240 日本の社会支出は十分か? - 少ない「家族」への支出

現金給付や現物給付などの社会支出について、日本の状況を確認し、国際比較してみます。日本は少子高齢化の割に高齢への支出がそれほど多くなく、家族への支出が少ないという特徴がありそうです。

1. 社会支出とは

前回は、各国の所得格差(ジニ係数)や貧困率についてご紹介しました。
日本は先進国で再分配後の所得格差が比較的大きく、貧困率が高い国になります。
また、貧困の深さを表す貧困ギャップもかなり高く、極端に所得の低い層が多数存在する事になります。

本来税や給付などの再分配は、このような格差や貧困を是正するためにも必要となりますね。
今回は、再分配として支出される社会支出(Social Expenditure)についてフォーカスしてみたいと思います。

社会保障などの再分配は、高齢者への支援ばかりと考えられがちですが、困窮者への給付や、子育て世代への手当なども含まれます。
社会支出は大きく、お金としての給付である現金給付(Cash benefits)と、モノやサービスとしての現物給付(Benefits in kind)に分かれるそうです。
それらを金額に換算して合算したものが社会支出という理解になると思います。

社会支出は次の区分に分かれます。
高齢遺族障害・業務災害・傷病保健家族積極的労働市場政策失業住宅その他

区分現金給付現物給付
高齢
(Old age)
年金
(Pension)
早期退職年金
(Early retirement pension)
その他
介護・ホームヘルプサービス
(Residential care/Home-help services)
その他
遺族
(Survivors)
遺族年金
(Pension)
その他
埋葬費
(Funeral expenses)
その他
障害・業務災害・傷病
(Incapacity related)
障害年金
(Disability pensions)
年金(業務災害)
(Pensions(occupational injury and disease))
休業給付
(Paid sick leave)
その他
介護・ホームヘルプサービス
(Residential care/Home-help services)
機能回復支援
(Rehabilitation service)
その他
保健
(Health)
家族
(Family)
家族手当
(Family allowance)
出産・育児休業
(Maternity and parental leave)
その他
就学前教育・保育
(Early childhood education and care)
ホームヘルプ・施設
(Home help / Accommodation)
その他
積極的労働市場政策
(Active labor market programmes)
公的雇用サービス
(Public employment service and Administration)
訓練
(Training)
ジョブローテーション/ジョブシェアリング
(Job Rotation and Job sharing)
雇用奨励金
(Employment Incentives)
就労支援
(Supported Employment and Rehabilitation)
直接的雇用創出
(Direct Job Creation)
就労奨励金
(Start-up Incentives)
失業
(Unemployment)
失業給付・退職手当
(Unemployment compensation / severance pay)
労働市場自由による早期退職
(Early retirement for labour market reasons)
住宅
(Housing)
住宅扶助
(Housing assistance)
その他
その他
(Other special policy areas)
所得補助
(Income maintenance)
その他
社会扶助
(Social assistance)
その他

日本の生活保護は捕捉率が2割程度だったり、他国と比較して少ないなどと言う指摘もあるようですので、そのあたりとの関係性も見えてくるかもしれません。

2. 日本の社会支出

それでは、日本の社会支出に関するデータを見ていきましょう。

社会支出 日本

図1 社会支出 日本
(OECD統計データ より)

図1は日本社会支出の推移をグラフ化したものです。

社会支出は増加傾向が続き、直近では120兆円を超える規模となります。
1990年と比較して倍以上に増加しています。

その中で、ボリュームが大きいのが、高齢保健ですね。

遺族障害・業務災害・傷病家族も比較的規模が大きい社会支出になるようです。
いずれも2015年以降は微増です。

社会支出 対GDP比 日本

図2 社会支出 対GDP比 日本
(OECD統計データ より)

図2が社会支出の対GDP比をグラフ化したものです。
その時々の経済規模(GDP)に対する社会支出の割合となります。

やはり日本は高齢化に伴って高齢の割合が増えていますね。
保健の割合も増えています。

ただし、2010年あたりから横ばい傾向である事がわかります。

日本の社会支出は長期的には増加傾向ですが、近年ではやや停滞気味であることが言えそうですね。

3. 社会支出の国際比較

日本の社会支出の水準は、他国と比較するとどの程度のレベルなのでしょうか?
OECDのデータでは、各国の対GDP比の詳細データが公表されていますので、比較してみましょう。

社会支出 対GDP比 2017年

図3 社会支出 対GDP比 2017年
(OECD統計データ より)

図3はOECD38か国の社会支出について、総額の対GDP比が大きい順に並べたグラフです。
金額ではなく、あくまでも対GDP比である事にご注意ください。

最も社会支出が多いのは、フランスですが、イタリアやドイツ、アメリカも日本より水準が高いようです。
フランスは再分配前の所得格差が大きくや貧困率が高いのですが、再分配によりどちらも大きく改善されている国です。
それだけ社会支出が多いという事で、前回までの内容と辻褄が合いそうですね。
 参考記事: 日本人の格差と貧困

その他、デンマーク、フィンランドなどの北欧やスイスなどのヨーロッパ諸国が上位となります。

社会支出 対GDP比
単位:% 38か国中
1位 32.2 フランス
5位 28.6 イタリア
8位 27.8 ドイツ
12位 24.8 アメリカ
16位 22.7 日本
21位 21.3 イギリス
26位 18.0 カナダ
36位 10.9 韓国
平均 21.1

日本は22.7%で、38か国中16番目、G7中5番目の水準で、平均値21.1%をやや上回る程度です。
フランスやドイツと比較すると大きく差がありますね。

その他の国々を見ても、前回までの所得格差と貧困の水準とも大きく影響しているような数値と順位になっています。

4. 社会支出の詳細項目比較

せっかくですので、もう少し詳細についても順位を確認してみましょう。

社会支出 高齢(Old age)
単位:% 38か国中
1位 13.9 イタリア
4位 12.5 フランス
9位 10.4 日本
17位 8.4 ドイツ
23位 6.6 イギリス
26位 6.5 アメリカ
33位 4.5 カナダ
平均 7.9

まず高齢に関する社会支出ですが、日本が10.4%で9番目の水準です。
平均が7.9%ですので、比較的多い方ではありますが、高齢化が最も進んでいる国としてはやや少ないように見えます。
以外にもイタリアが13.9%で1位ですが、フランスも高い水準です。

社会支出 保健(Health)
単位:% 38か国中
1位 14.6 アメリカ
2位 9.5 フランス
3位 9.0 ドイツ
7位 7.7 イギリス
8位 7.6 日本
9位 7.5 カナダ
15位 6.4 イタリア
平均 6.1

社会支出のうち保健については、アメリカが14.6%で断トツで1位です。
続いてフランス、ドイツが高い水準となります。
日本は7.6%で38か国中8番目、G7で5番目で平均値6.1%を上回ります。

社会支出 家族(Family)
6位 3.2 イギリス
7位 2.9 フランス
15位 2.4 ドイツ
19位 2.0 イタリア
27位 1.7 カナダ
29位 1.6 日本
37位 0.6 アメリカ
平均 2.1

社会支出のうち家族については、イギリスが3.2%で6位と高い水準です。
ちなみに1位は3.4%のデンマークです。
日本は1.6%で38か国中29位、G7で6番目で平均値2.1%を下回り極端に低い水準です。
この中には育休・産休や、保育なども含まれますので、少子化の進んでいる日本では少なめになるのは理解できますが、他国と比較するとその水準は明らかに少ないと言えそうです。

5. 社会支出の特徴

今回は社会支出についての統計データをご紹介しました。

各国とも高齢化が進んでいるため高齢の支出が多くを占める共通点があるようです。
日本も高齢の社会支出は多い方ですが、高齢人口比率の割にはやや少ないように思います。

次に規模の大きい保健の社会支出も他の主要国と比較すると日本はやや少ない方です。

そして子育て支援なども含まれる家族の社会支出が、日本は極端に少ないのが特徴的ですね。
対GDP比でイギリスやフランスの約半分です。

日本は経済水準や高齢化の割には、社会支出が思ったよりも多くないという特徴がありそうです。
これまで見てきたように再分配後の格差が大きく、貧困率が高い事とも大きく関連していそうですね。

経常移転負担も経常移転給付も少なく、先進国の中で可処分所得が比較的少ない国でもあります。
 参考記事: 可処分所得が高い国の特徴

負担と給付という再分配のバランスについて、もう少し改善の余地があるのかもしれませんね。

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・本ブログに用いられる統計データは政府やOECDなどの公的機関の公表しているデータを基にしています。
・統計データの整理には細心の注意を払っていますが、不整合やデータ違いなどの不具合が含まれる可能性がございます。
・万一データ不具合等お気づきになられましたら、「お問合せフォーム」などでご指摘賜れれば幸いです。
・データに疑問点などがございましたら、元データ等をご確認いただきますようお願いいたします。
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