153 投資が減り豊かになれない日本
1. 国富の内訳を見てみよう
前回は、土地や建造物などの固定資産と金融資産を含めた、日本全体の正味資産=国富について着目してみました。
不動産バブルによる土地価格の高騰に目を奪われがちですが、生産資産や純金融資産(対外純資産)は少しずつ右肩上がりで増大しているという事がわかりました。
今回はもう少し詳細に、民間部門と公的部門の国富の推移についても見てみましょう。

図1 日本 民間 資産・負債・正味資産
(国民経済計算 より)
図1が公的と民間で分けた場合の、民間の資産・負債・正味資産のグラフです。
資産は、非生産資産(自然資源)と生産資産(建造物など)、金融資産に分かれます。
黒い線が正味資産、破線が純金融資産です。
1990年をピークに正味資産は停滞しています。
そして、純金融資産は右肩上がりに増加していますね。
全体で見たときよりも、全体に占める純金融資産の割合が大きそうです。

図2 日本 民間 資産・正味資産 詳細
図2が資産・正味資産の各項目の推移グラフです。
1980年代後半から1989年にかけての不動産バブルは、ここでも確認できますね。
生産資産は1994年以降横ばいです。
(1993年→1994年は98SNA→08SNAのデータの切替部分で、何らかの項目の変化と思われます)
日本全体としては生産資産が増大傾向でしたが、民間部門は横ばいですね。
企業の設備投資や家計の住宅購入が停滞している事が如実に表れていると思います。
一方で、純金融資産は右肩上がりで増大しています。
ここでは、民間部門ではバブルの影響が大きかった事、生産資産が停滞しながら、純金融資産が増加する事で、全体としての正味資産は停滞している事を覚えておくと良いと思います。
2. 正味資産の減少する公的部門
一方で、公的部門(政府)の資産と負債についても見ていきましょう。

図3 日本 公的 資産・負債・正味資産
図3が公的部門の積上げグラフです。
民間部門のように、非生産資産の急激な高騰は見られませんね。
一方で、純金融資産はマイナス、正味資産はバブル崩壊以降減少傾向である事がわかると思います。

図4 日本 公的 資産・正味資産 詳細
(国民経済計算より)
図4が公的部門の各項目ごとの詳細です。
項目によって傾向が異なりますね。
まず資金循環などでも確認してきた通り、政府の純金融資産はマイナスです。
非生産資産は、バブルで多少価値の増大が見られますが、その後徐々に減少しています。
一方で、生産資産は緩やかですが右肩上がりですね。
総合すると、公的部門の正味資産はゼロに近づいています。
明らかに民間で純金融資産が増大している多くは、政府の純金融負債の増大によるものが大きい事がわかります。
(残りは主に民間による海外への資産ですね)
3. 民間活力の低下
いかがでしょうか、今回は国富の推移を民間と公的に分けて眺めてみました。
一般的な資本主義経済では、誰か(主に企業)が負債を負って投資を行い、長年にわたて投資以上のリターンを得ながら、生産力も需要も増え、富が増えていくという事だと思います。
結果的に、民間部門の生産資産と純金融資産が右肩上がりで増加していくはずですね。
日本の場合は、生産資産が停滞してしまっています。
この部分が、日本の異常な所ですね。
日本は、バブル崩壊以降、民間での投資が減り、政府も公的資本形成を減少させています。
民間では投資→生産資産が増えていないにも関わらず、純金融資産が増大しています。
これが主に政府の負債増加によるものである事は、今回のグラフでも読み取れたのではないでしょうか。
また、残りの純金融資産の増大は海外への資産ですね。
見方を変えると、国内で投資する代わりに、海外に投資した分だけ資産が増えているわけで、海外に資本が流出しているという意味にもなるという事です。
当然、海外への資産は、海外に投資している人のモノですね。
全体としては増えているけれども、資産の持ち主は限定されています。
民間の純金融資産は増えているけれども、これは資産格差を大きく内包しながら増加している状況である事は認識した方が良いと思います。
金融資産では、最も大きな現金・預金は高齢者に偏在しています。
(貯蓄額の7割は60歳以上の高齢層です)
株式投資については、国内では投資家の金融資産は、企業側の株主に対する負債となり相殺しますね。
対外投資については、投資できる主体が限定されます。
結局、国内への事業投資が減って経済が停滞する中、政府が負債を増やす事で何とか国富が横ばいに見える推移を保っている状態ですね。
民間企業が負債を増やして、「事業への投資」を行わない限り、国富やGDPが正常な形で増えて国民が豊かにならないのではないかと思います。
確かに、バブルの余波もあり、国内企業は事業への投資の余裕が減ってしまっていたのかもしれません。
しかし、2003年頃から非生産資産の推移が落ち着いてきたことを考えれば、本来この辺りのタイミングで国内への事業投資への余力が生まれていたようにも思います。
それが、国内への事業投資ではなく、株式や海外への投資に舵を切ってしまっている状況ですね。
当然、株式投資で配当金を得ながら、株価の増大により資産は増加しているように見えると思います。
このような金融投資は、個々で見れば資産運用の有効な手段ではあるのだと思います。
ただし、金融投資に回したお金を現金化して事業投資に使う人はどれだけいるのでしょうか?
恐らく、金融投資に回ったお金は、そのまま金融市場で回り続けるだけで、実体経済には殆ど活用されないのではないでしょうか。
例えば株式投資をしていて、株価の値上がりで売却益を得た人は、その利益を実体経済で消費や投資するよりも、更なるゲインを求めて株式や他の金融投資に再投資するように思います。
いつまでも金融投資ばかりで、事業投資しないうちに、実は国富が停滞している事実に、そろそろ気付くべきではないでしょうか。
日本人全体でまさに壮大な「合成の誤謬」を起こしているのかもしれません。
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