187 企業の負債と経済成長 - 負債の国際比較

日本の企業は負債のうち借入金が目減りしているのが特徴です。また、統計上発行した自社の株式は負債の一部とみなされます。これら企業の負債について、国際比較により日本企業の特徴を可視化してみます。

1. 日本企業の負債

前回は、日本で変質著しい企業金融資産について、他国との比較をしてみました。
日本企業は近年金融資産を大幅に増やしていますが、各国ではそれ以上の勢いで増えているようです。

通常、企業は負債を増やして事業投資を行い、付加価値を増大させて、消費者でもある労働者への分配である賃金を増やしていきます。
ストックの面で見れば、純金融負債(Financial net worth)が増えていく存在です。
しかし日本企業の純金融負債は増えるどころか、目減りしている状況となっていました。

前回金融資産について確認しましたので、今回はもう一方の負債(Financial liabilities)に着目してみましょう。

負債 非金融法人企業 日本

図1 負債 企業 日本
(OECD統計データより)

図1が日本の企業負債です。

日本企業の負債は、1989年にピークとなりいったん減少し、その後はアップダウンしながらも停滞が続きます。
リーマンショックで一度落ち込んだ後は、基本的には増加傾向となっています。
2022年には2,130兆円となり、1989年の水準よりも600兆円増加しています。

内訳を見ると、借入(Loans)とその他が1990年代から見ると目減りしていて、株式等(Equity and investment fund shares/units)がアップダウンしながらも近年は大きく増加しています。
その他の大部分は、企業間信用・貿易信用が占めていて、金融資産側の同項目とほぼ相殺します。

国民経済計算(SNA)では、企業の株式が負債にも計上されるのが特徴的ですね。
企業の株式は株主の金融資産であり、企業にとっての負債として扱われます。

2. 企業の負債の推移

続いて、企業の負債についてドル換算値での国際比較をしてみましょう。

企業 負債

図2 企業 負債
(OECD統計データより)

図2は主要先進国の企業の負債について、ドル換算値の推移をグラフ化したものです。

アメリカは圧倒的な存在感で、右肩上がりで増大しています。
日本は1994年の時点では、アメリカとほぼ同程度の水準でしたが、その後はずっと横ばいが続いて、近年では大きな差をつけられています。

その他の国は右肩上がりで増大していますが、中でもフランスの存在感が大きいようです。
フランスは企業の金融資産も多く、企業部門の金融の動きが活発な様子が見て取れます。

3. 企業の負債の増加度合

各国の企業の負債について、増加度合いも比べてみましょう。

企業 負債

図3 企業 負債
(OECD統計データより)

図3が企業負債について、1995年を基準(1.0)にした場合の倍率(各国通貨ベース)です。

日本はほぼ横ばいが続いています。
金融資産は近年やや増加傾向で、1995年の1.5倍程度まで増加していましたが、負債はそこまで増えていないようです。
差引の純金融負債が目減りしているのは、負債が増えず、金融資産が増えているからと言えそうです。

他国は負債も右肩上がりで増えています。
ただし、イタリアはリーマンショック前から横ばいですね。
1995年の水準に対して、ドイツで2.5倍、イギリスで3倍、アメリカやフランス、カナダで5倍程度の成長です。

日本企業は負債を増やしていないという事は大きな特徴のようです。

4. 企業の1人あたり負債の推移

各国の人口で割った1人あたり企業負債も見てみましょう。

負債 1人あたり 非金融法人企業

図4 企業 負債 1人あたり
(OECD統計データより)

図4が人口1人あたり企業負債をグラフ化したものです。

日本はやはり横ばいが続いていますが、他国は右肩上がりですね。
リーマンショックあたりから、イタリアだけでなく、ドイツ、イギリスも横ばい傾向です。
イギリス、ドイツは自国通貨ベースでは成長しているので、為替の影響も大きそうです。

1995年の時点では、日本では極めて高い水準でした。
確かに円高の時期(年平均で94/ドル)なので、ドル換算値だと高めに評価されますが、それを差し引いても極めて大きな水準ですね。
1990年代のバブル崩壊後、企業の設備が高い水準であったことを思い出せば、その裏で負債が大きくなっていたという事もつじつまが合います。

5. 企業の1人あたり負債の国際比較:1997年

1人あたり企業負債について、1997年と直近での順位も眺めてみましょう。

企業 負債 1人あたり 1997年

図5 企業 負債 1人あたり 1997年

図5が1人あたりの企業の負債について、1997年の数値を大きい順に並べたグラフです。

日本は91,330ドルでこの中では3番目に大きな水準でした。
北欧諸国や人口の少ないルクセンブルクが大きな数値になるのはわかりますが、オランダが日本よりも上位であったことは意外ですね。

当時日本はアメリカやフランスなどよりも水準が大きく、ドイツの2倍以上、OECD平均値の約2倍でした。

6. 企業の1人あたり負債の国際比較:2019年

つづいて、近年の2019年の国際比較です。

企業 負債 1人あたり 2019年

図6 企業 負債 1人あたり 2019年

図6が2019年のグラフです。

日本は123,781ドルと数値としては1997年よりも大きくなってはいるものの、順位を大きく下げています。
OECD36か国中15位と中位にまで下がっていますね。
アメリカはもちろん、フランスやカナダにも抜かれ、イギリスやドイツに追い上げられている状況です。
一方でオランダは順位を落としてはいますが、かなり高い水準をキープしています。

オランダは企業の純金融負債が目減りしていて、資金過不足も日本に近い傾向の国です。

7. 企業の負債の特徴

今回は企業の負債についてご紹介しました。

企業の負債が増えるという事は、何かしらの事業投資を行っている可能性を意味しますね。
日本の企業は負債があまり増えていません、国内での事業投資から金融や海外投資へと変質している状況が今回のデータでも良くわかるのではないでしょうか。

このような企業の変質が先進国共通のものというよりも、日本特有とも言える状況のようです。
他国では企業の負債は増えています。

政府の負債や、規制・税制などに注目が集まりがちですが、企業の変質についてももっと注目されるべきではないでしょうか。
モノやサービスの値段を直接的に決めるのも、消費者でもある労働者への給与を支払うのも企業です。

統計を見る限りでは、バブル・バブル崩壊の影響も解消されてきているようです。
2010年あたりから日本企業の負債も増加傾向を続けているようにも見受けられます。
今後は、少しずつ企業活動が本来の方向性に修正されていく可能性も感じられますね。

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