046 安くなったエンジニア - 職級別月額賃金の変化
JETROのデータベースより、職級別月額賃金の変化を可視化してみます。ドル換算値で見れば、日本のワーカーの賃金は若干上がっていますが、エンジニアや中間管理職は下がっているようです。
1. ワーカーの月額賃金の変化
前回は、JETROの投資関連コスト比較調査から、ワーカー、エンジニア、中間管理職の2018年における月額賃金を比較しました。
工場作業者などのワーカーでは、日本は比較的高い賃金水準ですが、エンジニア、中間管理職になるにつれて他国よりも割安になっていく傾向がわかりました。
このような傾向は昔からそうだったのでしょうか、
今回は過去のデータと比較することで賃金水準の変化についてみていきたいと思います。
図1 ワーカー月額賃金 変化
(JETRO投資関連コスト比較調査 より)
図1に主要な国と地域のワーカーについての月額賃金を示します。
赤が2004年、青が2018年です。
単位はドルです。
数値は為替の影響も受けますが、ドル-円為替レートは年平均値で2004年が108円/ドル程度、2018年が110円/ドル程度ですのでそれほど為替による差異はないものと思います。
アメリカとカナダは2004年のデータが無いのですが、参考までに2018年の数値のみ記載しています。
統計データで範囲で示されている場合は、その中間値としています。
ドイツは特にワーカーの賃金水準が高いですね。
3,079ドルから4,399ドルへと増加率も大きいです。
日本はアメリカに次ぐ水準で、2,602ドルから2,834ドルに微増しています。
他のG7各国と遜色ない水準です。
韓国、シンガポールの伸びも大きく、それぞれ1,340ドル→2,337ドル、495ドル→1,946ドルとなっています。
新興国の中国(109ドル→698ドル)、タイ(184ドル→418ドル)、ベトナム(99ドル→217ドル)などもこの14年間で倍以上に賃金水準が引き上げられています。
2. エンジニアの月額賃金の変化
図2 エンジニア月額賃金 変化
(JETRO投資関連コスト比較調査 より)
図2にエンジニア(中堅技術者相当)の月額賃金を示します。
ドイツ、イタリア、フランスなどは大きく賃金水準が引き上げられています。
日本は4,318ドル→3,595ドルと2割近く減少しています。
2004年と2018年の為替レートによる違いはほとんどありませんので、純粋にエンジニアの単価が下がった可能性が高そうです。
2004年時点では、ドイツ、イタリア、フランスよりも高い水準だったのですが、この14年で逆転され、さらに大きく差をつけられている状況ですね。
シンガポール(1,252ドル→3,064ドル)、韓国(1,467ドル→2,702ドル)はやはり大きく上昇しています。
新興国も中国(194ドル→939ドル)、タイ(327ドル→728ドル)、インド(352ドル→610ドル)、ベトナム(262ドル→436ドル)と大きく水準が上がっています。
エンジニアの賃金では、他の主要先進国に差をつけられ、新興国に差を詰められている状況です。
3. 中間管理職の月額賃金の変化
図3 中間管理職 月額賃金 変化
(JETRO投資関連コスト比較調査 より)
図3は中間管理職(課長クラス)の月額賃金の変化です。
やはり他国の賃金水準がおおむね上昇する中で、日本の中間管理職の賃金水準は引き下げられています。
アメリカ(13,497ドル)、ドイツ(10,067ドル→10,322ドル)は極端に大きな数値です。
2018年の数値では、その後フランス(7,118ドル)、イギリス(6,503ドル)、ロシア(5,228ドル)、カナダ(5,151ドル)、イタリア(4,844ドル)が続き、日本(4,583ドル)となります。
2004年の段階では、アメリカ、ドイツに次いで、フランス(5,911ドル)、イギリス(5,770ドル)と僅差で日本(5,616ドル)が続きました。
2018年ではG7では最下位でロシアよりも低く、シンガポール(2,664ドル→4,490ドル)にも抜かれそうな勢いですね。
中国(848ドル→1,801ドル)、タイ(790ドル→1,559ドル)、インド(963ドル→1,531ドル)、インドネシア(608ドル→1,031ドル)、ベトナム(542ドル→957ドル)などの新興国も順調に水準を引き上げています。
4. 製造業における賃金構造の特徴
今回は、JETROの月額賃金データから、ワーカー、エンジニア、中間管理職における変化をご紹介しました。
14年間の変化を見てみましたが、日本のワーカーの賃金水準は先進国でも比較的高い水準を維持されている状況です。
しかし、エンジニアや中間管理職といった高い職級においては賃金水準が引き下げられ、他の先進国よりも水準は低くなり、新興国にかなり追い上げられている状況が分かりました。
かつてはエンジニアや中間管理職も高い水準であったにもかかわらず、この14年間で相対的な立ち位置が大きく低下したと言えそうです。
本来企業の競争力の源泉ともいえる技術力を担うエンジニアへの対価が安くなっているのは驚きですね。
同じ工業立国として比較される事の多いドイツの賃金水準と比べると、エンジニアで102%→57%、中間管理職では56%→44%となっています。
中間管理職はもともとの職級による格差があると思いますが、同じようなレベルだったエンジニアの賃金水準で大きく差がついてしまったようです。
あまりにも安くなってしまったエンジニアは、この先も日本では評価が低いままなのでしょうか。
エンジニアが他国に高額で引き抜かれて日本の技術が流出するといった話をよく聞きますが、このような賃金構造ではそうなっても仕方ないのかもしれません。
エンジニアが安心して技術業務に打ち込めるような環境が整っていくと良いですね。
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