186 企業の金融資産が増える意味

1. 増え続ける各国企業の金融資産

前回は企業の金融資産と負債の差額である、「純金融資産」(Financial Net Worth)についてフォーカスしてみました。
家計、企業、政府、金融機関、海外の経済主体ごとに、純金融資産(負債)を合計するとゼロになります。
基本的にはどの国も、家計の純金融資産が増え続けます。

その一方で、純金融負債を増やす主体が必要になりますが、通常その役割を担うのが「企業」です。
しかし主要国では日本だけ、企業の純金融負債が目減りしているため、その代わりに政府と海外が純金融負債を増やしている状況です。
上記のように、日本の経済は「企業の変質」という他国にはない事情を抱えているようです。

今回からはさらに「企業」の詳細な状況について深堀してみましょう。
今回はまず企業の「金融資産」について着目してみます。

企業 金融資産 ドル換算

図1 企業 金融資産 ドル換算 推移

図1は企業の金融資産のドル換算値について推移をグラフ化したものです。
やはりアメリカが圧倒的に企業が金融資産を増やしていますが、他国も右肩上がりに増加させている事がわかります。

日本は1995年にはアメリカよりも大きな金融資産を持っていました。
その後もドル換算値では増加基調ではありますが、かなり勾配は緩やかなようです。

一方でフランスの企業は金融資産を多く持っていて、直近では日本を抜かしています。
人口や経済規模からすると、フランスの企業の金融資産がここまで多いというのは意外ですね。

2. 1人あたりの水準で比較してみよう!

それでは、企業の金融資産を人口1人あたりの水準に直して比較してみましょう。

企業 金融資産 1人あたり 推移

図2 企業 金融資産 1人あたり ドル換算 推移

図2が企業の金融資産 1人あたりの推移グラフです。
やはり日本は1990年代中頃に極めて高い水準ですが、その後は増加傾向ながらも緩やかな伸びで、アメリカやカナダに追い抜かれています。
ドイツにもかなり差を縮められており、フランスとは大きな差をつけられています。

イタリアやイギリスがリーマンショック以降横ばいというのも大きな特徴ですね。

3. 日本企業の金融資産の水準とは

それでは、特徴的な年を切り取って日本の企業の金融資産の水準がどの程度に位置するのか順位を見てみましょう。

企業 金融資産 1人あたり 1997年

図3 企業 金融資産 1人あたり 1997年

図3が1997年の水準を比較したグラフです。
ルクセンブルクやノルウェー、デンマークなどの国々に続いて、日本が43,844$で6番目に高い水準だったようです。
次いでG7ではフランス、ドイツ、アメリカが続きます。

OECD平均値(26,839$)に対して1.5倍以上の高水準です。

企業 金融資産 1人あたり 2019年

図4 企業 金融資産 1人あたり 2019年

図4は2019年のグラフです。

日本は83,502$と、1997年と比較すると約2倍に増加はしていますが、他国はそれ以上に成長していて順位を大きく落としています。
ただし、36か国中12位と上位には位置します。

フランスが極めて高い水準で、ベルギーやデンマークを抑えて、7位に食い込んでいるというのがとても特徴的と言えそうです。

4. 成長率についても比較してみよう

それでは、自国通貨ベースでの成長率についても比較してみましょう。

企業 金融資産 成長率

図5 企業 金融資産 成長率

図5が企業の金融資産について1995年を基準(1.0)とした成長率を示したものです。
日本は1995年の水準に対して1.5倍程度になってはいますが、他国はそれ以上に大きく成長している事がわかります。
イタリアやドイツで2~2.5倍、イギリスで5倍、アメリカ、カナダ、フランスで5.5~6倍ほどです。
日本は成長はしていますが、その成長率はかなり低いという事がわかりますね。

今回は、企業純金融資産を算出する際の金融資産と負債のうち、金融資産についてフォーカスしてみました。

日本は確かに企業の金融資産は増えていますが、他国と比べると非常に緩やかな増加と言えそうです。
1990年代の水準が極めて高かったため、そこからの変化率となりますので、緩やかなのは当然ですね。

1人あたりの水準で見れば、他国にどんどんんと抜かれている状況で、まだ上位と呼べる水準はキープしているものの、今後の推移次第では徐々に順位を落としていってもおかしくありません。

企業が事業投資をすると負債と固定資産が増えます。
一方で、企業が海外投資や金融投資をすると金融資産が増えます。

企業の金融資産や負債を見る事で、その企業がどのような活動を優先しているのかが見えてきますね。
今回は金融資産に着目しましたが、負債についてはどうなのでしょうか。

次回は企業の負債に着目してみたいと思います。

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