155 ストック面で見る企業活動の停滞 - 企業の正味資産
停滞する企業の資産
前回は日本の家計の資産や負債、正味資産についてフォーカスしてみました。
家計では負債が増えず、生産資産が停滞しています。
バブル期に高騰した非生産資産が減少しつつ、純金融資産が増加しているので、相殺し合いながら家計の正味資産は停滞しています。
今回は同じように、内閣府の国民経済計算の結果から、企業の資産や負債についても着目してみましょう。
以前は、法人企業統計調査での資産、負債のバランスを見てみました。
国民経済計算では、民間企業と公的企業で分かれているので、この区分ごとの傾向を見てみたいと思います。

図1 民間企業 資産・負債・正味資産
(国民経済計算 より)
図1が民間企業の資産、負債、正味資産です。
法人企業統計調査は純資産が右肩上がりで増加しているグラフだったのですが、この国民経済計算のグラフでは正味資産がずっと停滞しています。
非常に興味深い結果ですね。
恐らく、国民経済計算では自社の株式が負債側に計上されているためと思われます。
株式は株主に対する負債(株主資本)という側面もありますね。
直近では、500兆円程の正味資産、600兆円程の純金融負債という形になっています。

図2 民間企業 資産・負債・正味資産 詳細
(国民経済計算 より)
図2が民間企業の各項目ごとの推移です。
非生産資産(主に土地)は、やはりバブル期のピークから減少が見られますね。
最も重要な生産資産(機械設備、工場等)は、上昇傾向ではありますがかなり緩やかです。
停滞していると表現しても良いくらいですね。
1994年に急激に増加しているのは98SNAから08SNAへと、統計基準の切り替わる年のためです。
急激に資産が増えたというよりも、何かの項目が変更になったための増加とみた方が良さそうです。
純金融資産(Financial net worth: 金融資産・負債差額)は1989年のバブル崩壊直前から、停滞が続いています。
やはり、負債が増えず、資産も増えない、という状況になっていますね。
この点では、企業は家計に似たような傾向も持ち合わせていますね。
2. 公的企業についても見てみよう!
もう一方の公的企業についても同様のデータを見てみましょう。

図3 公的企業 資産・負債・正味資産 積上
(国民経済計算 より)
図3は公的企業の資産、負債、正味資産のグラフです。
公的企業は、金融資産や非生産資産が極めて少ないようです。
生産資産の割合が大きいのが特徴的です。
公的企業なだけあって、純粋に企業活動に必要な資産や負債しか持っていないという事なのかもしれません。
とはいえ、負債が減少傾向ではありますね。

図4 公的企業 資産・負債・正味資産 詳細
(国民経済計算 より)
図4がそれぞれの項目の推移です。
1997年以降、純金融負債は縮小傾向です。
一方で、生産資産はやや増加傾向で、正味資産としても増加基調ですね。
3. 金融投資では増えない国富
今回は企業の資産・負債・正味資産について着目してみました。
意外なことにも、法人企業統計調査では増加基調であった企業の純資産は、株式を負債側にも計上する正味資産で見ると、停滞しているという事実が分かったと思います。
株式は、企業から見れば、資産でも負債でもあるので、日本企業同士の株式の持合いは全て合計すると相殺しますね。
株価が上がっても、当該企業からすれば株主への負債が増えるという事になります。
企業が他社の株を持っていれば資産は増えますが、その分相手方企業の負債が増えるという事ですね。
企業経営において実際の事業用資金として関わる株式とは、創業時と増資によって資本金が増える場合ですね。
それ以外は、株価が上がっても、実際の企業経営には直接的な関係はないはずです。
(買収されにくくなる、増資の際の金額が大きくなりやすいなどの間接的な影響はあるようです)
現在の日本企業は、本来事業活動で重要となる生産資産への投資が減っているので、負債を減らし、海外への金融投資によって純資産を一定に保っているような状況に見えます。
そして海外への投資は別な見方をすれば、国内に投資されても良いお金(資本)が流出したことを意味します。
日本国内への事業投資が停滞し、海外へ流出した分だけ、日本の正味資産のうち生産資産が停滞してしまっているとも言えそうですね。
本来の事業活動への投資の重要性が、この統計データからもわかるのではないでしょうか。
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