146 純金融資産と経済成長 - 西・南欧の金融資産・負債差額

所得水準の高いベルギーやオランダなどの西欧諸国と、スペインやギリシャなどの南欧諸国について、経済主体ごとの純金融資産(金融資産・負債差額)の推移を可視化し、国際比較してみます。

1. ベルギーの純金融資産

前回は、イタリア、フランスや北欧諸国の家計企業政府金融機関海外の主体ごとの純金融資産(Financial net worth: 金融資産・負債差額)を見る事で、金融バランスシート(Financial balance sheets)を可視化してみました。

とても重要な観点だと思いますので、その他のOECD諸国についても眺めていきましょう。ちょっとマニアックな内容が続きますが、もう少しお付き合いください。
今回は欧州諸国で比較的中堅規模の国々を見ていきたいと思います。

まずはベルギーからです。

純金融資産 ベルギー

図1 ベルギー 純金融資産 推移
(OECD統計データ より)

図1がベルギーのグラフです。
家計の純金融資産が増え続けている事がわかります。

企業と政府が同じくらいの水準に純金融負債を増やしています。
ドイツやフランスなどの主要先進国の状況と似ています。

海外が純金融負債を増やしていますので、海外への投資が超過している国ですね。

負債を増やす主体が、企業、政府、海外とバランスが取れているような印象です。

2. オーストリアの純金融資産

続いて、オーストリアの経済主体別純金融資産です。

純金融資産 オーストリア

図2 オーストリア 純金融資産 推移
(OECD 統計データ より)


図2がオーストリアのグラフです。
やはり、家計の純金融資産が増え続けています。
企業と政府が相応に負債を増やしているのもベルギーと共通しています。

2013年頃まで海外が純金融資産プラスでしたので、海外から投資されている国だったようですが、2017年頃からマイナスに転じています。
海外からの投資よりも、海外への投資の方が上回り始めているようです。

3. オランダの純金融資産

つづいて、オランダの経済主体別純金融資産です。

純金融資産 オランダ

図3 オランダ 純金融資産 推移
(OECD 統計データ より)


図3がオランダのグラフです。
家計の純金融資産が増大していますが、他の国々と様子が違いますね。

まず、企業の純金融負債が停滞しています。
この傾向は日本と似ています。

海外が純金融資産プラスから、2011年頃を境に急激にマイナスに転じています。
海外から投資が集まる国から、海外へ投資をする国に急速に変化したという事になります。

海外の純金融負債増大と家計の純金融資産増大が対称に近い形で推移しているのが興味深いですね。
日本と異なるのは政府の純金融負債が増えていない事です。

日本というよりも、ドイツに近い形と言えそうです。

4. ポルトガルの純金融資産

スペインやポルトガル、ギリシャなど南欧諸国についても見てみましょう。

まずはポルトガルからです。

純金融資産 ポルトガル

図4 ポルトガル 純金融資産 推移
(OECD 統計データ より)

図4がポルトガルのグラフです。

家計の純金融資産が緩やかながらも右肩上がりではあります。
ただし、企業の純金融負債がどちらもリーマンショックのあたりから停滞していますね。
企業の純金融負債が停滞するのは、日本の1998年以降の傾向に似ています。

日本と異なるのは、それまでの間企業の純金融負債は増大していたのですが、それに対応して増加していたのが海外の純金融資産です。

この両国は海外からの投資によって、企業が負債を増やしていたと見れそうですね。
ピークの年から、海外の純金融資産も停滞しています。

5. スペインの純金融資産

つづいて、スペインの経済主体別純金融資産です。

純金融資産 スペイン

図5 スペイン 純金融資産 推移
(OECD 統計データ より)


図5がスペインのグラフです。

ポルトガルとかなり傾向が似ています。

ポルトガルよりも企業の純金融負債の停滞の仕方が急激で、政府の純金融負債の伸びも大きいようです。

リーマンショックを機に海外の純金融資産の増え方も止まっています。

海外からの投資から、自国内で政府が負債を増やし、家計の純金融資産が増えるようなバランスへと変化したと考えられますね。

6. ギリシャの純金融資産

最後がギリシャです。

純金融資産 ギリシャ

図6 ギリシャ 純金融資産 推移
(OECD 統計データ より)


図6がギリシャのグラフです。

大分ギザギザした不思議な状態ですね。
細かく見ると、①~1999年、②1999~2002年、③2002~2007年、④2007~2011年、⑤2011年~と、傾向が切り替わっているように見えます。

全期間を通じて家計の純金融資産がアップダウンしながら、全体としては停滞している事が特徴的です。
企業の純金融負債も同様にアップダウンしながら全体としては停滞しています。

その代わり、海外の純金融資産と政府の純金融負債が増えています。

典型的な国(アメリカやカナダ、スウェーデンなど)では家計のプラスと企業のマイナスが対称的に増え続ける傾向ですが、ギリシャの場合はそれが海外のプラスと政府のマイナスとなっている点が大変興味深いです。

7. 西・南欧諸国の純金融資産の特徴

今回は所得水準の高い西欧諸国と、経済が変調していると言われる南欧諸国について、経済主体別の純金融資産をご紹介しました。

西欧諸国は、企業と政府が同程度純金融負債を増やしていて、ドイツやフランスに近い状況のようです。

西欧諸国は、海外からの投資で企業が純金融負債を増やしていましたが、リーマンショック以降大きく海外との関係が変化しているようです。

特にギリシャの変化が著しい事がグラフからも読み取れました。

純金融資産 日本

図7 日本 純金融資産推移
(OECD 統計データ より)

図7が日本のグラフです。

企業の純金融負債が停滞している点では、スペインやポルトガルと似ています。

スペイン、ポルトガル、ギリシャと異なるのは海外に対して純金融資産を持っているという点ですね。
これは主に企業の対外直接投資や政府・金融機関の対外証券投資によるものと考えられます。

現在のところ、日本にとって海外とはむしろ「投資をする対象」のようです。

ただし、日本は企業の純金融負債が目減りしていて、家計の純金融資産の増加も緩やかです。
かなり特殊な経済の形である事は確かなようです。

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