304 公務・教育・保健の平均時給 - 公共的産業の対価
公務・教育・保健の平均時給(労働時間あたり雇用者報酬)について、為替レート換算値と購買力平価換算値の国際比較をしてみます。
1. 公務・教育・保健の平均時給
前回は専門サービス業の平均時給(労働時間あたり雇用者報酬)についてご紹介しました。
日本の専門サービス業は、国内で見れば平均的な対価と言えそうですが、国際的に見ればかなり低い水準のようです。
他の先進国も概ね産業間では平均的な対価の産業と言えそうです。
今回は、公共的な産業である公務・教育・保健の労働時間あたり雇用者報酬についてご紹介します。
図1 労働時間あたり雇用者報酬 日本
(OECD統計データより)
図1は日本の産業別に見た労働時間あたり雇用者報酬の推移です。
公務・教育・保健(緑)は、2000年代中頃までは情報通信業や金融保険業と共にかなり高い水準に達していましたが、その後は減少傾向となっていき、近年では工業や建設業と同じくらいの水準です。
全産業平均値よりは高い水準を保ってはいますが、一時期よりも明らかに減少しているのはとても特徴的ですね。
この分野は労働者数が大きく増加していて、さらにパートタイム雇用率が高まっている分野です。
労働時間あたりで見ているので、本来はパートタイム雇用率が高まっていてもそれほど時給としては下がらないはずです。
しかし、日本は一般労働者とパートタイム労働者で平均時給に大きな差があるため、パートタイム雇用率が高まるほど、全体の平均時給が下がるという状況となっていそうです。
参考記事: パートタイムの多い産業とは?
2. 公務・教育・保健とは
OECDで公務・教育・保健は3つの産業領域を総合した区分として扱っています。
区分名としては、O~Q Public admin.; compulsory s.s.; education; human health と表記されます。
ここでは、OECDの区分と、国際標準産業分類(ISIC REV4)における項目との対応をご紹介します。
なお、日本語表記は下記サイトを参照しています。
国際連合 Classification on economic statistics ISIC rev4 Jp
表1 公務・教育・保健の産業区分
OECD 産業区分 | ISIC REV4 大分類 | ISIC REV4 中分類 |
---|---|---|
O-Q 公務・教育・保健 Public admin.; compulsory s.s.; education; human health | O 公務及び国防、強制社会保障事業 Public administration and defence; compulsory social | 84 公務及び国防、強制社会保障事業 |
P 教育 Education | 85 教育 | |
Q 保健衛生及び社会事業 Human health and social work activities | 86 保健衛生事業 87 居住ケアサービス業 88 宿泊施設の無い社会事業 |
公務及び国防、強制社会保障事業の中には、一般公務、外務、国防、公共の秩序及び安全に関する事業、強制社会保障事業などが含まれます。
教育の中には、初等教育、中等教育、高等教育、教育支援サービスなどが含まれます。
保健衛生事業の中には、病院事業、医療業及び歯科医療業等が含まれます。
居住ケアサービス業の中には、居住介護施設、高齢者・障害者用居住ケアサービス業等が含まれます。
公務・教育・保健は公務員の仕事ばかりではありませんが、公共的な産業と言えますね。
3. 公務・教育・保健の平均時給の推移
それでは公務・教育・保健の平均時給(労働時間あたり雇用者報酬)の推移について眺めてみましょう。
図2 労働時間あたり雇用者報酬 公務・教育・保健 為替レート換算
(OECD統計データより)
図2が公務・教育・保健の労働時間あたり雇用者報酬について、為替レートでドル換算した推移です。
日本(青)は1990年代にドイツやフランスを大きく上回る高い水準に達しますが、その後横ばい傾向が続き、近年ではOECD平均値を下回ります。
この分野ではイタリアもかなり高い水準に達しているのが特徴的ですね。
図3 労働時間あたり雇用者報酬 公務・教育・保健 購買力平価換算
(OECD統計データより)
図3が公務・教育・保健の労働時間あたり雇用者報酬について、購買力平価でドル換算した推移です。
日本(青)は2000年頃まではドイツやフランスと同じくらいの水準でしたが、その後差が開いていき、近年では大きな差があります。
日本の場合、購買力平価換算値は自国通貨ベースで停滞していても右肩上がりで増えていくグラフとなるのですが、公務・教育・保健については自国通貨ベースで減少しているため、2008年以降横ばい傾向の推移となっています。
2008年頃にはイギリスに抜かれ、2013年ころからOECD平均値を下回っています。
これまでも様々な産業を見てきましたが、この公務・教育・保健はとても興味深い推移ですね。
成長著しい公共的産業で、パートタイムなど非正規労働者を増やしている状況が数値としても確認できます。
4. 公務・教育・保健の平均時給の国際比較
最後に、公務・教育・保健の労働時間あたり雇用者報酬について国際比較してみましょう。
図4 労働時間あたり雇用者報酬 公務・教育・保健 購買力平価換算 2021年
(OECD統計データより)
図4は公務・教育・保健の労働時間あたり雇用者報酬について、2021年の水準を比較したグラフです。
日本は28.3ドルで、OECD30か国中20位、G7中最下位で、OECDの平均値36.2ドルを大幅に下回ります。
労働時間あたり雇用者報酬 公務・教育・保健
購買力平価換算 2021年 単位:ドル 30か国中
1位 66.7 ルクセンブルク
4位 50.8 アメリカ
6位 48.3 フランス
8位 47.4 ドイツ
9位 47.3 イタリア
15位 36.0 イギリス
20位 28.3 日本
平均 36.2
公務・教育・保健は産業の中でも平均的な対価の国が多いですが、イタリアは全産業平均値よりかなり高い水準に達していて、ドイツと同等であるのがとても印象的ですね。
北欧諸国はむしろ全産業平均値よりも、公務・教育・保健の水準の方が下回るというのも特徴的です。
特にスウェーデンで顕著なようですね。
5. 公務・教育・保健の平均時給の特徴
今回は、公共的な産業である公務・教育・保健についての平均時給(労働時間あたり雇用者報酬)についてご紹介しました。
どの国もこの産業は平均的な時給と言えそうですが、日本は先進国の中でもかなり低い水準となります。
公務・教育・保健は主要先進国で労働者数のシェアが大きな産業です。
図5 産業別 労働者数シェア 2019年
(OECD統計データより)
公務・教育・保健の労働者数シェアは、日本では18.5%程度ですが、アメリカやフランスでは3割近くに達しています。
一般サービス業と同じくらいの労働者が公共的産業で働いている事になりますね。
日本はこの分野の労働者が急激に増加していますが、その多くがパートタイム労働者です。
仕事に対する労働者への対価についてとても示唆的な統計データと思います。
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