199 労働者数で見る産業の変化 - 産業別の労働者数シェア
主要先進国の産業別労働者数のシェアを可視化してみます。各国で公共的産業のシェアがかなり高く、日本も拡大傾向ではありますが、他国と比べればまだ低い水準のようです。
目 次
1. 日本の産業別労働者数シェア
前回は、主要国の産業ごとの労働者数の推移を見てみました。
イギリス、ドイツなどの主要国各国は、公務・教育・保健といった公共性の高い産業の労働者が大きく増えているという特徴があるようです。
工業については、産業の転換が進むイギリスやフランスで減っていますが、ドイツや韓国ではやや増えています。
日本は工業や建設業の労働者が減り、公務・教育・保健の労働者数が大きく増加していて、イギリスなどに近い変化が進んでいるようです。
前回は、各産業の労働者数に注目してみましたが、今回はそのシェアについて視覚化してみたいと思います。
産業構造がどのように変化しているのかを確認できると思います。
図1 産業別 労働者数 シェア 日本
(OECD統計データ より)
図1が日本の産業別の労働者数シェアをグラフ化したものです。
2000年(左)と2019年(右)のグラフを示しています。
日本では、工業と建設業のシェアが減り、公務・教育・保健と専門サービス業のシェアが拡大しています。
一般サービス業はシェアが低下しつつも、依然として高い水準となります。
2019年時点でのシェアの大きい順にその変化を見てみましょう。
産業別 労働者数 シェア 日本
2000年→2019年 単位:%
29.7 → 27.1 一般サービス業
13.0 → 18.5 公務・教育・保健
19.7 → 16.7 工業
7.5 → 11.2 専門サービス業
9.8 → 7.0 建設業
公務・教育・保健と工業が入れ替わり、専門サービス業と建設業が入れ替わったような状況ですね。
2. アメリカの産業別労働者数シェア
続いて、アメリカやカナダの変化を見ていきましょう。
図2 産業別 労働者数 シェア アメリカ
(OECD統計データ より)
図2がアメリカのグラフです。
公務・教育・保健が2000年の時点ですでに高水準だったわけですが、2019年ではさらにシェアが拡大しています。
一般サービス業のシェアも変わらないのが特徴的ですね。
その代わり工業のシェアが大きく減少しています。
産業別 労働者数 シェア アメリカ
2000年→2019年 単位:%
24.8 → 28.4 公務・教育・保健
24.9 → 25.0 一般サービス業
15.6 → 11.5 工業
8.7 → 9.9 専門サービス業
7.1 → 7.1 建設業
3. ドイツの産業別労働者数シェア
それでは、日本と同じ工業立国のドイツはどのような状況でしょうか。
図3 産業別 労働者数 シェア ドイツ
(OECD統計データ より)
図3がドイツのグラフです。
やはり傾向としては、工業のシェアが低下し、公務・教育・保健と専門サービス業のシェアが増加しています。
工業はシェアとしては減少傾向ですが、日本よりも高い水準を維持しています。
一般サービス業はあまりシェアが変わらないようですが、公務・教育・保健と専門サービス業のシェアが増大しています。
産業別 労働者数 シェア ドイツ
2000年→2019年 単位:%
22.7 → 25.0 公務・教育・保健
23.4 → 22.6 一般サービス業
21.2 → 18.5 工業
9.6 → 13.8 専門サービス業
7.2 → 5.6 建設業
4. イギリスの産業別労働者数シェア
次に、工業からの転換が進むイギリスとフランスについてみていきましょう。
図4 産業別 労働者数 シェア イギリス
(OECD統計データ より)
図4がイギリスのグラフです。
一般サービス業、工業のシェアが低下し、公務・教育・保健、専門サービス業のシェアが増加しています。
公務・教育・保健のシェアが大きく増加し、直近では30%を超えます。
また、2019年の段階では、専門サービス業が16.8%のシェアで3番目に労働者の多い産業となっているのが特徴的です。
一方で工業は10%未満で、日本やドイツとは大きく異なりますね。
産業別 労働者数 シェア イギリス
2000年→2019年 単位:%
23.0 → 24.7 公務・教育・保健
27.3 → 26.3 一般サービス業
13.0 → 16.8 専門サービス業
14.7 → 8.9 工業
7.0 → 7.2 建設業
5. フランスの産業別労働者数シェア
続いてフランスのデータです。
図5 産業別 労働者数 シェア フランス
(OECD 統計データ より)
図5がフランスのグラフです。
イギリス程顕著ではありませんが、同じような傾向が見て取れますね。
専門サービス業のシェアが増加し、工業のシェアが低下しています。
一般サービス業はそれほど変化していません。
産業別 労働者数 シェア フランス
2000年→2019年 単位:%
29.2 → 29.4 公務・教育・保健
22.1 → 23.0 一般サービス業
12.5 → 15.6 専門サービス業
14.6 → 10.4 工業
5.8 → 6.3 建設業
6. イタリアの産業別労働者数シェア
リーマンショック以降、停滞が目立つイタリアについても見ていきましょう。
図6 産業別 労働者数 シェア イタリア
(OECD統計データ より)
図6がイタリアのグラフです。
他国といろいろな面で相違がありそうですね。
まず最も顕著なのは、他国では大きく増加している公務・教育・保健のシェアがほとんど変わらず、むしろ低下している点です。
イタリアでは公共性の高いサービスが増えていない状況ですね。
専門サービス業は増加しています。
一方で、一般サービス業はやや増加し、25%以上と高い水準を保っています。
工業は21.1%から16.8%と減少してはいますが、イギリスやフランスよりも多いですね。
その他サービス業や農林水産業のシェアも高めなのも特徴的です。
公務・教育・保健や建設業など、政府支出と関連の深い産業のシェアが低下しているのが印象的です。
産業別 労働者数 シェア イタリア
2000年→2019年 単位:%
24.6 → 26.1 一般サービス業
20.1 → 18.9 公務・教育・保健
21.1 → 16.8 工業
8.9 → 12.5 専門サービス業
6.5 → 6.0 建設業
7. カナダの産業別労働者数シェア
次はカナダの産業別労働者数シェアです。
図7 産業別 労働者数 シェア カナダ
(OECD統計データ より)
図7がカナダのグラフです。
イタリア同様に、一般サービス業のシェアが大きく、公務・教育・保健のシェアが比較的小さいのが特徴ですね。
専門サービス業の増大も、フランスやイギリスほどではありません。
工業のシェアは低下していますが、一方で建設業のシェアが拡大しているのはカナダの特徴のようです。
産業別 労働者数 シェア カナダ
2000年→2019年 単位:%
27.6 → 27.4 一般サービス業
23.0 → 25.3 公務・教育・保健
15.7 → 11.2 工業
9.2 → 10.3 専門サービス業
5.7 → 7.8 建設業
8. 韓国の産業別労働者数シェア
続いて、成長著しい韓国のグラフを見てみましょう。
図8 産業別 労働者数 シェア 韓国
(OECD統計データ より)
図8が韓国のグラフです。
他国と似たような傾向も見れますが、少し違う部分もありそうです。
まず、公務・教育・保健は他国同様大きくシェアが増加していますが、2019年で19%程度とまだ少なめの水準です。
専門サービス業もシェアが拡大していますが、2019年でも9.1%でやや低めの水準と言えそうです。
一方、最大の一般サービス業は27.3%でイタリアよりも多いですね。
製造業のシェアは17.1%とシェアは大きいですが、ドイツほどではありません。
図1と比較していただくと韓国は日本に近い産業構造と言えそうです。
産業別 労働者数 シェア 韓国
2004年→2019年 単位:%
30.9 → 27.3 一般サービス業
12.8 → 19.0 公務・教育・保健
19.4 → 17.1 工業
5.8 → 9.1 専門サービス業
8.1 → 7.4 建設業
9. 産業別労働者数シェアの国際比較
最後に近年の主要国各国のグラフを並べて比較してみましょう。
図9 産業別 労働者数 シェア 2019年
(OECD統計データ より)
図9 が主要国の2019年の労働者数シェアを並べたグラフです。
日本と他国の産業構造の違いがこれである程度比較できるのではないでしょうか。
まず、日本の特徴は一般サービス業のシェアが比較的大きい事ですね。
ドイツやフランスが23%程度に対して、27.1%と高水準で、韓国やカナダと同じくらいのシェアです。
一方、専門サービス業は11.2%とドイツやイギリス、フランスに対して低いシェアとなります。
公務・教育・保健もドイツ、イギリスで25%、アメリカ、フランスで30%近くに対して、18.5%とシェアが低いことが目立ちます。
イタリアや韓国より若干シェアが低いレベルですね。
10. 産業別労働者数シェアの特徴
今回は、主要先進国の産業別労働者数シェアについてご紹介しました。
アメリカやドイツ、フランスなどでは公的な産業である公務・教育・保健のシェアが大きいのに対して、日本では増加傾向ながらまだシェアが低いようです。
日本はGDPで見て最大産業の工業の労働者数が減っていて、シェアも低下している一方で、一般サービス業の労働者数シェアが高い特徴がありそうです。
一般サービス業よりも工業の方か平均的な労働生産性が高いわけですので、生産性の高い産業が縮小し、生産性の低い産業の相対的な存在感が増している状況ですね。
専門サービス業の労働者数は増加傾向ですが、まだ少ないようです。
しかもこの専門サービス業には、いわゆる士業などの他に、業務支援サービスや労働者派遣業なども含まれていて、平均的な生産性は一般サービス業とそれほど変わりません。
当然ですが、公務・教育・保健は公共性の高い産業ですので、決して労働生産性が高いわけではないと思います。
他の先進国は、ドイツや韓国の工業や、イギリスの金融業、フランスの専門サービス業など、得意とする高付加価値産業を伸ばしながら、公共サービスを充実させているように見えます。
皆さんはどのように考えますか?
参考:工業と公務・教育・保健のシェア比較
(2024年1月追記)
図10 労働者数 産業別 シェア 工業および公務・教育・保健
(OECD統計データより)
図10が2021年の、労働者全体に占める工業および公務・教育・保健のシェアを比較したグラフです。
公務・教育・保健のシェアが高い順に並べています。
やはり上位は北欧諸国ですが、フランス、アメリカも高い順位ですね。
カナダ、ドイツ、イギリスも平均値を上回り、先進国の中でも公共的な産業のシェアが高い事がわかります。
韓国、イタリアは下位で、日本はさらにそれを下回ります。
日本は先進国の中でも公共的な産業の労働者がかなり少ない事になりそうです。
一方、工業のシェアを見ると、日本は平均値以上で、比較的工業の労働者の多い国となります。
興味深いのはドイツですね。
公務・教育・保健のシェアが高い一方で、工業のシェアも日本より高い状況です。
公共的産業と工業を両立しているような状況に見受けられます。
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