202 給与水準の高い産業とは? - 雇用者1人あたり雇用者報酬

産業別の雇用者報酬を雇用者報酬で割った雇用者1人あたり雇用者報酬を平均給与として可視化し、国際比較してみます。日本の特徴が良くわかるかもしれません。

1. 産業別の平均給与とは

前回は、主要先進国の産業別労働生産性を計算しご紹介しました。
各国で産業別の特徴や傾向が見て取れたと思います。

今回は、産業別の給与水準を計算してみましょう。

OECDのデータ(National accounts)では、産業ごとの雇用者報酬(Compensation of employees)が公表されています。
雇用者報酬は、産出された付加価値のうち、労働者に分配される分となります。
具体的には、労働者に直接分配される賃金・俸給(Wages and salaries)に、雇い主の社会負担(Contribution of employers)を加えたものです。
企業側から見た人件費に相当すると考えると良いと思います。

また、OECDでは産業ごとの雇用者数(Number of employees)も公開されています。
雇用者とは企業に雇用されている労働者です。
労働者(Total employment)は、雇用者数に個人事業主(Self-employed)を加えた人数という事になります。

雇用者報酬はあくまでも雇用者に支払われた対価ですので、これを雇用者数で割れば、雇用者1人あたりの平均的な雇用者報酬を計算する事ができますね。

また、農林水産業や建設業は一般的に個人事業主の多い産業となります。
今回は雇用者を対象とした計算結果となりますので、個人事業主を除外した数値となりますのでご注意ください。

今回ご紹介する平均給与(雇用者1人あたり雇用者報酬)は次のような計算となります。

平均給与(雇用者1人あたり雇用者報酬) = 雇用者報酬 ÷ 雇用者数

今回はこのような産業別の平均給与について、まずは各国の自国通貨建てでの推移を見ていきましょう。

2. 日本の産業別平均給与

まずは日本からです。

雇用者1人あたり雇用者報酬 産業別 日本

図1 雇用者1人あたり雇用者報酬 産業別 日本
(OECD統計データより)

図1が日本の雇用者1人あたり雇用者報酬です。

今までも見てきたように、日本の平均給与は停滞傾向が続いています。

産業別に見ると、情報通信業、金融保険業が高い水準で、これは労働生産性が高い事とも共通しています。
工業は平均値よりも高い水準ですが、近年では建設業に抜かれています。

公務・教育・保健は2000年代までは工業よりも高い水準でしたが、徐々に減少し近年では平均値と同程度です。

専門サービス業は平均値と同程度、不動産業はやや上昇傾向で近年では工業と同程度、労働者数の多い一般サービス業は平均値を大きく下回ります。

日本 雇用者1人あたり雇用者報酬
2021年 単位:百万円
7.2 情報通信業
7.0 金融保険業
6.2 建設業
5.7 工業
5.5 不動産業
5.0 専門サービス業
4.8 公務・教育・保健
3.9 一般サービス業
3.1 農林水産業
2.8 その他サービス業
4.8 全産業平均

3. アメリカの産業別平均給与

続いて、アメリカの状況を見てみましょう。

雇用者1人あたり雇用者報酬 産業別 アメリカ

図2 雇用者1人あたり雇用者報酬 産業別 アメリカ
(OECD統計データより)

図2はアメリカの雇用者1人あたり雇用者報酬です。

全体的に右肩上がりで上昇しています。

産業ごとに、上位3業種、中位2業種、下位5業種が明確に分かれています。

特に専門サービス業が金融保険業や情報通信業と同程度というのが特徴的です。
逆に、生産性の割には工業がやや低めの水準ですね。

アメリカ 雇用者1人あたり雇用者報酬
2021年 単位:ドル
141,435 専門サービス業
137,197 金融保険業
136,786 情報通信業
88,593 公務・教育・保健
83,472 工業
66,426 建設業
63,749 一般サービス業
62,675 不動産業
49,471 その他サービス業
39,513 農林水産業
86,666 全産業平均

4. ドイツの産業別平均給与

続いてドイツです。

雇用者1人あたり雇用者報酬 産業別 ドイツ

図3 雇用者1人あたり雇用者報酬 産業別 ドイツ
(OECD統計データより)

図3がドイツの雇用者1人あたり雇用者報酬です。

やはり情報通信業と金融保険業が高い水準で、次いで工業となっています。
工業の水準がかなり高いのもドイツらしい特徴ですね。
ドイツは工業の労働者シェアも高いため、平均値を押し上げているような感じがします。

上位3業種以外は平均値を下回ります。
比較的公務・教育・保健が高めの水準ですが、建設業、専門サービス業と同程度です。

ドイツ 雇用者1人あたり雇用者報酬
2021年 単位:ユーロ
78,859 情報通信業
77,530 金融保険業
59,435 工業
46,528 公務・教育・保健
44,993 専門サービス業
44,792 建設業
42,189 不動産業
35,503 一般サービス業
28,158 その他サービス業
23,238 農林水産業
46,647 全産業平均

5. フランスの産業別平均給与

続いてフランスです。

雇用者1人あたり雇用者報酬 産業別 フランス

図4 雇用者1人あたり雇用者報酬 産業別 フランス
(OECD統計データより)

図4がフランスの雇用者1人あたり雇用者報酬です。

傾向は他の主要先進国と似通っています。
情報通信業、金融保険業、工業の順で水準が高く、専門サービス業、建設業、公務・教育・保健などが中程度の産業です。

近年で農林水産業がやや減少気味なのが気になりますね。

フランス 雇用者1人あたり雇用者報酬
2021年 単位:ユーロ
85,223 情報通信業
76,329 金融保険業
57,614 工業
52,249 専門サービス業
51,215 建設業
49,838 不動産業
47,681 公務・教育・保健
40,625 一般サービス業
35,499 その他サービス業
27,096 農林水産業
49,354 全産業平均

6. イギリスの産業別平均給与

続いてイギリスです。

雇用者1人あたり雇用者報酬 産業別 イギリス

図5 雇用者1人あたり雇用者報酬 産業別 イギリス
(OECD統計データより)

図5がイギリスの雇用者1人あたり雇用者報酬です。

情報通信業も水準が高いですが、それ以上に圧倒的なのが金融保険業ですね。
労働生産性(労働者1人あたり付加価値)でも金融保険業が圧倒的な水準でした。

建設業がやや高めなのも特徴的です。

イギリス 雇用者1人あたり雇用者報酬
2021年 単位:ポンド
86,145 金融保険業
69,499 情報通信業
55,348 工業
40,616 公務・教育・保健
39,005 建設業
37,939 専門サービス業
36,423 不動産業
30,875 一般サービス業
31,653 その他サービス業
23,498 農林水産業
41,198 全産業平均

7. イタリアの産業別平均給与

最後にイタリアです。

雇用者1人あたり雇用者報酬 産業別 イタリア

図6 雇用者1人あたり雇用者報酬 産業別 イタリア
(OECD統計データより)

図6がイタリアの雇用者1人あたり雇用者報酬です。

イギリスと同様に、金融保険業が突出しています。
また、2010年代まで公務・教育・保健が工業を上回っているのも特徴的ですね。
近年では停滞気味で、工業と同程度です。

一般サービス業、建設業、専門サービス業、不動産業がほぼ同じくらいの水準で推移していて、停滞気味です。

イタリア 雇用者1人あたり雇用者報酬
2021年 単位:ユーロ
73,567 金融保険業
54,135 情報通信業
45,244 工業
43,918 公務・教育・保健
36,159 建設業
34,576 専門サービス業
33,195 一般サービス業
32,611 不動産業
21,411 農林水産業
16,211 その他サービス業
37,768 全産業平均

8. 産業別平均給与の特徴

今回は、産業別の平均給与に相当する雇用者1人あたり雇用者報酬についてご紹介しました。

基本的に各国で右肩上がりに上昇しているなか、全体的に停滞しているのは日本くらいです。

各国に共通する産業ごとの特徴としては、やはり情報通信業と金融保険業の水準が高い事ですね。
続いて工業が3番目に高い水準の国も多いです。

アメリカは専門サービス業がこれらを上回りますが、他国では平均を下回る国が多いようです。

イギリスやイタリアでは金融保険業が情報通信業を大きく上回ります。
逆にフランスでは、情報通信業が金融保険業よりも一回り高い水準となっています。

日本も概ねこのような傾向ですが、公務・教育・保健が1990年代にかなり高い水準で、その後減少して平均値程度で落ち着いているという特徴がありますね。
また、近年では建設業が工業を上回っていたり、不動産業が工業と同じくらいの水準だったりと、特徴的な変化も見られます。

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