354 労働生産性の国際比較 - 中東・CIS
1. 労働者1人あたりGDPの国際比較
前回は、東欧・南欧諸国の労働生産性(労働者1人あたりGDP、労働時間あたりGDP)についてご紹介しました。
南欧諸国はイタリア、スペイン、ギリシャなど2000年代から停滞傾向の国が多い一方で、東欧諸国は上昇傾向が続き、近年では多くの国が日本を上回るようになっています。
今回は、普段のOECDの統計データでは範囲外となる中東、CIS諸国の労働生産性についてご紹介します。
CIS諸国は外務省の区分では欧州に分類されますが、地域的に近くJETROの統計調査で個別で区分される事と、欧州の国が多くなりすぎるため、今回は中東諸国と同じ区分として扱いました。
CISの区分については、以下の外務省のサイトが参考になります。
中央アジア・コーカサス等の地域機構・枠組
まずは、各国の2023年の労働者1人あたりGDPから国際比較してみましょう。
図1 労働者1人あたりGDP 実質 購買力平価換算値 中東・CIS 2023年
(ILOSTATより)
図1が中東、CIS諸国の2023年の労働者1人あたりGDPの比較です。
実質の購買力平価換算値となっています。
カタール(13.2万ドル)を始めサウジアラビア(11.4万ドル)、アラブ首長国連邦(11.3万ドル)、バーレーン(9.3万ドル)など産油国の多くで非常に高い水準に達している事になります。
これらの国々は、西欧諸国と匹敵する水準です。
イスラエル(10.6万ドル)やトルコ(9.2万ドル)も日本を上回り、オマーン(7.2万ドル)も日本に近い水準となっています。
一方で、ロシア(5.8万ドル)、イラン(5.3万ドル)、イラク(4.0万ドル)などはまだ日本との差も大きいようです。
ウズベキスタン(2.3万ドル)、モルドバ(1.7万ドル)などのCIS諸国や、イエメン、シリアなどはかなり低い水準で、地域での差が大きい事も特徴的です。
2. 労働者1人あたりGDPの推移
つづいて、中東・CIS諸国の代表的な国々の労働者1人あたりGDPについて推移を眺めてみましょう。
図2 労働者1人あたりGDP 実質 購買力平価換算値 中東・CIS
(ILOSTATより)
図2が中東・CIS諸国の労働者1人あたりGDPの推移です。
カタール、アラブ首長国連邦、オマーン、サウジアラビアなど、産油国で非常に特徴的な推移をしているのが良くわかりますね。
特にアラブ首長国連邦の変化が激しく、1991年の時点で20万ドル近くもの高水準だったのが20010年にかけて8万ドル近くにまで下落し、その後少しずつ上昇しています。
サウジアラビアやオマーンも同様に一時期よりも下落していて、カタールはアップダウンが激しい状況ですね。
一方で、トルコやイスラエルは順調に上昇している様子が見て取れます。
イスラエルは1991年の時点では日本とほぼ同じ水準でしたが、2023年には3割ほど上回るようです。
トルコは1991年の時点では4万ドルを下回り、日本よりもかなり低い水準でしたが、2019年に日本を超え、2023年には1割以上の差が開いています。
その他の国も基本的には上昇傾向ですが、イランは横ばい傾向が強く、レバノンは近年減少気味など、国によって傾向が異なるのが印象的ですね。
西欧・北欧諸国が足並みをそろえて一定範囲内で上昇していたのとは随分と異なります。
3. 労働時間あたりGDPの国際比較
つづいて、もう1つの労働生産性の指標となる労働時間あたりGDPについての国際比較もしてみましょう。
図3 労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算値 中東・CIS 2023年
(ILOSTATより)
図3が労働時間あたりGDP(実質 購買力平価換算値)の国際比較です。
労働者1人あたりGDPと比較すると、アメリカや日本との相対的な水準がやや低くなるようです。
欧州諸国とは逆の傾向で、平均労働時間が長い事が推測されますね。
労働時間あたりGDPではサウジアラビア(53.2ドル)やカタール(52.6ドル)、アラブ首長国連邦(41.7ドル)を抜いてイスラエル(57.3ドル)の水準が高い事になります。
日本よりも水準が高いのがイスラエル、サウジアラビア、カタール、バーレーンの4か国だけとなり、労働者1人あたりGDPでは7か国が上回っていたのと比べると随分と数が減ります。
トルコ(40.4ドル)も労働時間あたりGDPでは日本を下回ります。
4. 労働時間あたりGDPの推移
最後に、中東・CIS諸国の労働時間あたりGDPの推移を眺めてみましょう。
図4 労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算値 中東・CIS
(ILOSTATより)
図4が中東・CIS諸国の労働時間あたりGDPの推移です。
イスラエルは2005年の段階で既に日本を上回っていて、2023年には大きく差が付いている状況ですね。
トルコは2005年では23ドル程度で日本よりも随分低い水準でしたが、近年では肉薄しています。
サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦、オマーンなどの産油国は、労働時間あたりGDPで見ても不安定な印象です。
一方で、ロシア、カザフスタン、トルクメニスタンなどは緩やかに上昇傾向が続いている印象で、日本との差も縮まっているようです。
5. 中東・CISの労働生産性の特徴
今回は中東・CIS諸国の労働生産性についてご紹介しました。
サウジアラビア、カタールなどの産油国は非常に高い労働生産性に達していますが、時系列で見ると不安定な印象です。
イスラエル、トルコなどは順調に生産性が向上していて、特に労働者1人あたりGDPでは両国とも日本を上回ります。
CIS諸国は日本との差もまだ大きいですが、少しずつその差は縮まっているようです。
ノルウェーもそうですが、やはり資源の豊富な国は労働生産性が高い傾向にありますね。
ただし、ロシア、イランなども資源国ではありますが、サウジアラビアなどと比べると大きく劣るようです。
購買力平価とは何かを考える良い題材のようにも思えますので、いずれこの違いをしっかりと分析してみたいと思います。
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