223 給与が増えない理由とは? - GDPと賃金の関係

日本の民間企業の給与総額とGDPの関係について統計データを可視化してみます。給与・賃金は付加価値の分配の一部となりますので、GDPと強い関係がある事が確認できます。

1. 給与総額の推移

前回は、日本の労働者数の変化についてフォーカスしてみました。
日本の人口は減少局面に入っていますが、労働者数は増加しています。
主に女性と高齢者が増えているわけですが、今後は特に男性で若年層から順に減少していく事が予想されます。

本ブログでも何度も取り上げてきましたが、日本は経済が停滞していて、労働者の平均給与が目減りしていました。
一方で労働者数は増加しています。
付加価値と給与総額が増えない中、労働者数が増え、より多くの労働者で分け合っている状況と言えます。

なんだか不思議な状況だと思います。
なぜ日本でこのような状況が起きているのでしょうか?

今まで、平均給与と労働者数についてみてきましたので、今回はまず労働者の給与総額について確認してみましょう。
 参考記事: 豊かになれない日本の労働者
 参考記事: 日本の労働者は増えてる!?

給与総額 男女合計

図1 給与総額 男女合計 年齢階層別
(民間給与実態統計調査)

図1は、民間企業の給与総額の推移です。

給与総額は、1997年をピークにして、リーマンショックにかけて大きく減少を続けていました。
リーマンショック後に増加傾向に転じ2018年ころにやっと1997年のピークを越えるところまで回復しています。

前回見てきたとおり、この間労働者数は横ばいの期間がありながらも、2012年以降大きく増加しています。

2. 年齢階層別労働者数と平均給与の推移

続いて、年齢階層別に労働者数と平均給与の推移を確認してみましょう。

給与所得者数 男女合計

図2 給与所得者数 男女合計
(民間給与実態統計調査)

給与総額が下がっている時期に労働者数は横ばいですし、その後も労働者数の増加と共に給与総額が増えている状況です。
結局は、平均で見ると給与水準が下がっているという関係ですね。

平均給与 男女合計

図3 平均給与 男女合計
(民間給与実態統計調査 より)

図3が平均給与の推移です。
各世代とも1997年にピークとなり、リーマンショックにかけて減少し、その後少しずつ上昇傾向です。

ただし、給与総額の増え方よりも、労働者の増え方の方が多いため、平均給与はピークよりも目減りしている状況です。
特に男性労働者では減少幅が大きく、40代の平均給与は1997年の水準より70万円も減っている状況です。

やっと増加傾向になってきたにも関わらず、今回のコロナ禍でまた減少し始めてしまっていますね。

当然ですが、給与総額と平均給与は連動している事がわかります。

3. GDPと給与総額の関係

労働者への給与は、付加価値の分配の一部となります。
付加価値の総額はGDPです。
この事は、GDPが増えなければ給与総額も増えないという関係を意味しています。
あるいは、その逆かもしれませんが、相互に強く関係しているはずです。

日本 GDP・給与総額

図4 日本 GDP・給与総額
(民間給与実態統計調査、国民経済計算 より)

図4は、日本のGDP(国内総生産)と給与総額(民間)の推移を重ね合わせたグラフです。

ちょうど1997年で同じくらいの水準となるように、双方の縦軸範囲を調整しています。

図4の通り、GDPと給与総額は連動して推移していることがわかりますね。

GDPは国内で生産された付加価値の合計です。
付加価値は、売値-外部購入費用(≒粗利)ですね。

また、GDPの分配面として、賃金と営業余剰・混合所得、純間接税などがあり、賃金はGDPの一部という事にもなります。
つまり、日本の場合は賃金の原資となる付加価値がそもそも増えていないという事になります。

4. GDP分配面の国際比較

以前ご紹介しましたが、GDPの分配面には労働者への賃金が含まれます。

日本 GDP 分配面

図5 日本 GDP 分配面
(OECD統計データ より)

図5は日本のGDP分配面の推移です。

家計への分配である賃金と、企業への分配である営業余剰・混合所得がほぼ1:1で推移しているのがわかりますね。
GDP分配面の賃金は、公務員の給与も含まれるはずですので、図4とは若干数値が異なります。
営業余剰・混合所得には、一般の企業の取り分以外にも、家計への帰属家賃(営業余剰)や、個人事業主の混合所得なども含まれます。

日本はGDPが停滞しているので、1990年代以降は両者とも停滞しています。
 参考記事: 付加価値の分配って何?

ただし、日本の企業は、付加価値以外の収入が増え、法人税率も下がっている事から、当期純利益は大幅に増加しています。
 参考記事: 企業ばかり儲かる理由

図6 GDP 分配面 アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ
(OECD統計データ より)

同じように、他の主要国についてもGDP分配面をグラフ化したものが図6です。

日本と異なり、各国とも右肩上がりで増加していますが、やはり賃金と営業余剰・混合所得はほぼ1:1で推移しています。
GDPの分配面で見ると、労働者への分配と企業への分配が同程度となるのが一般的なようです。

5. GDPと給与総額の特徴

今回は民間企業の給与総額についてご紹介しました。

日本の給与総額は1997年をピークにしていったん減少し、2010年ころから少しずつ増え始めています。
GDPと重ね合わせる事で、ほぼ連動した推移をしているのが確認できました。

給与総額をGDPで割ると、労働分配率に相当しますが、労働分配率が特段下がっているわけではない事も意味すると思います。

日本は賃金の原資となる付加価値が停滞しているにも関わらず、労働者数が増えているため、1人あたりの平均給与が目減りしているという状況とも言えそうですね。
設備投資などで生産性を向上させるというよりも、低賃金の労働者で賄うというようなビジネス観も強いと思います。

労働者側としては、世帯主の収入が減り共働きで働かざるを得ない人や、高齢でもローン返済などで働かざるを得ないなど、低賃金でも仕事が必要な人が増えているようです。

本来であれば、今後の人口減少を鑑みた上で、仕事に適正な対価を付け、少ない労働力でも高い生産性を実現し、皆がより豊かになれるような変化が必要ですね。
しかし、データを見る限りではむしろ逆方向に進んでしまっているように見えます。
つまり、今の日本は安い仕事をより多くの安い労働力で賄い、全体的に少しずつ困窮していくという状況ですね。

企業が本来の事業投資により付加価値を増大させ、消費者でもある労働者への分配(賃金)も増やしていくという役割を実践していく必要があるように思います。

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