136 日本は先行投資しすぎたのか? - 総資本形成の国際比較

GDP支出面のうち、消費と共に規模の大きな投資(総資本形成)について国際比較してみます。

1. 総資本形成とは

前回は、公共投資とも関連の深いその他の建物・構築物の投資(総固定資本形成)について国際比較をしてみました。
住宅、機械・設備、その他の建物・構築物と順に見てきましたが、いずれも1990年代にピークとなってからは、停滞・縮小しています。

ただ、国際比較をしてみると、相対的に高い水準であった事もわかりました。
そこから停滞する事で、現在は他国と同じくらいの水準(その他の建物・構築物は高い方、住宅は低い方)にまで落ち込んでいるという事になります。

固定資産などへの投資総資本形成と言われます。

OECDの統計区分では、以下のように分類されます。
住宅 (Dwellings) - 主に家計
機械・設備 (Machinery and equipment and weapon system) - 主に企業
その他の建物・構築物 (Other buildings and structures) - 主に政府(公共投資)と企業(工場など)
農耕資源 (Cultivated biological resources)
知的財産生産物 (Intellectual property product)

これらの5つの項目と在庫を総合して、総資本形成(Gross capital formation)となっています。
消費(Consumption)に対して、投資という位置づけですね。
ここに土地は含まれない事はご注意ください。

今回は、総資本形成についての国際比較をしてみたいと思います。

2. 日本の総資本形成

まずは日本の総資本形成についての推移を見てみましょう。

日本 総資本形成

図1 日本 総資本形成
(OECD統計データより)

図1は日本の総資本形成について、それぞれの区分ごとの推移を表したグラフです。
知的財産生産物は2008年まで増加傾向が続いていますが、住宅やその他の建物・構築物は1990年代からは減少、機械・設備はアップダウンしながら横ばいか減少傾向といった状況です。

不動産や株式のバブル崩壊が1989~1991年頃ですが、これらの実物資産への投資は、その後も急激に減少するのではなく、高めの水準が続いていたのは興味深い推移です。

また、2012年頃から増加傾向になっているのも確認できますね。

3. 1人あたりの総資本形成の国際比較

続いて、人口1人あたりのドル換算値で各国の水準比較をしてみましょう。

総資本形成 1人あたり 2018年

図2 総資本形成 1人あたり 2018年
(OECD 統計データ より)

図2が1人あたりの総資本形成をドル換算(為替レート)したグラフです。

北欧諸国が軒並み上位に位置しますが、アメリカが13,255ドルで9番目と高い水準です。
カナダが10,779ドルで14番目、韓国が10,518ドルで15番目、ドイツが10,316ドルで16番目、フランスが9,942ドルで18番目と続き、日本が9,532ドルで19番目です。

日本はイギリス(7,695ドル)やイタリア(6,411ドル)よりは多いものの、全体としては中位グループでどちらかと言うと水準が小さい方に属するようです。

4. 1人あたりの総資本形成の推移

つづいて、1人あたりの総資本形成の推移を見てみましょう。

総資本形成 1人あたり

図3 総資本形成 1人あたり 推移
(OECD 統計データ より)

図3が主要国の1人あたりの総資本形成の推移となります。

バブル発生と言われる1985年から急激に増加し始め、1995年にピークとなり、減少→横ばいとなります。
興味深いのは、バブル崩壊後も増加が止まっていない点ですね。

自国通貨ベースでは図1にように1990年のバブル崩壊から1997年頃まで同じくらいの水準が継続しているのですが、為替レートが1990年以降も円高傾向が続いたことでこのようなグラフとなっています。
年平均の為替レートで見ると、1990年は144.8円/ドル、1995年は94.1円/ドルです。
1995年の為替レートは、円高傾向ではありますが、近年の水準である100~120円/ドル程度とそれほど変わらない点も重要な情報と思います。

1995年前後は日本の物価水準が極めて高かった時期ではありますが、この辺りで日本は非常に高い水準の投資を行っていた事がわかりますね。

まさに先行投資を行ったわけですが、その後は停滞が続き今に至るような状況です。
現在は、どちらかと言うと他国並みか若干少ない程度です。
2010年頃までの長期にわたり、他国と比較して相対的に高い水準の投資が続いてきたことになります。

5. 対GDP比の総資本形成の国際比較

次に金額だけでなく、GDPに占めるシェアでも比較してみましょう。

総資本形成 対GDP比 2017年

図4 総資本形成 対GDP比 2017年
(OECD 統計データ より)


図4が総資本形成 対GDP比の2017年のグラフです。
日本は総資本形成がGDPに占める割合が24.0%で、12番目の水準です。
金額としては、19番目でしたが、GDPに占めるシェアとしてはそれよりも順位が高いですね。
GDP全体が停滞する中で、金額としては削減されつつも、いまだ高い割合を占めているという事だと思います。

韓国が突出して高く、32.3%です。韓国の高度成長が投資によって支えられている側面がありそうですね。
カナダ、フランスは日本と近い水準ですが、ドイツ(20.9%)やアメリカ(20.6%)は少し割合が小さいですね。
ただし、図2のように、金額としては右肩上がりです。

アメリカは、家計の消費支出が大きいので、相対的に総資本形成が小さな割合となっているかもしれません。

6. 対GDP比の総資本形成の推移

つづいて、対GDP比の推移です。

総資本形成 対GDP比

図5 総資本形成 対GDP比 推移
(OECD 統計データ より)

図5が総資本形成 対GDP比推移グラフです。

やはり日本は1980年代~2000年代後半くらいまでかなり大きな割合だったことがわかります。
GDPの中で総資本形成が大きな割合を占め、相対的な投資水準が大きかったことが窺えます。
それが徐々に減少して、現在は25%弱で他の先進国よりやや大きいくらいの水準で推移しています。

一方で、そのほかの先進国は横ばいかやや減少傾向ですね。
ドイツ、イタリア、イギリスは減少傾向、アメリカ、フランス、カナダは横ばいといった印象です。
韓国は極めて高い水準をキープしています。

7. 日本の総資本形成の特徴

今回は社会への投資とも言える、総資本形成について国際比較をしてみました。
日本は特に総資本形成が大きかった1980年代~2000年代前半までが、国際的な物価(Price Level)も高まった時期と重なります。
特に1995年までは、プラザ合意を機に急激に円高が進んだ時期でもあります。

他国よりも先行して投資を行った事がわかりますが、一方でその時のモノは現在からみれば割高な時期に投資していた事にもなりそうです。

その後の経済停滞と共に、物価も総資本形成の水準も他の先進国並みまで落ち込んできました。
それらの変化と連動して、経済水準も全体的に30年近くに渡り停滞し、1990年代に比べれば労働者も低所得化しています。

1980年代からのバブル経済のツケを、バブル崩壊からの経済停滞によって払い続けてきたという見立てになるのかもしれません。

本業以外の収入源として企業などでも資産運用としての建物の建築などもあると思いますが、総資本形成による実物資産への投資は生産性の向上のために行われるものと思います。
それが、1990年代でも生産性がそれほど高まらなかったというのは、むしろ投資が多いのにそれをうまく付加価値に転換できていないという問題を抱えているのかもしれません。

労働時間あたりGDP

図6 労働時間あたりGDP 名目 為替レート換算
(OECD統計データより)

図6は労働時間あたりGDP(労働生産性)の為替レート換算値の推移です。
投資が極端に高まった1995年で見ると、日本の労働生産性は確かにアメリカを超えていて高い水準ですが、せいぜいドイツやフランスと同程度だったようです。

その後停滞傾向が続き、近年では他の主要先進国とは大きな差が開いています。

相対的に投資が多い状況が続いたにもかかわらず、生産性や付加価値の向上に結び付いていないように見受けられます。

ただし、多くの経済指標で2010年代から上昇傾向が見られます。
総資本形成のうち、機械・設備やその他の建物・構築物も近年は上昇傾向です

現在は他国と比べて、技術や産業のレベルからすると安い国になっている事も相まって、経済が好転していく転換期だと捉える事もできるかもしれませんね。

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