102 緩やかに拡がる所得格差? - 男性労働者の推移と国際比較
日本の労働者は所得格差が小さい事で知られていますが、時系列データを見る事でその推移を確認し、変化の傾向を国際比較してみます。
目 次
1. 所得格差の推移:日本
前回は、OECD各国の男性の所得格差についてフォーカスしてみました。
日本は他の国と比べると、イタリアや北欧諸国のように、比較的格差の小さい国である事がわかりました。
この所得格差は再分配前の総所得に対して、十分位数での比率として計算される指標となります。
日本の格差は昔から小さいのでしょうか、今回は所得格差の推移について取り上げてみたいと思います。
図1 所得格差 推移 日本 男性
(OECD 統計データ より)
図1が日本の男性の所得格差の推移を表すグラフです。
所得十分位数の比であらわされています。
ここで使われるのは、最も所得の低い層を区切る第1十分位数、中央値の第5十分位数、最も所得の高い層を区切る第9十分位数です。
それぞれの意味は、前回と前々回記事をご参照ください。
第9/第1 十分位数は、第1十分位数と第9十分位数の比ですので、最も貧しい層と最も豊かな層の所得の比となります。
この数値が大きくなると、格差が大きくなっていくという事になりますね。
日本の場合は直近で2.8です。
この数値は先進国でも小さい方です。
第5/第1 十分位数と第9/第5 十分位数は、それぞれ中央値と第1十分位数の比、第9十分位数と中央値との比となります。
第5/第1 十分位数が大きくなると、低所得層と中央値との開きが大きくなるという事ですので、高所得層の割合が大きい分布となることが言えます。
第9/第5 十分位数が大きくなると、高所得層と中央値との開きが大きくなりますので、低所得層の割合が大きい分布となることが言えます。
図2 所得分布の形
イメージで言えば、図2のような形ですね。
(A)という分布に対して、(C)は第5/第1 十分位数が大きい分布ですので、高所得側に分布が寄った形をしています。
逆に(D)は第9/第5 十分位数が大きい分布ですので、低所得側に寄った形です。
日本の場合は、第5/第1十分位数が横ばいなのに対して、第9/第5十分位数が少しずつ増加していっています。
つまり、図2の(D)のような分布に変化していっているという事ですね。
低所得側の割合が大きくなっており、第9/第1十分位数も大きくなっている事からも、少しずつですが格差が広がっている事がわかります。
ちなみに、第5/第1十分位数と、第9/第5十分位数の数値が等価に近づくほど、分布の形が対称形(正規分布)に近づいていきます。
また、これらの指数はあくまでも分布の形を表していますので、全体として高所得側、低所得側のどちらに寄っているかは表現されません。
通常は、全体的に所得水準が上がりながら、分布の形が変化していると思います。
ただし、日本の場合は、所得水準が下がりながらの分布の変化である事は、注意が必要です。
2. 所得格差の推移:アメリカ
それでは、特徴的な他の国の格差の推移も見てみましょう。
まず格差の比較的大きいアメリカです。
図3 所得格差 推移 アメリカ 男性
(OECD 統計データ より)
図3がアメリカのグラフです。
第9/第1十分位数が右肩上がりで増加しています。
どんどん所得格差が開いている状況ですね。
直近では5.1となっています。
最も貧しい層と最も豊かな層には、5倍以上の所得格差があるという事になります。
分布の仕方も1998年までは、第5/第1十分位数のほうが大きかったのですが、以降は第9/第5十分位数の方が上回り差が広がっています。
飛びぬけて高所得な人が増える事で、相対的に低所得層の割合が増えている状況と言えそうですね。
3. 所得格差の推移:韓国
続いて、韓国の所得格差です。
図4 所得格差 推移 韓国 男性
(OECD 統計データ より)
図4が韓国のグラフです。
2007年頃まで格差は開く方向だったようですが、それ以降は格差が縮まっているようです。
第9/第1十分位数はピークの2007年で5.0、直近では3.9程度です。
第9/第5十分位数は2007年以降で横這いですが、第5/第1十分位数が少しずつ減少しています。
低所得側の格差が小さくなることで、全体としての格差が縮まっているような形ですね。
4. 所得格差の推移:スウェーデン
続いて、格差が小さいと言われる北欧のスウェーデンのデータです。
図5 所得格差 推移 スウェーデン 男性
(OECD 統計データ より)
図5が、OECDで最も格差の小さいスウェーデンのグラフです。
第9/第5十分位数と第5/第1十分位数がかなり離れているのが特徴的ですね。
かなり低所得側に寄った分布をしている国と言えそうです。
第9/第1十分位数は直近で2.3弱と極めて小さな数値です。
1995年から比べると若干格差は開いているようです。
第9/第5十分位数はやや減少傾向ながら、第5/第1十分位数が少しずつ増大しています。
5. 所得格差の推移:フランス
続いて、労働者のデモでよく知られるフランスのデータです。
図6 所得格差 推移 フランス 男性
(OECD 統計データ より)
図6がフランスのグラフです。
1995年からのデータとなりますが、格差がやや縮小している例と言えます。
直近では第9/第1十分位数は3.1程度です。
スウェーデンと同様に第9/第5十分位数と第5/第1十分位数が離れていますので、低所得側に寄っている分布と言えそうです。
第9/第5十分位数は横ばいですが、第5/第1十分位数は少しずつ下がっているようです。
低所得層が減る事による格差縮小が言えると思います。
6. 男性労働者の所得格差の国際比較
最後に、各国の所得格差(第9/第1十分位数)の推移を一つのグラフにまとめて国際比較してみましょう。
図7 所得格差 男性 第9/第1十分位数 推移
(OECD統計データより)
図7が各国の所得格差(第9/第1十分位数)の推移をまとめたものです。
イタリアの格差が小さいことが特徴ですが、日本も低い水準で推移していることがわかります。
アメリカや韓国は突出していますが、アメリカは近年やや縮小傾向で、韓国は大きく縮小していることがわかりますね。
OECDの平均値としても2007年ころからやや縮小傾向になっているようです。
7. 男性労働者の所得格差の特徴
今回は、所得格差の推移と、格差の分布の形についてフォーカスしてみました。
日本は所得格差が小さい方ではありますが、1970年代と比べるとやや拡大しているようです。
特に低所得者層の割合が増える形に格差が開いている事になります。
今回ご紹介した数値は、総所得(Gross earning)についてです。
本来はここから再分配がされた可処分所得について最終的な所得格差を比較すべきかもしれませんね。
日本は再分配後の所得格差は、先進国では比較的大きい方です。
図8 ジニ係数 可処分所得
(OECD統計データより)
図8が所得格差を表すジニ係数です。
再分配後の可処分所得について計算されたものですが、日本は0.334で先進国の中でも高めの数値となっています。
つまり、再分配前の当初所得では格差は小さい(しかし低所得層が増えている)ながらも、再分配後には相対的に高い水準となっているという事になります。
税の再分配機能が不十分なのか、少子高齢化による影響によるものなのか詳細はわかりませんが、こういった傾向もある事は踏まえておいた方が良いかもしれませんね。
次回は所得格差の分布について、もう少し詳しく見てみたいと思います。
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