ILO は、1919 年以来、187 の加盟国の政府、雇用主、労働者を結集し、労働基準を設定し、すべての女性と男性に適切な労働を促進する政策を策定し、プログラムを考案しています。」
ILOの統計サイト(ILOSTAT)では、賃金や生産性、労働時間、格差に関する世界各国のデータが公開されています。
今回は、この中から労働生産性(Labor productivity)の国際比較をご紹介します。
2. 労働者1人あたりGDP 1~50位
ILOで公表される労働生産性には、労働者1人あたりGDP(Output per worker)と、労働時間あたりGDP(Output per hour worked)の2種類が公開されています。
公開されている数値は実質の購買力平価換算値(GDP constant 2017 international $ at PPP)です。
分母となるGDPは実質値で、2017年の購買力平価でドル換算した数値という意味になると思います。
ILOを始め、IMF、OECD、世界銀行、国連などの国際機関では、購買力平価によるドル換算値が主流となっているようです。
まずは、2023年の労働者1人あたりGDPの国際比較から見てみましょう。
普段はOECDのデータばかりご紹介していますので、OECDに含まれない中東諸国やシンガポール、香港などの高所得国がどのような順位なのかも気になります。
まずは上位の1~50位です。
図1 労働者1人あたりGDP 実質 購買力平価換算値 2023年 1~50位
(ILOSTATより)
図1が2023年の労働者1人あたりGDPのうち、上位50か国の国際比較です。
G7各国に加えて、地域ごとに色分けしてあります。
欧州:青、アジア・大洋州:橙、中東・CIS:黄、中南米:緑、アフリカ:ピンク
上位はやはり欧州諸国が多いですが、アジア・大洋州、中東諸国でも多くの国がランクインしています。
特にシンガポールは17.3万ドルと世界3位の労働生産性となっています。
アジア圏ではマカオ(14.2万ドル)、香港(12.3万ドル)、ブルネイ(12.0万ドル)、台湾(11.1万ドル)などが高い水準で、韓国(8.3万ドル)、日本(8.0万ドル)が続きます。
産油国としても知られるカタール(13.2万ドル)、サウジアラビア(11.4万ドル)、UAE(11.3万ドル)もかなり高い水準です。
主要先進国ではやはりアメリカの水準が高く、13.1万ドルで世界8位です。
イタリア(10.9万ドル)が21位、フランス(10.9万ドル)が22位、ドイツ(10.5万ドル)が25位、カナダ(9.5万ドル)が32位です。
日本は46位となり、スロベニア、チェコなどの東欧諸国やギリシャ、ニュージーランドなども下回り、クロアチア、ルーマニア、ポルトガルと同じくらいの水準となります。
世界187の国と地域の中で46位ですので上位と呼べる順位ではありますが、1991年で37位だったことと比べると国際的な順位は低下している事になります。
3. 労働者1人あたりGDP 51~100位
続いて、51~100の順位です。
図2 労働者1人あたりGDP 実質 購買力平価換算値 2023年 51~100位
(ILOSTATより)
図2が労働者1人あたりGDPの51~100位のグラフです。
欧州(主に東欧・南欧)、中南米、アフリカとバランスよく含まれている印象ですね。
50~60位台は東欧・南欧諸国が目立ちます。
アジア地域では所得水準の高い国に次いで60位にマレーシアが入りますが、後はモルディブ、中国、フィジーなどが入る程度で、このあたりの順位ではあまり多くは含まれないようです。
アフリカ諸国も比較的多い事がわかります。
BRICsとして注目されるロシア(5.8万ドル)は62位、中国(3.6万ドル)は95位、ブラジル(3.3万ドル)は99位です。
日本とはまだ差がありますが、特にロシアはかなり近い水準と言っても良い位置ですね。
4. 労働者1人あたりGDP 101~150位
続いて、101~150位のグラフです。
図3 労働者1人あたりGDP 実質 購買力平価換算値 2023年 101~150位
(ILOSTATより)
図3が労働者1人あたりGDPの101~150位のグラフです。
101~120位くらいまでに中南米の国々が多く含まれています。
タイ(3.2万ドル)、モンゴル(3.3万ドル)、インドネシア(2.6万ドル)もこのあたりの順位ですね。
120位以降はアジア地域とアフリカ地域が多いようです。
インド(1.9万ドル)は126位となります。
5. 労働者1人あたりGDPの推移
続いて、主要国の労働者1人あたりGDPの推移についても見てみましょう。
図2 労働者1人あたりGDP 実質 購買力平価換算値
(ILOSTATより)
図2が主要先進国と韓国、BRICs他の労働者1人あたりGDPの推移です。
1991年の時点では日本(青)はイギリスとほとんど変わらない水準でしたが、徐々に差が開いていて2023年では2割近くの差があります。
他国と比べると停滞傾向が強く、近年では他の主要先進国とも大きく差が開いている状況です。
イタリアは2000年頃からやや低下しているのが印象的ですね。
ロシア、中国、インドも上昇傾向が続いていますが、日本との差はまだ大きいようです。
ブラジルは横ばい傾向が続いているようです。
韓国は大きく上昇していて、2019年からは日本を上回ります。
それ以外にも、特徴的な国々を追加しています。
イスラエルは1991年の時点では日本とほぼ同じ水準でした。
それが1996年頃には日本を上回り、2023年にはイタリアやフランスを超えています。
台湾、トルコは1991年の時点では日本を大きく下回る水準でした。
その後の上昇傾向は大きく、台湾は2007年、トルコは2019年に日本を上回っています。
ルーマニアも1991年の時点では日本を大きく下回っていましたが、2023年にはかなり肉薄しています。
日本は徐々に国際的にも劣後しつつある状況と言えそうです。
6. 労働者1人あたりGDPの特徴
今回は、ILOの統計データから労働生産性の指標である労働者1人あたりGDPの国際比較をご紹介しました。
普段OECDの統計で、欧米諸国のデータばかりをご紹介していますが、シンガポールや台湾、香港、ブルネイなどアジア圏でも日本や欧州諸国よりも労働生産性が高い国が存在するようです。
アジア地域では労働生産性の高い国々と、100位以下の比較的低い国で分かれているような特徴もありそうです。
更に、中東諸国でも主に産油国においては労働生産性の高い国が多いようです。
ガイアナやプエルトリコなど、中南米で労働生産性の高い国などもあり大変興味深い統計データと思います。
日本の順位は世界でも高い方にはなりますが、46位と東欧諸国と同じくらいの水準です。
1990年代には低い水準だった国々にも大きく追い上げられている状況のようです。
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